米アカマイ・テクノロジーズが2026年9月24日、Claude を開発するAnthropicと116億ドル・7年の計算資源契約を結んだと発表した。発表後の時間外取引で、同社の株価は20%超上昇したと報じられた。

ここまでなら、この1年に何度も流れた大型契約の1本である。中身が変わっているのは2点だ。ひとつは、買われたのがGPUではなくCPUだということ。もうひとつは、代金を払う側のAnthropicが、受け取る側であるアカマイの株式およそ5%分を買える権利を一緒に受け取ったことである。

Claudeを使う側から見れば、この契約は今日の請求書を変えない。変わるのは、Anthropicが「これから何にお金がかかると見ているか」の読み取り方のほうだ。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はアカマイ・テクノロジーズの公式発表(米国東部時間2026年9月24日16時01分=日本時間9月25日5時01分)と、同社が米証券取引委員会へ提出したForm 8-Kです。本記事公開時点で約7時間が経過しています。Form 8-Kの記載では契約の締結日は9月18日で、公表はその6日後にあたります。金額・株数・行使価格はすべてこの発表に記載された数値で、Anthropic側からの発表やコメントは出ていません。株価は日本時間9月25日朝までに報じられた時間外取引の値動きです。

Anthropicとアカマイの116億ドル契約とは何か

アカマイ・テクノロジーズは、動画やWebサイトを世界中に散らばった拠点から素早く届ける配信網(CDN)で知られる米国企業だ。近年はその分散した拠点をクラウドとして貸し出す事業を伸ばしている。今回の発表は、その借り手としてAnthropicが7年間で116億ドルを支払うと約束した、という内容である。

発表文によれば、この契約はAnthropicの「加速するCPUワークロードの需要」を支えるもので、アカマイの分散型インフラとソフトウェアを使う。両社は2026年5月5日付の基本契約をすでに交わしており、今回はその下に「個別計画2」「個別計画3」を追加した形になる。アカマイが5月の決算で開示した契約は7年で18億ドルだった。今回の116億ドルはその6倍を超えるが、18億ドルを含んだ数字なのか別に積み上がるのかは、発表文からは読み取れない。

項目 発表された内容
契約額(確定分) 116億ドル
期間 7年
追加できる枠 最大90億ドル(総額で約200億ドル)
対象 CPUワークロード(訓練用のGPUではない)
アカマイの設備投資 契約に伴い総額約55億ドル。うち2026年に約17億ドルを上積み
2026年の売上見通し 変更なし
Anthropicがアカマイに約束した契約額を、金額に比例した横棒グラフで比較した図。2026年5月の契約は7年で18億ドル、今回の契約は7年で116億ドル、追加枠まで使い切った場合は約200億ドル。比較のため、アカマイの2025年の通期売上42.1億ドル(1年分)を下段に別枠で示している。
116億ドル 7年間の確定した契約額
200億ドル 追加枠まで使った場合の総額
約5% Anthropicが得た株式の権利の上限
一言でまとめると──「Anthropicは、Claudeが答えを組み立てる計算ではなく、その前後で動く計算のほうを、7年分まとめて押さえました」。AIの原価の話が、GPUの外側に広がった一件です。

なぜGPUではなくCPUなのか

AIの計算資源といえば、ふつうはGPUと電力の話になる。Anthropicがこれまで結んできた契約もその形が中心で、同社の計算資源契約が11か月で最大5,170億ドルに達したという報道は今月8日に取り上げた。

今回はそこから外れている。発表文が名指ししているのはCPUで、GPUという語は一度も出てこない。

Anthropic's accelerating CPU workload demands by leveraging Akamai Cloud's distributed AI infrastructure and software

(訳)アカマイ・クラウドの分散したAIインフラとソフトウェアを活用して、Anthropicの加速するCPUワークロードの需要を支える

— アカマイ・テクノロジーズの発表文(2026年9月24日)より

CPUは、パソコンにもスマートフォンにも入っている汎用の計算装置のことだ。GPUのように同じ計算を大量に並べる用途には向かないが、手順が枝分かれする普通のプログラムを動かすのはCPUの役目になる。

この区別が契約に現れたのは、Claudeの使われ方が変わったからだと読める。文章を1回生成するだけなら、処理はGPUの上でほぼ完結する。ところがエージェント──AIが自分で手順を決め、道具を呼び出し、コードを書いて動かす使い方──になると、GPUが手を止めている時間が急に増える。生成したコードを実際に実行する、外部サービスの返事を待つ、ファイルを読み書きする。この「モデルの呼び出しと呼び出しのあいだ」に起きる処理は、どれもCPUの仕事である。

01
生成したコードを動かす

エージェントが書いたコードは、書いた時点では何も起きない。隔離した環境で実際に走らせて初めて結果が出る。この実行環境は1件ごとに用意して捨てるので、件数がそのまま必要なCPUの数になる。

02
道具の返事を待つ

検索する、ページを取ってくる、社内システムに問い合わせる。こうした呼び出しは待ち時間が長く、GPUを占有させておくには高すぎる。待ち役はCPUが引き受ける。

03
利用者の近くで処理する

1回の依頼でモデルの呼び出しが何十回も連なると、1回ごとの往復の遅れが積み上がる。世界中に拠点が散らばった配信網は、この往復を短くする土地としてもともと向いている。

つまりこの契約は、Anthropicがエージェント型の使われ方を今後7年の主戦場と見ている、という宣言に近い。訓練用のGPUをいくら積んでも、この部分の詰まりは解消しない。

支払う側が株式を受け取るという設計

もうひとつの変わった点が、契約に添えられた新株予約権(ワラント)である。アカマイはAnthropicに対し、普通株に換算して約774万株分、発行済み普通株のおよそ5%にあたる議決権のない転換優先株を、普通株1株あたり111.33ドルの行使価格で買える権利を与えた。

この権利は一度に全部が手に入るわけではなく、Anthropicが約束する金額に応じて段階的に確定する。

段階 Anthropicが約束する金額 確定する持ち分
最初の一段 116億ドル(個別計画にもとづく最初の支払い時) 約2%
以降は30億ドルごと 追加30億ドルにつき 約1%
上限まで使った場合 追加90億ドル(総額約200億ドル) 合計で約5%

約774万株を1株111.33ドルですべて買えば、支払いは約8億6,200万ドルになる。最初の約2%が確定するのは発表と同時ではなく、追加した個別計画にもとづく最初の支払いが起きたときだと、Form 8-Kには書かれている。権利そのものは、行使価格を上回って株価が育ったぶんだけ値打ちが出る仕掛けだ。アカマイの側から見れば、請求額を割り引く代わりに、自社の株が上がったときの取り分を渡している。

売り手と買い手が資本でつながる形は、この1年のAI業界にくり返し現れた。2026年7月には、NvidiaがOpenAIのデータセンター向け債務に最大2,500億ドルの保証を検討中と報じられた件を扱っている。あのときは売る側が買う側の資金繰りを支える向きだった。今回は逆向きで、売る側が買う側に自社株の値上がり益を渡している。共通しているのは、契約の額面と実際に動く現金が一致しないことだ。

ⓘ 「◯◯億ドルの契約」を読むときの3点
AI関連の大型契約は、額面がそのまま現金の移動を意味しないことが増えています。数字を見かけたら、(1)確定した分なのか上限を含めた数字なのか、(2)何年かけての総額なのか、(3)株式や債務保証が添えられていないか、の3点を確かめてください。今回の発表は116億ドルが確定分、約200億ドルが上限、そこに株式の権利が付いた形です。

116億ドルはアカマイにとってどれだけ大きいか

アカマイの2025年の通期売上は42.1億ドルだった。7年で116億ドルという契約額は、その約2.8倍にあたる。1年あたりに割り戻すと約16.6億ドルで、通期売上のおよそ4割に相当する規模になる。

貸し出す側のクラウド事業は、まだそこまで大きくない。2025年通期のクラウドインフラ事業の売上は3億1,400万ドル、直近の2026年4〜6月期は9,900万ドルで前年同期比39%増だった。4〜6月期を4倍して年換算すると約4.0億ドルになる。今回の契約が1年あたりに持ち込む約16.6億ドルは、その約4.2倍である。

アカマイの事業規模と今回の契約を1年あたりの金額に揃えて比較した横棒グラフ。クラウドインフラ事業の年換算売上は約4.0億ドル、今回の契約の1年あたりは約16.6億ドル、全事業の2025年通期売上は42.1億ドル。バーの長さは金額に比例している。

設備投資も跳ね上がる。アカマイはこの契約に対応するため総額約55億ドルの設備投資を見込み、うち2026年分として約17億ドルを上積みすると説明した。上積みの用途として名指しされたのは、メモリを含む調達部品の確保と先行購入である。アカマイの2025年通期の設備投資は8億1,800万ドルで、売上の19%だった。今回の約55億ドルは、その約6.7倍にあたる。

それでいて、アカマイは2026年の売上見通しを据え置いた。契約額は7年かけて少しずつ売上に変わるもので、今年の数字ではないからだ。発表後の時間外取引で株価が20%超上がったと報じられたのは、目先の業績ではなく、配信網の会社という位置づけそのものが書き換わったという受け止めによる。

Claudeを使う側に関係するのはどこか

先に結論を書くと、月額プランやAPIの単価が今日動くわけではない。アカマイ自身が2026年の売上見通しを変えていない以上、AnthropicのCPU費用の増え方も、いきなり利用者の値札に跳ね返る性質のものではない。関係するのは別の3か所だ。

A
上限の話は、この種の投資の先にある

エージェント利用の上限を決めているのは、GPUの数だけとは限らない。コードを走らせる場所や道具を呼ぶ土台も枠になりうる。Claude Codeの週上限が9月14日に切り替わった件で問題になったのは、まさにこの重い使い方の枠だった。

B
原価の内訳が1列増えた

これまで「AIの原価=GPUと電力」と考えて各社を比べていたなら、そこにCPUと拠点網という列が加わる。エージェント機能を厚くしている会社ほど、この列が重くなる。

C
乗り換えの摩擦が増える方向

7年契約は、その期間の使い方をある程度固定する。GitHub CopilotやCursorのように複数のモデルを選べるツールを使っているなら、裏側の土台が各社ごとに別々に育っていく前提で見ておくとよい。

⚠ すぐ確かめられる変化はない
今回の発表で、いま契約しているプランの内容が変わった箇所はありません。追いかける値打ちがあるのは、新株予約権が次に確定するかどうかのほうです。追加で30億ドル分の購入が約束されるたびに約1%ずつ確定する仕組みなので、アカマイの次の四半期決算でその開示が出れば、AnthropicのCPU需要が発表時の想定より速く伸びたことを意味します。何も動かなければ、116億ドルで当面は足りているということです。

編集部の見立て

Editor's Opinion

この契約でいちばん情報量が多いのは、116億ドルという額そのものではなく、その宛先がCPUだったことだと考えます。AIの計算資源の話は長らくGPUの奪い合いとして語られてきました。今回Anthropicが7年分まとめて押さえたのは、モデルが考えている最中ではなく、考え終わってから次に考え始めるまでの、表からは見えにくい裏方の処理です。そこに7年で116億ドルという約束が要るところまで、エージェントの使われ方が伸びたということになります。

読者にとっての意味は、各社を比べる物差しが1本増えたことです。これまでは「どのモデルが賢いか」と「1トークンいくらか」でおおむね話が済みました。これからは、そのモデルが道具を呼び出して仕事を片づける使い方に、どれだけの土台を用意しているかが加わります。同じ月20ドルでも、裏でどこまで動かしてもらえるかは会社ごとに違ってきます。

新株予約権の付け方については、評価を保留しています。売り手が買い手に自社株の値上がり益を渡す形は、見かけの契約額を膨らませやすく、外から実額を測りにくくします。今回はアカマイが公開企業で、株数も行使価格も条件も開示されているので中身を追えますが、非公開企業どうしで同じことをされたら誰にも検算できません。

そのうえで、アカマイが2026年の売上見通しを動かさなかった点は、落ち着いた対応だと受け止めています。7年の契約を初年度の期待値に変換して語らなかったぶん、後で帳尻を合わせる必要が生まれにくくなります。数字が実際に売上へ移り始めるのは、これからの四半期です。

まとめ

2026年9月24日、アカマイ・テクノロジーズがAnthropicと7年・116億ドルの計算資源契約を結んだと発表しました。追加で最大90億ドルの枠があり、使い切れば総額は約200億ドルになります。アカマイが5月の決算で開示した契約は7年で18億ドルでしたから、今回の額はその6倍を超えます。

対象はGPUではなくCPUです。発表文はAnthropicの「加速するCPUワークロードの需要」を支えると書いており、GPUには触れていません。エージェント型の使い方では、生成したコードの実行や外部の道具の呼び出しといった処理が増え、そこはCPUの担当になります。

あわせてアカマイは、普通株換算で約774万株分・発行済み株式のおよそ5%にあたる新株予約権を、普通株1株あたり111.33ドルの行使価格でAnthropicに与えました。今回の116億ドル分については、個別計画にもとづく最初の支払いで約2%が確定し、以降は追加30億ドルごとに約1%が積み上がります。支払う側が受け取る側の株式の権利を得る設計です。

アカマイの2025年の通期売上は42.1億ドル、2026年4〜6月期のクラウドインフラ事業の売上は9,900万ドルでした。今回の契約は1年あたり約16.6億ドルに相当します。設備投資は総額約55億ドルを見込み、2026年に約17億ドルを上積みします。それでも2026年の売上見通しは据え置かれました。

Claudeの月額プランやAPI単価は、この発表では動いていません。

GPUの台数を数えているあいだに、AIの原価の内訳が静かに一列増えていた。次にAnthropicが何を買うかは、Claudeがどう使われているかの写し絵になる。