OpenAI が2026年8月6日、ChatGPTの既定モデルを組み替えた。無料版とGoプランの既定モデルはGPT-5.6 Lunaに切り替わり、テキストチャットの回数上限が撤廃された。有料のPlus・ProではGPT-5.6 Solが指示・推論の両モードで既定になり、答えにどれだけ「考える時間」をかけるかを利用者が選べる推論スライダーが新設されている。
無料版が無制限になったと聞くと単純な改善に見えるが、実際には「賢さの配分」が引き直されたという話に近い。どのプランで何が変わり、どこは変わっていないのかを整理する。
何が変わったのか──無料版はLuna、有料版はSolの改定
GPT-5.6は7月9日に公開された3階層のモデル群で、上からSol(最上位)・Terra(中位)・Luna(軽量)の順に並ぶ。公開から28日後となる8月6日の改定で動いたのは、いちばん下と、いちばん上のチャット体験だった。
無料版とGoプラン(月8ドル)は、これまで既定モデルがGPT-5.5 Instantで、5時間ごとに10通程度という上限があった。上限を超えると、より簡易なモデルに自動で切り替わる仕組みだったという。8月6日以降、既定モデルはGPT-5.6 Lunaになり、テキストチャットの回数上限そのものが撤廃された。ただし画像生成・ファイルアップロード・音声機能には引き続き上限が残る。
一方でPlus(月20ドル)・Pro(月200ドル)では、これまでInstantとThinkingを手動で切り替える構成だったのに対し、改定後はGPT-5.6 Solが指示応答・推論応答の両方で既定モデルになった。同時に、ウェブ・モバイル・デスクトップのChatGPTに推論スライダーが追加され、簡単な質問は短く、企画・調査・コーディングのような重い質問にはより長く考えさせる調整が、利用者の手元でできるようになっている。
GPT-5.6 SolとLunaの違いとは
今回の改定でOpenAIは、金融・医療・法律にまたがる高難度の事実性評価で、新しいGPT-5.6 SolとGPT-5.5 Instantを比べた結果を公表している。
金融・医療・法律の分野を含む高難度の事実性評価において、少なくとも1つの事実誤りを含む回答は、GPT-5.6 SolでGPT-5.5 Instant比「68%」少なく、GPT-5.6 Lunaでも「62%」少なかった。
数字の中身には注意がいる。比較対象は旧世代のGPT-5.5 Instantであり、改定前のGPT-5.6同士の比較ではない。つまり「Solの精度がLunaより68%高い」という意味の数字ではなく、「それぞれが自分の旧世代からどれだけ良くなったか」を示す数字だ。SolとLunaのあいだにどれだけ精度差が残っているかは、この発表だけでは分からない。加えてこの評価はOpenAI自身が実施したものであり、第三者による再検証はまだ出ていない。※観測として扱うのが妥当だろう。
Plus・Proの既定。指示応答・推論応答の両方をこの1モデルでまかなう構成になり、答えの詳細さを質問内容に応じて自動で調整するよう再チューニングされた。過剰な見出しや箇条書きを減らす方向の調整も加わっている。
Free・Goの既定。軽量モデルながら事実性評価の改善は受けており、回数無制限という条件と組み合わさることで、無料版の使い勝手を底上げする役回りになっている。
推論スライダーが有料版に加わった理由
これまでPlus・Proのユーザーは、普段使いの「Instant」と、じっくり考える「Thinking」を自分でモデル選択メニューから切り替える必要があった。今回追加された推論スライダーは、この切り替えを1本の目盛りに統合したものだ。低めに設定すれば雑談や定型の質問向けの短い応答になり、高めに設定すると企画立案・リサーチ・コーディングのような重い作業向けに、より長く考えてから答えるようになるという。
GPT-5.6 Solは7月時点では段階的な先行公開の扱いで、アクセスが絞られていた経緯がある。今回の改定でPlus・Pro全体の既定モデルに格上げされたことになる。モデルを分けて選ばせるのではなく、1つのモデルの中で「考える深さ」だけを利用者に渡す設計は、モデル名を覚えなくても使いこなせるようにする狙いだと読める。
10代ユーザー向けに敷かれた新しい境界線
今回の改定にあわせて、OpenAIはGPT-5.6 Solの安全性トレーニングについてもシステムカードで詳細を公開した。柱になっているのは、18歳未満とみられる利用者に対する専用の振る舞いだ。
10代である可能性が高いアカウントを検知する年齢予測モデルを新設し、該当するアカウントにはより厳しい制限を自動的に適用するとしている。
恋愛的なロールプレイ、年齢制限のあるチャレンジ行為、AIを人間関係の代替として位置づける応答を避けるよう学習させたと説明している。
性的な内容、摂食障害・体型に関する話題、年齢制限のある商品、危険行為、暴力描写について年齢に応じた線引きを加え、実生活で頼れる大人につながるよう促す応答を組み込んだという。
無料版が無制限になったタイミングと同じ日に、こうした安全側の変更が重なっているのは偶然ではないだろう。利用者数が増えるほど、10代の利用も増えるという前提に立った設計だと見られる。
結局、あなたはどのプランを選ぶべきか
なお、モデルの世代交代そのものが速いことは他社も同じで、Anthropicも先日Opus 4.1の退役ペースを縮めていることを伝えた。API向けの価格改定という切り口では、7月31日に開発者向けLunaの価格が5分の1になったことも既に紹介した。今回はその同じLunaが、無料ユーザーの入口としての役割を担うことになった格好だ。
編集部の見立て
今回の改定で興味深いのは、「無料版の上限撤廃」という分かりやすい見出しの裏で、有料版にはむしろ手間が1つ増えている点だと考えます。これまでモデル名を選ぶだけで済んでいたPlus・Proの利用者は、これからはスライダーという新しい変数の扱い方を覚える必要があります。無料化は単純な引き算ですが、有料側の変更は足し算に近い設計です。
事実誤りが68%減ったという数字も、額面通りに受け取るには一段階の読み替えが必要だと感じます。比較対象は改定前のSol自身ではなく、旧世代のGPT-5.5 Instantです。今のSolがどれだけ賢くなったかではなく、去年の物差しからどれだけ離れたかを示す数字だと捉えたほうが、期待値の置き方を誤りません。
10代向けの安全対策が同じ日に発表された点も見逃せません。無料版の敷居を下げる決定と、年齢に応じた境界線を引く決定が同時に来たのは、利用者の裾野が広がるほど守るべき範囲も広がるという、規模の拡大につきまとう宿題を、OpenAIが同じタイミングで片付けにきたということでしょう。
次にモデル名や上限が動くとしたら、注目すべきは無料版のThinkボタンが実際に展開される日と、そこにどんな回数制限が付くかです。無制限をうたった直後に別の制限が追加されるパターンは、これまでも他社で起きています。
まとめ
2026年8月6日、OpenAIはChatGPTの既定モデルを組み替えました。無料版とGoプランの既定はGPT-5.6 Lunaになり、テキストチャットの回数上限が撤廃されました。Plus・Proでは既定モデルがGPT-5.6 Solになり、答えの「考える深さ」を利用者が調整できる推論スライダーが新設されています。
金融・医療・法律にまたがる高難度の事実性評価では、旧世代のGPT-5.5 Instant比でSolの事実誤りが68%、Lunaの事実誤りが62%それぞれ減ったとOpenAIは説明しています。ただしこれは自社評価であり、比較対象は改定前のSol自身ではなく旧世代モデルである点には注意が必要です。同時に、18歳未満とみられる利用者向けの年齢予測と行動制限も強化されました。
画像生成・ファイルアップロード・音声機能の上限は無料版でも残っており、「テキストチャットのみ無制限」という条件付きの変更です。
無料版のThinkボタンなど、発表時点でまだ展開前の変更も残っています。今後の展開状況は、次の便以降でも追いかけていきます。