8月6日、DeepSeekは開発者向けに「API料金を近く大幅に引き上げる」とだけ告げ、金額も実施日も伏せていた。その予告を扱った記事の最後に、私たちは「そこに並ぶのは、引き上げ率と実施日という2つの数字だ」と書いた。

その2つが8月13日に出た。実施は日本時間の8月17日午前1時(協定世界時16日16時)。引き上げ幅は、モデルと課金項目と時間帯の組み合わせによって50%から1,100%超までばらつく。

ただ、この件でいちばん重いのは率の大きさではない。料金表の形そのものが変わったことのほうだ。DeepSeekは一律の単価をやめ、時間帯によって値段が2倍に切り替わる仕組みへ移る。1年続いた「使えば使うほど安くなる」前提の下に、「いつ使うか」という軸が1本増える。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はDeepSeekが公表した新料金表と、それを報じたBloomberg・Fortune・Quartz・InfoWorld(いずれも2026年8月13日)です。本記事公開時点で約15〜20時間が経過しています。新料金はまだ適用前で、本文の「現行」はすべて2026年8月14日時点の価格です。ここで扱う金額は開発者向けAPIの公表価格で、ChatGPTやClaudeの月額プランの話ではありません(この違いは第6章で整理します)。

DeepSeekの新料金はいくらか──ピークとオフピークの全表

まず用語をひとつだけ。トークンとは、AIが文章を処理するときの単位で、日本語ならおよそ1文字が1〜2トークンにあたる。API価格はこの100万トークンあたりの金額で示され、AIに読ませる側が「入力」、AIが書く側が「出力」である。

DeepSeekの現行価格は一律で、軽量モデルのV4-Flashが入力0.14ドル・出力0.28ドル、上位のV4-Proが入力0.435ドル・出力0.87ドル(入力はいずれもキャッシュ未命中時)。8月17日からは、ここにピークとオフピークの2枚の値札が入る。

100万トークンあたり 現行(一律) 新・オフピーク 新・ピーク
V4-Flash 入力 0.14ドル 0.22ドル 0.44ドル
V4-Flash 出力 0.28ドル 0.66ドル 1.32ドル
V4-Pro 入力 0.435ドル 0.66ドル 1.32ドル
V4-Pro 出力 0.87ドル 1.98ドル 3.96ドル
DeepSeekの出力価格を現行・新オフピーク・新ピークの3本並べた横棒グラフ。100万トークンあたりV4-Flashは現行0.28ドル、オフピーク0.66ドル、ピーク1.32ドル。V4-Proは現行0.87ドル、オフピーク1.98ドル、ピーク3.96ドル。バーの長さは金額に比例しており、ピークのバーがオフピークのちょうど2倍になっている。

表の読み方は2段構えになる。まず一律だった値札がオフピークの水準まで上がり、そのうえでピーク帯はオフピークのちょうど2倍が課される。V4-Flashの出力でいえば、0.28ドルが0.66ドルになり、ピーク帯では1.32ドル。現行との比較では約4.7倍である。

上げ幅がいちばん小さいのはV4-Proの入力で、0.435ドルからオフピーク0.66ドルへ。約1.5倍にとどまる。報道が伝える「50%から1,100%超」という幅の、下端がここにあたる。

8/17 1:00 新料金の適用開始(日本時間)
2倍 ピーク帯とオフピーク帯の価格差
7時間 1日のうちピーク帯にあたる長さ
一言でまとめると──「安さの理由が、モデルの性能から時計に移った」。同じモデルに同じ処理をさせても、走らせる時刻によって請求額が2倍変わる料金表になります。

ピーク時間帯は日本時間の10時〜13時と15時〜19時

DeepSeekが定めたピーク帯は、協定世界時で01:00〜04:00と06:00〜10:00。中国標準時では09:00〜12:00と14:00〜18:00にあたり、要するに中国の勤務時間帯である。それ以外のすべての時間がオフピークになる。

日本の利用者にとって不都合なのは、日本標準時が中国標準時のわずか1時間先だという点だ。日本時間に直すと、ピーク帯は10:00〜13:00と15:00〜19:00。日本の一般的な就業時間である9時から18時のうち、6時間がそのままピーク帯に重なる。しかも19時までは高いままで、時差でずらして逃げる余地がほとんどない。

日本時間の24時間帯にDeepSeekのピーク料金帯を重ねた帯グラフ。ピーク帯は10時から13時までと15時から19時までの合計7時間で、残りの17時間はオフピーク。その下に日本の一般的な就業時間9時から18時の帯を並べており、就業時間9時間のうち6時間がピーク帯と重なっていることを示している。

裏を返せば、逃がせる仕事の逃がし先ははっきりしている。日本時間の19時以降から翌朝10時まではまるごとオフピークで、夜間バッチや早朝の定期処理はここに収まる。13時から15時までの2時間も谷になっている。人が画面の前で待っている処理はピーク帯に落ち、人が待っていない処理は動かせる——料金表がこの線引きを、そのまま金額の差として突きつけてくる形になった。

💡 まず確認する一点
自社のバッチ処理が何時に走っているかを、いま一度見ておく価値があります。日次の集計やインデックス再構築を「業務時間中の空いた時間」に置いている場合、それは日本時間の10時台や15時台であることが多く、8月17日以降はそこが最も高い時間帯になります。cronの時刻を数時間ずらすだけで単価が半分になるなら、これは設定変更1行で済む節約です。

GPT-5.6 Lunaとの上下が、ピーク帯だけ入れ替わる

この値上げが業界全体の話になるのは、DeepSeekの値札が長らく他社の値付けの下限を押さえてきたからだ。7月30日にOpenAIがGPT-5.6 Lunaを80%引きにして出力1.20ドルまで下げたのも、下から押し上げられた結果だったと読める。

その関係が、8月17日から時間帯によって入れ替わる。

低価格帯モデルの出力価格を短い順に並べた横棒グラフ。100万トークンあたりDeepSeek V4-Flash現行0.28ドル、同オフピーク0.66ドル、GPT-5.6 Luna 1.20ドル、DeepSeek V4-Flashピーク1.32ドル、Gemini 3.5 Flash-Lite 2.50ドル。V4-Flashのピーク価格がGPT-5.6 Lunaのバーをわずかに追い越している。

V4-Flashのピーク時の出力は1.32ドル。GPT-5.6 Lunaの1.20ドルより高い。入力側も0.44ドル対0.20ドルで、DeepSeekのほうが上に来る。日本時間の平日昼にAPIを叩いている限り、DeepSeekは「安いほうの選択肢」ではなくなる

一方でオフピーク帯に回せば出力0.66ドルで、Lunaの半分近くに収まる。同じ月の同じモデルが、時刻によって競合の上にも下にも来る。価格表を1枚眺めて優劣を決める、という比べ方が成立しなくなったということだ。

ℹ 上位モデル側の景色は変わらない
今回動いたのは低価格帯だけです。上位モデルの出力価格は、GPT-5.6 Solが30.00ドル、Claude Fable 5が50.00ドル。DeepSeek V4-Proはピーク帯でも3.96ドルなので、この帯との開きは値上げ後も大きく残ります。安さで殴り合っているのはあくまで下の階層で、上の階層の値付けは別の論理で動いています。

参考までに、Gemini 3.5 Flash-Liteの出力は2.50ドル。DeepSeekはピーク帯でもまだこの下にいる。「最安ではなくなる」のではなく、「いつでも最安ではなくなる」というのが正確な言い方になる。

いちばん上がるのは「同じ文章を繰り返し送る」使い方

「1,100%超」という上げ幅の上端がどこにあるのかを見ると、この改定の設計意図がわかる。上端はキャッシュ命中分の入力単価にある。

キャッシュ命中とは、直前と同じ書き出し(システムプロンプトや長い参考資料、少数例のサンプル群など)が繰り返し送られてきたときに、その重複部分を安く数える仕組みのことだ。同じ社内マニュアルを毎回頭に付けて質問するような使い方では、料金の大部分がここに乗る。DeepSeekはこのキャッシュ命中分を極端に安く設定していて、それが「長い文脈を持たせても安い」という同社の評判を支えていた。

新料金では、V4-Proのキャッシュ命中入力がオフピークで6倍、ピーク帯では12倍になる。他の課金項目の引き上げが1.5倍から4.7倍の範囲に収まっているのと比べると、ここだけ突出している。

01
安さの源泉だった部分が正価に近づく

長い前提文を毎回持たせる設計は、DeepSeekでは事実上ただ同然だった。そこが正価に寄れば、「とりあえず全部読ませる」という富豪的な組み方は割に合わなくなる。

02
重い設計ほど値上げ率が高く出る

出力の短いチャットボットより、長大な文脈を積むRAGや文書要約のほうが打撃が大きい。同じ会社の同じモデルでも、使い方によって請求額の伸び方がまるで違う。

03
計算資源の配分という説明と符合する

キャッシュはGPUのメモリを占有し続ける。混雑時に高くするという今回の方針は、時間帯だけでなく課金項目の側にも一貫して現れている。

⚠ 「うちは影響が小さい」と判断する前に
値上げの影響を見積もるとき、出力の単価だけを見ると読み違えます。長い共通プロンプトを毎回送る作りになっていると、トークン数の大半は入力側、それもキャッシュ命中分に寄っているためです。直近1か月の請求明細を、出力・入力・キャッシュ命中の3つに分けて出し直すところから始めてください。比率が分かって初めて、自分の請求書がどの倍率で伸びるのかを計算できます。

なぜ上げたのか、そして同じ週に出た新モデル

DeepSeek自身の説明は、計算資源の配分を改善し、利用者に負荷の少ない時間帯へ処理を移してもらうため、というものだ。実際、時間帯別料金は電力やクラウドでは珍しくない手法で、混雑を価格で均す狙いははっきりしている。報道側はこれを、需要が供給能力を圧迫している状況の表れとして伝えている。

もうひとつ、値上げの文脈として繰り返し挙げられているのが株式公開の観測だ。Bloombergは今回の改定を、上場の可能性を控えた動きとして位置づけている。原価割れに近い価格で規模を取りにいく段階から、収益性を見せる段階へ切り替えたという読み筋である。ただし上場そのものは正式に発表されておらず、※観測の域を出ない。

値上げの説得力を補強する材料も、同じ週に出ている。DeepSeekは新料金の公表とほぼ同時に、上位モデルの正式版「V4-Pro-0813」を既存のAPI名の下で提供し始めた。道具を使い、コードを実行し、複数手順の作業を人手なしで進めるエージェント用途に重心を置いた版だとされ、同社はこの領域のベンチマークで大幅な改善を公表している。ただし公表値はいずれも自社計測で、第三者による独立検証は本稿執筆時点で確認できない。※観測として扱うのが妥当である。

あわせて、エージェントの実行環境「DeepSeek Harness」がMITライセンスの開発者プレビューとして公開された。Claude CodeやCodexと同じ土俵に、無料で持ち込める道具を置いたことになる。値上げの発表と同じ日に、無料のものを配る。ここに矛盾はなく、課金する場所を「モデルを呼ぶ回数」に絞り込んでいると読むほうが筋が通る。

値上げと同時に「値上げしても割に合う」と言えるだけの性能改善を出す。この順番は、DeepSeekが価格だけで選ばれる立場から降りようとしていることを示している。安さで選ばれてきた会社にとって、いちばん危ういのは値上げそのものではなく、値上げした後も安さ以外の理由を提示できないことのほうだ。

— 編集部

あなたの請求書のどこが変わるか

ここまでの金額は、すべて開発者向けAPIの公表価格である。日常的にAIを使っている人にとって、どこが動いてどこが動かないのかを分けておきたい。

A
月額プランの利用者:変わらない

ChatGPTやClaude、Geminiの月額プランは今回の改定と無関係だ。DeepSeekのチャットアプリを無料で使っている場合も、API価格とは別の話になる。

B
DeepSeek APIを直接使っている人:8月17日から

日本時間8月17日午前1時をまたいだ時点から新価格が適用される。日中に走らせている処理が多いほど、伸び方は大きくなる。

C
中継サービス経由の人:反映は事業者次第

OpenRouterのような中継や、DeepSeekを裏側で使うツールでは、時間帯別料金をそのまま転嫁するか平均値でならすかが事業者ごとに分かれる。自分が使っているサービスの告知を確認したい。

D
乗り換えを検討している人:比較の前提が変わる

「DeepSeekは他社より安い」という一行で判断していた場合、その前提は8月17日で条件付きになる。比較表を作るなら、自分の処理が走る時刻を先に決めてからでないと数字が出ない。

乗り換え先を探すなら、V4-Flashのピーク価格1.32ドルが1つの目安になる。この水準ならGPT-5.6 Lunaの1.20ドルが視野に入り、両者の差は単価ではなく日本語の扱いや応答速度といった中身の比較に移る。逆に処理を夜間へ寄せられるなら、0.66ドルという値札は依然として強い。選択肢が減ったのではなく、選ぶ前に決めておくべきことが1つ増えたという捉え方が近い。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の改定でいちばん見落とされそうなのは、率でも金額でもなく、料金表に時計が入ったことだと考えています。これまでAIの単価表は、モデル名と入力・出力の2軸で読めました。これからはそこに「何時に走らせるか」が加わります。表が1次元増えるというのは、比較する側にとって軽くない負担です。

その負担は、大きな会社ほど吸収できます。処理を時間帯で振り分ける仕組みを持っている組織なら、オフピークに寄せて単価を半分にできるからです。逆に、個人開発者や小さなチームが業務時間中に手元で叩く使い方では、ピーク価格をそのまま払うことになります。同じ料金表なのに、規模によって実効単価が変わる——時間帯別料金には、そういう性質があります。

もうひとつ、キャッシュ命中の12倍という数字が気になっています。ここはDeepSeekが「長い文脈を安く扱える」と言うときの根拠そのものでした。値上げ幅がこの項目に集中しているということは、同社の安さのうち、いちばん維持しにくかった部分がここだったと読めます。技術の作り込みで支えられた安さと、資本で支えられた安さは別物だと前回書きましたが、今回の内訳はその答え合わせに近いものでした。

そのうえで、この改定を「値下げ競争の終わり」と読むのは早いと考えています。DeepSeekが降りた分の空席は、今のところ他社が埋めにきていません。8月17日以降にその席へ誰かが座るのか、それとも下限そのものが1段上がったまま定着するのか。判断できる材料は、まだ出そろっていません。

まとめ

2026年8月13日、DeepSeekがAPIの新料金を公表しました。適用は日本時間8月17日午前1時(協定世界時16日16時)からで、一律だった単価がピークとオフピークの2段構えに変わります。

V4-Flashの出力は100万トークンあたり0.28ドルから、オフピーク0.66ドル・ピーク1.32ドルへ。V4-Proの出力は0.87ドルから、オフピーク1.98ドル・ピーク3.96ドルへ上がります。ピーク帯はオフピーク帯のちょうど2倍で、上げ幅はモデルと課金項目により50%から1,100%超まで幅があります。

上げ幅の上端にあたるのはキャッシュ命中分の入力単価で、V4-Proではピーク帯で12倍、オフピークでも6倍になります。

ピーク帯は日本時間の10時〜13時と15時〜19時。日本の就業時間とほぼ重なります。この時間帯のV4-Flashの出力1.32ドルは、GPT-5.6 Lunaの1.20ドルを上回ります。オフピークの0.66ドルなら依然として下です。

DeepSeekは計算資源の配分改善を理由に挙げています。上場を控えた動きとする報道もありますが、正式発表はなく※観測です。同じ週に一般提供へ移ったV4-Pro-0813の性能改善も自社公表値のみで、第三者検証は確認できていません。ChatGPT・Claude・Geminiの月額プランは、今回の件とは無関係です。

次に見るべきは、8月17日をまたいだ最初の請求明細です。総額ではなく、消費トークンのうち何割が日本時間10時〜13時と15時〜19時に落ちていたか。その比率が、cronの時刻を動かすだけで済む話なのか、モデルごと選び直す話なのかを決めます。