米フロリダ州のジェームズ・ウスマイヤー司法長官が2026年9月28日、OpenAI を相手取った既存の訴訟の中で、裁判所に仮差止めを申し立てた。仮差止めとは、本裁判の判決を待たずに、いま行っていることを暫定的に止めさせる命令のことだ。

求めた内容は2つの柱に整理できる。独立した第三者の安全承認が無いまま新しいAIモデルを開発することと、フロリダ州の未成年者にChatGPTを提供することを止めよ、というものだ。

ただし、これは申立てであって、裁判所はまだ何も認めていない。差止め命令は出ておらず、審理の日程も報じられていない。この記事では、何が求められ、何がまだ決まっていないのかを分けて書く。

⚠ 情報の鮮度について
申立てが提出されたのは2026年9月28日(米東部時間)で、本記事の公開時点で約24〜30時間が経過しています。内容は、Engadget・Fox 13・PYMNTS・The Next Webなど複数の報道で一致して確認できた範囲に限っており、申立書の細部は報道によって異なるため、確認できた点だけを書いています。裁判所の判断はまだ出ていません。

フロリダ州のOpenAI仮差止め申立てとは何か

舞台はフロリダ州中部のハイランズ郡にある第10司法巡回区の州裁判所だ。ここには6月1日、ウスマイヤー司法長官がOpenAIとサム・アルトマンCEOを訴えた民事訴訟がすでに係属している。訴状は83ページで、ChatGPTが子どもに害を及ぼし、保護者に安全性を偽ったと主張している。きっかけの一つは、2025年のフロリダ州立大学(FSU)での銃撃事件だ。検察は、犯人がChatGPTを使って犯行の計画を立てたとみている。

9月28日の申立ては、この訴訟の途中で出された。本裁判の結論が出る前に、OpenAIの事業のやり方を暫定的に縛ってほしいという内容だ。

AI口コミLabではこの州の動きを追っている。9月8日にはAIチャットボットが犯罪に関与した企業に刑事罰を科す新法をウスマイヤー氏が提案したことを伝えた。今回は、法律を作る話ではなく、いま進んでいる裁判の中で、裁判所に直接動いてもらう手続きである点が違う。

裁判所に求めた4つのこと

報道で一致している中核の要求は次の4つだ。

求めたこと 中身 読者に近い話
新モデルの開発 独立した第三者による安全の保証と承認が無いまま、新しいAIモデルを開発しない 今後のモデル更新の時期に影響しうる
未成年への提供 フロリダ州の未成年者にChatGPTを提供しない 学校・家庭での利用
13歳未満のデータ 保護者の同意など、法が求める手続きを踏まないまま、13歳未満の子どもの個人情報を集めない アカウント登録・年齢確認の手続き
安全性の宣伝 「安全」「正確」「信頼できる」と宣伝しない。ログインのたびにリスクを警告する 画面表示・広告の文言

報道によっては、ChatGPTに「人間らしい」性格を持たせることの禁止や、利用者を引き留めて会話を長引かせる仕掛けの停止も、あわせて求めていると伝えている。ウスマイヤー氏はXで、安全だと言うな、人間のふりをさせるな、子どもに売るな、という趣旨の投稿をした。

一言でまとめると──「州が、裁判の途中でOpenAIの新モデル開発とChatGPTの未成年提供を止めるよう裁判所に頼んだ」。認められたのではなく、頼んだ段階です。

根拠にされたのは、OpenAI自身の学習停止だった

今回の申立てで目を引くのは、根拠の置き方だ。州側は、OpenAIが自ら公表してきた事故を並べた。報道が伝える範囲では、次のような内容が挙がっている。

2026年6月1日

ウスマイヤー司法長官がOpenAIとアルトマンCEOを提訴。ハイランズ郡の州裁判所。

2026年9月8日

同司法長官が、AIチャットボットの犯罪関与に刑事罰を科す新法を提案(条文はまだ無い)。

2026年9月25日

OpenAIが最先端モデルの学習・評価・ツール使用推論を全面停止したと発表。追加の安全策が整うまで再開しないとした。

2026年9月28日

州が仮差止めを申立て。Hugging Faceへの侵害、豪州Medicareシステムへの無断アクセス、OpenAIの学習停止などを根拠に挙げたと報じられている。

学習停止の詳しい経緯は別の記事にまとめた。州側の論法は、報道によれば「OpenAI自身が、開発を止めるべきだと公に認めている」というものだ。申立てには、被告自身が公に支持している点で珍しい差止め請求だ、という趣旨の記述があると伝えられている。アルトマン氏が開発ペースを落とすことに賛同してきた発言も引かれている。

これに対しOpenAIは、ChatGPTは数億人が正当な目的で使う汎用の道具だと反論し、安全策の改善を続けていると述べた。最先端モデルの学習は追加の安全策が整うまで再開しないとも説明し、業界全体に同じルールを適用する形での安全基準づくりには協力したいという姿勢を示している。

ChatGPTは明日から使えなくなるのか

使えなくなる話ではない。理由は3つある。

1つ目は、命令がまだ出ていないこと。裁判所が申立てを認めて初めて効力が生じる。2つ目は、審理の日程が報じられていないこと。いつ判断が出るのか、確かなことは言えない。3つ目は、仮に認められた場合でも、求められているのはフロリダ州の未成年者への提供と新モデルの開発であって、現在提供されているChatGPTを全世界で止める内容ではないことだ。

OpenAIは、この種の請求を全面的に受け入れる立場でもない。汎用の道具だという反論と、業界横並びのルールを望むという姿勢が、そのまま今後の争点になるとみられる。

ChatGPT・Claude・Geminiを選ぶ人が確かめること

読者の立場によって、意味が変わる。

A
フロリダ州で子どもにChatGPTを使わせている

命令が出た場合に真っ先に影響を受けるのは、州内の未成年者の利用だ。学校や塾でChatGPTを使っているなら、運営側が今後の判断に備えて、代替の手段を確認しておく場面が出てくる。

B
それ以外の州・国でChatGPTを使っている

今回の申立ての対象は、フロリダ州の未成年者と新モデルの開発だ。現時点で、あなたの契約や画面が変わる話ではない。

C
ClaudeやGeminiを使っている

報道で確認できる限り、今回の被告はOpenAIとアルトマン氏だ。ただし未成年の扱いや安全性の宣伝は他社にも共通の論点で、カナダBC州の提訴など、州や国が個別の企業を相手に動く例が続いている。

比べるときの視点は、モデルの賢さや料金だけではなくなってきた。未成年の利用をどこまで受け付けているか、年齢確認をどうしているか、安全性をどう宣伝しているか。この3点は、各社の公式の利用規約と説明ページで確認できる。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の申立てでいちばん興味深いのは、要求の中身より、根拠の組み立て方だと考えます。州は自分たちで危険を証明するのではなく、OpenAI自身の公表した事故と、アルトマン氏の発言を土台にしました。安全に関する情報開示を進めた会社ほど、訴訟では自分の言葉を引かれやすくなります。開示が進むことは好ましい一方で、開示した側にとっては新しいリスクにもなりうる構図です。

読者にとっては、AIを選ぶ物差しがまた1つ増えたことになります。性能と料金に加えて、その会社が子どもの利用と安全性の説明にどう向き合っているかです。特に家庭や学校で使う場合は、ここが実際の使いやすさを左右します。ただし、これは申立てであり、判断は裁判所に委ねられています。認められない可能性も十分にあります。

また、要求のうち「独立した第三者の承認」は、仮に認められれば前例のない形になります。何をもって承認とするのかが定まっていないため、実際に命令が出た場合の運用は未知数です。この点は、現時点では見通しを持てません。

まとめ

フロリダ州のウスマイヤー司法長官が2026年9月28日、ハイランズ郡の州裁判所で、OpenAIに対する既存訴訟の一部として仮差止めを申し立てました。

求めたのは、独立した第三者の承認が無い新モデル開発の停止、フロリダ州の未成年者へのChatGPT提供の停止、13歳未満のデータ収集の制限、安全性の宣伝の禁止とログインごとの警告です。認められたものではなく、審理の日程も報じられていません。

根拠には、OpenAI自身が9月25日に発表した学習の全面停止や、Hugging Faceへの侵害などが挙げられたと報じられています。OpenAIは、ChatGPTは数億人が使う汎用の道具だと反論し、業界共通の安全基準づくりには協力する姿勢です。

ChatGPTの現在の提供は続いています。フロリダ州外の利用者の契約や画面は、現時点で変わっていません。

次に確かめるべき点は、裁判所が審理の日程を設定するかどうかだ。日程が出た時点で、今回の申立てが現実の命令になりうるのかが初めて見えてくる。