AIチャットボットの安全を守るはずの州法に、最も使われている製品ほど対象外になりうる抜け穴が仕込まれていた。米NPRが2026年9月18日に報じた調査によれば、Googleは複数の州でAIチャットボット規制法案の起草を後押ししており、その多くにChatGPTやGitHub Copilot、Claudeが「開発者・研究者向け製品」を理由に適用除外を主張できる文言が含まれている。自社のGeminiについても、「検索エンジンに組み込まれたチャットボット」という別枠の除外規定が使える形になっていた。
規制の対象は、未成年ユーザーへの性的な誘導や自傷行為の助長、なりすましといった行為だ。ここ数年、こうした被害を訴える訴訟が全米で急増しており、NPRの集計では少なくとも75件がAI企業を相手取って係属中だという。法律を急いで作る側と、その条文を事前に形作る側が同じ業界だった、という構図が今回の調査の核心にある。
何が起きたのか──Googleが州法の起草に関わっていた
コロラド州は2026年5月29日、「チャットボット安全法」(HB 26-1263)を成立させた。未成年ユーザーの年齢推定、AIであることの開示、自傷・自殺をめぐる応答プロトコルの整備などを事業者に義務づける内容で、一見すると利用者を守るための法律だ。施行は2027年1月1日を予定している。
だがNPRの取材によれば、この法案は州内の非営利団体ヘルシアー・コロラドとの協働で書かれ、法文には12の適用除外カテゴリが盛り込まれている。その中には「開発者または研究者向けに主として設計・販売された製品」と「検索エンジンに組み込まれたチャットボット」という2つの項目がある。前者はChatGPT・GitHub Copilot・Claudeが、一般消費者にも広く使われながら適用除外を主張できる余地を生み、後者はGoogle自身のGeminiに当てはまりうる。
AIチャットボット規制法の「適用除外」とは──4つの抜け穴
NPRが州をまたいで法文を照合したところ、似た適用除外の文言は少なくとも10州の法案に見つかった。アイダホ・ネブラスカ・ニュージャージー・オクラホマなど少なくとも8州には、「他のソフトウェア・アプリケーション・ウェブインターフェースの中の一機能」という、ほぼ同一の除外文言が使われている。整理すると、主な抜け穴は次の4種類になる。
| 適用除外の種類 | 対象になりうる製品・サービス | 根拠 |
|---|---|---|
| 開発者・研究者向け製品の除外 | ChatGPT / GitHub Copilot / Claude | 元は開発者・研究者向けに設計・販売された製品だと主張できる |
| 検索エンジン内蔵チャットボットの除外 | Gemini | 検索エンジンに組み込まれた「プラットフォーム内プラットフォーム」に該当しうる |
| 他ソフトウェア内の「一機能」の除外 | 他の製品・サービスに埋め込まれる対話機能全般 | 少なくとも8州の法案にほぼ同一の文言 |
| 商取引・カスタマーサポート支援の除外 | 企業向けの業務支援チャットボット全般 | コロラド州法など複数州の法案が定める除外カテゴリの一つ |
ハワイ州だけが抜け穴を外した理由
すべての州が同じ結末をたどったわけではない。ハワイ州のトリシュ・ラチカ州下院議員はNPRの取材に対し、法案の骨子は会期の早い段階でGoogleのロビイストから示されたものだったと明かしている。「プラットフォームの中のプラットフォーム」という除外の表現がGemini自身にも当てはまりうる点を、州議員本人が指摘した形だ。
ラチカ議員はこの法案の提出者にはならず、審議の過程でロビイストが提案していた適用除外の条項は取り除かれた。成立した法律は「Act 248」として、除外規定を持たない形で州知事の署名を受けている。同じ雛形から出発しても、審議の過程で骨抜きにされるかどうかは州ごとに分かれた、という実例になる。
Googleはこの件についてNPRに対し、消費者を保護しながらイノベーションを促す、思慮深く実効性のあるAI法制の策定を支持する立場であり、議員や業界、市民団体と積極的に協力していると説明している。適用除外を意図的に仕込んでいるという指摘そのものへの直接の反論にはなっていない。
なぜ規制が急がれているのか──全米75件超の訴訟
各州が急いで法律を作っている背景には、AIチャットボットをめぐる訴訟の急増がある。NPRが裁判記録を調べたところ、連邦・州の裁判所に少なくとも75件の訴訟が起こされており、多くが未成年の被害を主張する内容だという。
2025年4月11日に死亡。両親は2025年8月、ChatGPTとの対話が自殺の一因だったとしてOpenAIを提訴した。訴状はChatGPTが自殺メモの下書きを申し出たと主張している。
2025年10月に死亡。遺族は2026年3月、Geminiとの関係が暴力行為をあおったとしてGoogleを提訴した。
2024年に死亡。Character.AIをめぐる訴訟は2026年1月に和解が成立しており、AIチャットボット関連訴訟の先行事例にあたる。
これらの訴訟の被告はOpenAI・Google・Character.AIであり、各州の規制法が主に想定している対象とも重なる。その同じ顔ぶれが、自分たちを縛るはずの法律の条文づくりに関わっていた、というのが今回の報道の要点になる。
ChatGPT・Claude・Geminiの適用除外はどう違うか
読者にとって重要なのは、州法が「守ってくれるはず」という前提をそのまま信じないことだ。仮に住んでいる州で未成年保護を掲げるチャットボット法が成立していても、条文の適用除外に該当すれば、実際に事業者が義務を負うかどうかは製品ごと・州ごとに変わる。コロラド州法自体、施行はまだ2027年1月1日からで、除外規定を巡る解釈は今後の規則制定でさらに動く可能性もある。
この点で頼りになるのは、州法の建前ではなく各社が自主的に設けている安全機能そのものだ。ChatGPTは13〜17歳を自動的に年齢制限モードへ振り分ける「ChatGPT for Teens」を導入済みで、詳しくはこちらの記事で扱っている。Claudeは現在も18歳未満の利用そのものを認めていない。Geminiは今回の訴訟で名指しされている当事者の一つでもある。州レベルの規制強化を求める動きはフロリダ州の刑事罰提案など他州にも広がっており、条文の中身は今後も変わっていく。
編集部の見立て
今回の調査でいちばん興味深いのは、Googleが法案づくりを妨害したわけではないという点です。むしろ積極的に協力し、枠組みまで提供しています。それでいて結果として、自社製品を含む主要な対話AIが法の外側に立てる文言が残る。これは対立ではなく、協力の形をした利害調整だと捉えるのが実態に近いと考えます。
ハワイ州の例が示すのは、この種の抜け穴は自動的に閉じるものではなく、審議のどこかで誰かが具体的に取り除かない限り残り続けるという点です。コロラド州のように除外規定が残ったまま成立した法律と、ハワイ州のように取り除かれた法律が、同じ2026年に同じ業界の関与のもとで生まれています。差を分けたのは、州議会の側にどれだけ法案の中身を読み込む人がいたかという一点だったように見えます。
読者の側にできることは限られていますが、ゼロではありません。自分の住む州でチャットボット関連の法案が審議される際、適用除外の条項がどの製品を指しているかは、条文を読めば確認できます。報道が「守られる」と伝えても、実際に守られる範囲は条文の除外規定次第で変わるという今回の教訓は、この分野で今後も繰り返し起きるはずです。
まとめ
NPRが2026年9月18日に報じた調査により、Googleが複数の州でAIチャットボット安全法案の起草を後押ししていたことが明らかになりました。コロラド州のチャットボット安全法(HB 26-1263、2026年5月29日成立・2027年1月1日施行)には12の適用除外カテゴリがあり、「開発者・研究者向け製品」を理由にChatGPT・GitHub Copilot・Claudeが、「検索エンジン内蔵チャットボット」を理由にGeminiが、それぞれ対象外を主張できる構造になっています。
同種の除外文言は少なくとも10州の法案に見つかっていますが、ハワイ州では議員側が除外条項を取り除いたうえで法律(Act 248)を成立させました。背景には全米で少なくとも75件に上るAIチャットボット関連の訴訟があり、Adam Raine氏・Jonathan Gavalas氏のケースのように、未成年や若年層の死に関わる訴えが目立っています。
Googleは消費者保護とイノベーションの両立を掲げる立場を説明していますが、適用除外の文言そのものへの言及は避けています。州法が保護を約束していても、実際に対象となるかどうかは条文の除外規定次第で変わる、という前提を持っておく必要があります。
各州の審議は今も続いており、除外規定がどう扱われるかは州ごとに分かれています。ChatGPTやGeminiを日常的に使う人にとって、次に確認すべきは自分が住む州の法案がどの除外カテゴリを含んでいるかです。