OpenAI が2026年5月8日に予告していた期限が、本日8月10日に来た。開発者向けAPIから、gpt-5.2-chat-latest と gpt-5.3-chat-latest という2つのモデルIDが取り除かれる日である。
モデルが1つ消えることは、いまや珍しくない。この件で見ておく価値があるのは、消えたこと自体ではなく移り先の値札のほうだ。公式の廃止一覧が後継として挙げているのは最上位の GPT-5.6 Sol で、出力100万トークンあたりの単価は14.00ドルから30.00ドルに上がる。案内どおりに動くと、同じ処理量のまま請求額が2倍を超える。
そして、一段下のモデルに移せば、請求額は今より少し下がる。今日の締切は、そういう分岐を含んでいる。
gpt-5.2-chat-latest とは何だったのか
まず、消えたものの正体をはっきりさせておきたい。chat-latest というのは、ChatGPTで実際に使われている「すぐ返すほう」のモデル(Instant)を、APIからも同じように呼ぶための名前である。考え込んで答える推論モデルとは別系統で、会話の速さと軽さを優先した側だと考えればよい。
この名前には、その時々の最新版を自動で指す形(chat-latest)と、世代を固定して指す形(gpt-5.2-chat-latest / gpt-5.3-chat-latest)があった。今日なくなるのは後者、つまりバージョンを固定していたほうの2つである。
ここに、この件の皮肉がある。中身が黙って入れ替わると出力が変わってしまうので、業務でAPIを使うなら世代を固定して呼ぶのが定石とされてきた。その定石どおりに固定していた人ほど、今日、呼び出しが通らなくなる。自動で最新を追う名前のまま使っていた人は、何も起きない。
移行先の料金──後継に指名されたSolと、その一段下
廃止一覧には、それぞれの行に「代わりにこれを使ってください」という移行先が書かれている。今回の2つに対して挙げられているのは gpt-5.6-sol、GPT-5.6シリーズの最上位モデルだ。
ところが単価表を並べると、この案内はそのまま従うと高くつく。GPT-5.6シリーズには 7月30日の値下げ で下がったTerraとLunaがあり、消えるモデルの単価は、最上位ではなくその中位モデルに近い位置にあるからだ。
| モデル(100万トークンあたり) | 入力 | 出力 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| GPT-5.2 Chat | 1.75ドル | 14.00ドル | 本日終了 |
| GPT-5.3 Chat | 1.75ドル | 14.00ドル | 本日終了 |
| GPT-5.6 Sol | 5.00ドル | 30.00ドル | 廃止一覧が挙げる移行先 |
| GPT-5.6 Terra | 2.00ドル | 12.00ドル | 中位 |
| GPT-5.6 Luna | 0.20ドル | 1.20ドル | 最軽量 |
入力は1.75ドルから5.00ドルへ、出力は14.00ドルから30.00ドルへ。一方、Terraなら入力2.00ドル・出力12.00ドルで、出力にかぎれば消えるモデルより安い。Lunaに至っては桁がひとつ違う。
請求書はどう変わるか(月4,000万トークンの試算)
単価の話は、実際の量に掛けてみないと大きさが掴みにくい。そこで、社内向けの要約ツールを1つ動かしている程度の規模──月に入力3,000万トークン、出力1,000万トークン──を流している場合で計算してみる。日本語なら1文字が1〜2トークン前後なので、ざっくり数百万文字を読ませて、その4分の1ほどを書かせている量にあたる。
いま192.50ドルの請求が、案内どおりSolへ移すと450.00ドルになる。約2.3倍だ。Terraなら180.00ドルで、むしろ現状より6%ほど安い。Lunaに寄せられる処理なら18.00ドルで、現状の10分の1を下回る。
金額そのものは小さく見えるかもしれないが、これは1つのツールの1か月分である。同じ移行を10本の処理で機械的に済ませれば、差は毎月2,500ドル規模になる。廃止一覧の移行先をそのまま置換するスクリプトを書くのは簡単で、そしていちばん高い選択肢を選んだことに気づかないまま数か月が過ぎるのも、同じくらい簡単だ。
94日という猶予は、OpenAIの標準の半分だった
5月8日に通知され、8月10日に終わる。移行に与えられた時間は94日だった。これは長いのか短いのか。
廃止日程を集めている調査サイト llmlatency.dev の集計によれば、OpenAIが通知日と終了日の両方を公表しているモデル133件の猶予の中央値は182日で、幅は3日から458日まである(※観測。第三者による集計であり、OpenAIの公表値ではありません)。同じ集計で Anthropic は19件・中央値63日、公開モデルには最低60日を約束しているとされる。
つまり今回の94日は、OpenAI自身の平均的な扱いより短い。とはいえ、Anthropicの標準よりは長い。どちらも「半年前に言ってもらえる」ことを前提にできる長さではないという点では同じである。
モデルの寿命は、性能の話ではなく契約条件の話になりつつある。どのモデルが賢いかと同じくらい、そのモデルが「あと何日、同じ名前で呼べるのか」が業務の設計を左右する。
この流れ自体は、先週も別の形で出ていた。Claude Opus 4.1は8月5日、モデルIDに刻まれた公開日からちょうど1年でAPIから退役している。本サイトのその記事では、後継モデルが出る間隔が111日から42日まで縮んでいたと伝えた。世代交代が速くなれば、そのぶん古い世代の店じまいも速くなる。今日の締切は、その速度が請求額に変換される場面だといえる。
ChatGPTの画面側は6月に終わっていた
ここまではAPIの話である。では、ふだんChatGPTのアプリを開いて使っている人に、今日なにか起きるのか。
答えは「起きない」。ChatGPTの画面からGPT-5.2が消えたのは、2026年6月12日のことだ。当時、既存の会話は対応するGPT-5.5へ自動的に引き継がれている。画面側は2か月前に店じまいを終えていて、今日はその後始末としてAPI側の名前が消える、という順番になる。
むしろ画面側のほうが荒っぽかった。OpenAIの開発者コミュニティには、公式ドキュメントの終了日が8月10日と書かれているのにChatGPTからは事前告知なくGPT-5.2が消えたという投稿が残っている。同じ「終了」という言葉でも、APIには日付があり、アプリにはそれがない。
コードの中に gpt-5.2-chat-latest / gpt-5.3-chat-latest を書いている箇所があれば、そこが止まる。置換先をSolにするかTerraにするかで、次の請求書が2倍以上変わる。
GitHub CopilotやCursorのように上流のモデルを仕入れて売るツールでは、仕入れ先の入れ替えが「選べるモデルの一覧」の変化として遅れて現れる。値札に出るとは限らない。
編集部の見立て
今回いちばん引っかかったのは、廃止一覧が挙げる移行先が最上位モデルだったことです。性能の落差で困らせないための案内としては筋が通っています。ただ、そこに従うと請求が2倍以上になる、という事実は案内の側には書かれていません。移行先の提示は技術文書であって、見積書ではないからです。
そのずれは、放っておくと利用者が負担します。廃止の通知は「動かなくなる」という警告として届き、受け取った側は止まらないことを最優先に動きます。示された移行先をそのまま入れて、動作確認をして、終わりにする。よくできた対応であり、そして今回はいちばん高い選択肢を選んだことになります。
ここで思い出しておきたいのは、7月30日の値下げでGPT-5.6シリーズの価格差が広がったという話です。同じシリーズの中で出力単価が30.00ドルと1.20ドルまで開いている以上、「どのモデルへ移すか」は性能の選択であると同時に、金額の選択になりました。移行作業を機械的な置換として扱えなくなった、という言い方もできます。
もう一点、94日という猶予について。短すぎるとまでは思いません。ただ、モデルの世代交代がこの速さで続くなら、業務側は「モデル名を1か所にまとめておく」ような、地道な備えのほうが実利があります。今日の作業がgrepひとつで済んだ人と、20か所を追いかけた人の差は、次の廃止でもそのまま繰り返されます。
まとめ
2026年8月10日、OpenAIの開発者向けAPIから gpt-5.2-chat-latest と gpt-5.3-chat-latest が取り除かれました。通知は5月8日で、猶予は94日。公式の廃止一覧が移行先として挙げているのは GPT-5.6 Sol です。
消えた2モデルの単価は入力1.75ドル・出力14.00ドル、案内された移行先のSolは入力5.00ドル・出力30.00ドルです。月に入力3,000万・出力1,000万トークンを流す場合、請求は192.50ドルから450.00ドルへ、約2.3倍になります。一段下のTerra(入力2.00ドル・出力12.00ドル)なら180.00ドルで現状より安く、Luna(入力0.20ドル・出力1.20ドル)なら18.00ドルまで下がります。
ChatGPTのアプリ側では6月12日にGPT-5.2がすでに提供終了となり、会話はGPT-5.5へ引き継がれています。今日の変更は開発者向けAPIに限った話で、月額プランの料金は動いていません。
猶予の94日は、調査サイトの集計によるOpenAIの中央値182日の半分ほどにあたります(※観測)。世代交代の速さは、そのまま店じまいの速さとして跳ね返ってきています。
次に値札が動く日付も、すでに決まっている。8月31日、Claude Sonnet 5 の導入特別価格(入力2.00ドル・出力10.00ドル)が終わり、9月1日から入力3.00ドル・出力15.00ドルへ戻る。モデルが消える日と、値札が元に戻る日。この夏の終わりには、二つの締切が並んでいる。