Metaが9月8日、個人向けのAIエージェント「Muse」を米国で公開した。メールを書き、旅行を予約し、フォームを埋め、買い物まで本人の代わりに実行する、という触れ込みの製品である。
ただ、AIを選ぶ側にとって目を引いたのは機能ではなく値札のほうだった。有料プランは月20ドルの「Power」と月100ドルの「Maximum」。この2つの数字は、ChatGPT も Claude もすでに置いている値札とほぼ同じ位置にある。そして無料枠について、マーク・ザッカーバーグ氏はThreadsで週1億トークンまで無料だと説明した。
値段で殴り込むのではなく、同じ値段のまま無料枠の大きさで殴り込む。参入の形が、これまでとは違っている。
Museは何をする道具で、いくらなのか
Museは、質問に答えるチャットではなく作業を代行するエージェントとして位置づけられている。Metaの告知によれば、Museは専用の仮想マシン「Muse Secure VM」の上で動き、そこに自分専用のブラウザを持つ。利用者がアプリを閉じたあとも作業を続け、購入や送信のような取り返しのつかない操作の前には本人の承認を求める。支払いにはStripeの「Link」を使い、Metaによれば購入時に利用者のパスワードやカード番号そのものはMuse側から見えない。
動力となるモデルについて、Metaの告知は「Muse Spark」とだけ書いている。TechCrunchはこれをMuse Spark 1.3と報じた。エージェントの動作を支える仕組みとしてはもう一つ、外部への通信を許可するかどうかを判定する「Sentinel」が置かれている。
提供範囲は限られている。米国のみ、18歳以上で、iOS・Androidの専用アプリ、ウェブのmuse.ai、そしてWhatsAppから使える。AIグラス対応は近く追加されるという。米Quartzは、当初4月に予定されていた公開が安全性の作り込みのために遅れたと伝えている。
| プラン | 月額 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 無料 | 0ドル | 週1億トークンまで(ザッカーバーグ氏の説明) |
| Power | 20ドル | 無料枠より多く使いたい人向け |
| Maximum | 100ドル | 最も多く使う人向け |
Metaの告知本文には金額が書かれておらず、「大半の用途では無料、もっと使いたい人には有料プラン」とだけある。上の20ドル・100ドルという数字は、TechCrunchをはじめとする複数の報道が一致して伝えているものだ。最高AI責任者のアレクサンダー・ワン(Alexandr Wang)氏も、大多数の利用者は無料枠の中で必要なことができるはずだと述べたと報じられている。
週1億トークンの無料枠は、どれくらい使えるのか
トークンとは、AIが文章や指示を処理するときの単位で、日本語なら1文字がおよそ1〜2トークンにあたる。これまで個人向けのAIプランは「1日◯回」「週◯通」のようにメッセージ数で上限を示すのが普通で、トークン数を消費者に見せる会社はほとんどなかった。Museはそこを週1億トークンという数字で示している。
この数字だけを見ても大きさが掴めないので、実際に使った人の記録を当ててみる。米Gizmodoの記者は公開初日にMuseで遊び倒し、肖像画、メロディ、横スクロールのゲーム、その派生のFPS、ウェブサイト、さらにジャンル違いの50パターンまで作った。それでも消費は週の枠の約6%だったという。その後に50本のアニメーションと3Dのアドベンチャーゲームを足しても約11%にとどまり、まだ十分な余裕が残っていたという。
一日中まとめて生成物を作り続けて、週の枠の1割。ここから読み取れるのは、通常の使い方では無料枠を使い切るのが難しい水準に設定されているということだ。有料プランは「上限に届いた人が上がる場所」ではなく、当面は「上限に届くほど重い使い方をする人だけの場所」になる。
この1億トークンという数字の出どころは、Metaの告知本文ではなくザッカーバーグ氏本人の投稿である。
We want everyone to have access to personal superintelligence, so we're providing Muse for free for up to 100 million tokens per week.
(訳)誰もが個人向けの超知能を持てるようにしたい。だからMuseは、週1億トークンまで無料で提供する。
裏を返せば、Metaの告知本文にはこの数字が書かれていない。本人の投稿で示された水準は、告知に明記された条件よりも変えやすい。いまの1億トークンがこの先も続く保証はない、という点は頭の隅に置いておきたい。
20ドルと100ドル──値札は主要3社と横並びになった
Museの月20ドル・月100ドルという2段を、他社の個人向けプランに並べてみる。9月10日時点で各社が公表している金額は次のとおりだ。
| サービス | 無料 | 20ドル前後の段 | 100ドル前後の段 |
|---|---|---|---|
| Meta Muse | あり(週1億トークン) | Power 20ドル | Maximum 100ドル |
| ChatGPT | あり | Plus 20ドル | Pro 100ドル / 200ドル |
| Claude | あり | Pro 20ドル(年払いは月17ドル) | Max 100ドルから |
| Google AI | あり | AI Pro 19.99ドル | AI Ultra 99.99ドルから |
並べると、値付けの段がきれいに揃っていることが分かる。無料、20ドル前後、100ドル前後、そしてその上に200ドル前後。Googleには月4.99ドルのAI Plus、OpenAIには月8ドルのGoが挟まっているが、主要な段の位置は各社ほぼ共通だ。後から入るMetaも、その段を崩さずに同じ位置へ値札を置いた。
月20ドルという段は、ChatGPT Plusが2023年2月に付けて以来そのままだ。ここを15ドルに下げても乗り換えの決め手にはなりにくく、月額の数字は比較の対象から外れかけている。
同じ20ドルでも、使える最新モデル・週あたりの回数・エージェント機能の有無で中身が違う。読者が比べるべきなのは金額ではなく、その金額に付いてくる量になった。
値札を下げる代わりに、無料で使える量を他社が示していない水準まで引き上げた。広告事業で稼ぐ会社が、AIでも入口を無料で広げる形をとった。
ここで注意したいのは、この表が同じ土俵の比較ではないことだ。ChatGPTやClaudeの月20ドルは主にチャットと付随機能に対する値段で、Museの20ドルは代行作業の量に対する値段である。数字の位置は同じでも、買っているものが違う。
同じ週、他社が動かしているのは価格ではなく上限
Museの参入と同じ時期に他社で何が起きていたかを見ると、いまの競争がどこで行われているかがはっきりする。動いているのは値札ではなく、その内側の上限だ。
Claude Codeの週あたり上限が切り替わると告知適用は9月14日から。月額は据え置きで、動くのは上限の側だけ。詳しくは前回の記事で整理した。
GPT-6 Astraが主要プランへ展開通常チャットで呼び出せるのは月100ドル・200ドルのProからで、週50通・200通の上限付き。Plus(月20ドル)は対象外だった(詳報)。
MetaがMuseを公開月額は20ドルと100ドルで他社と同水準。無料枠は週1億トークンとされる。
3件とも、月額そのものは動いていない。動いたのは「その金額で何回、どれだけ使えるか」の側である。ChatGPTでは、同じ20ドルのPlusのままで最新モデルの扱いが変わった。Claude Codeでは、同じ月額のまま週の上限の数え方が切り替わる。そこへMuseが、無料で週1億トークンという別の物差しを持ち込んだ。
日本からは使えない。それでも関係がある理由
先に結論を書くと、日本にいる読者は現時点でMuseを試せない。提供は米国限定で、対象も18歳以上に絞られている。日本語での提供時期についてMetaは何も示していない。
それでも他人事にならないのは、無料枠の水準が競争の材料として持ち出された点にある。これまで各社の無料枠は「有料に上げてもらうための試用」として設計されてきた。回数が少なく、最新モデルが使えず、混雑時には待たされる。そこへ、通常の使い方では使い切りにくい量を無料側に置く会社が現れた。追随するかどうかは各社の判断だが、無料枠の中身は比較項目として一段重くなる。
乗り換え先が増えたわけではない。日本では使えないので、当面は手元のプランの上限がどう変わるかだけを見ておけばよい。ChatGPTもClaudeも、この2週間で上限側の条件が動いている。
月額の数字はどこも同じ位置に並んだ。比べるなら、無料枠でどこまで試せるか、上限に届いたとき何が起きるかを先に読む。金額の比較には情報がもう残っていない。
買い物や予約まで任せる種類のAIでは、承認をどこで挟むか、支払い情報がどこまで見えるかが分かれ目になる。Museが仮想マシンと単発カード番号で線を引いたやり方は、他社の設計を読むときの物差しになる。
編集部の見立て
今回いちばん興味深いのは、後発のMetaが値下げを選ばなかったことだと考えます。月20ドルより安い値札を出せば話題にはなりますが、いま個人向けAIの利用者が困っているのは金額ではなく、上限に届いたときに作業が止まることのほうです。そこへ「無料で週1億トークン」を置いたのは、痛みのある場所を正確に狙った参入だと感じます。
もっとも、この無料枠が長く続くかどうかは別の話です。無料枠は値札と違って告知なしに変えやすく、公式の告知本文に明記されていない以上、変更の説明責任も軽くなります。読者としては、いまの1億トークンを前提に生活を組み替えるのではなく、こういう水準を出せる会社が参入したという事実のほうを覚えておくのが現実的でしょう。
もう一点、消費者向けのプランにトークン建ての上限が出てきたことも記録しておきたい変化です。これまで開発者だけが見ていた数え方が、月額プランを選ぶ人の側に降りてきました。1回の依頼で何十ページも読ませるエージェントでは、回数よりも処理量のほうが実態に近い指標です。他社が同じ数え方を採るなら、プランの比較表はいまより読み解きに手間のかかるものになります。
日本の読者にとっては、当面は指をくわえて見る話になります。ただ、無料枠の厚みで殴り合う流れが本格化すれば、日本語対応のプランにも波及します。次に来る値上げや上限変更の告知を読むとき、「金額は据え置きです」という一文の後ろに何が書かれているかを確かめる習慣が、これまで以上に役に立つはずです。
まとめ
2026年9月8日、Metaが個人向けAIエージェント「Muse」を米国で公開しました。メール作成・旅行予約・フォーム記入・買い物までを代行する製品で、専用の仮想マシン上で動き、購入や送信の前には本人の承認を求める設計です。提供は米国限定・18歳以上で、iOS・Android・muse.ai・WhatsAppから使えます。
有料プランは月20ドルの「Power」と月100ドルの「Maximum」。無料枠は週1億トークンまでとザッカーバーグ氏が説明しています。金額はTechCrunchなどの報道、無料枠はThreadsの投稿が出どころで、Metaの告知本文には記載がありません。
月20ドル・月100ドルという段は、ChatGPT(Plus 20ドル/Pro 100ドル・200ドル)、Claude(Pro 20ドル/Max 100ドルから)、Google AI(AI Pro 19.99ドル/AI Ultra 99.99ドルから)と横並びです。Metaは値下げではなく、無料枠の厚さで参入しました。
Gizmodoの記者が公開初日に画像・音楽・ゲーム・ウェブサイトを作り込んでも、消費は週の枠の約11%でした。通常の使い方で使い切るのは難しい水準です。
日本からはまだ試せないので、当面の関心は一点に絞られる。Museが米国の外へ出るとき、週1億トークンという数字がそのまま付いてくるのかどうかである。