音声を文字に起こす仕事の値段が、9月3日に1段落ちた。Microsoftが公開した音声認識モデル「MAI-Transcribe-2」の価格は、音声1時間あたり0.10ドル。前の世代のMAI-Transcribe-1が0.36ドルだったので、72%引きにあたる。

比べる相手を置くと位置がはっきりする。Gemini 3.5 Transcribeが音声1時間あたり約0.30ドル、ChatGPT を作るOpenAIのGPT-Transcribeが0.27ドル、ElevenLabsのScribe v2が0.22ドル。10セントは、その3分の1から半分の水準である。

ただし、この記事でいちばん見ておきたいのは下げ幅ではない。0.10ドルには「年末までの期間限定」という条件が付いていて、翌日いくらになるのかをMicrosoftは書いていない。そして同じ形の値札が、この1週間で3社ぶん並んだ。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はMicrosoft AIの公式ニュース(2026年9月3日)と、同日付のMicrosoft Learnの技術ドキュメント、および同日のVentureBeatの報道です。本記事公開時点で約72時間が経過しているため、速報ではなく「AIを選ぶ側にとって何を意味するか」の整理として書いています。比較に使った他社の価格は2026年9月6日時点の各社公表値で、原文は編集部で確認しています。Gemini 3.5 Transcribeのみトークン課金のため、公式ドキュメントに載っている概算値を使っています。

音声1時間が10セントになった、その中身

MAI-Transcribe-2は、録音した音声を文字にするモデルである。Microsoftの社内チームが自前で開発したもので、対応言語は60。日本語も対応言語表に入っている。話している人ごとに区切る話者分離、単語1つずつの時刻付け、会話の途中で言語が切り替わる場面への対応、専門用語をあらかじめ渡して認識を寄せるキーワード指定を備える。文字起こしの体裁も、言いよどみをそのまま残す「verbatim」と、それを取り除いて読みやすくする「clean」から選べる。

使えるのはMicrosoft Foundry、MAI Playground、そしてモデル中継サービスのOpenRouterから。提供形態はパブリックプレビューで、Microsoft自身が「サービス品質保証(SLA)は付かず、本番環境での利用は推奨しない」と明記している。扱える音声ファイルはWAV・MP3・FLACで、300MB未満という制限がある。

価格の動きは単純だ。

モデル 音声1時間あたり 位置づけ
MAI-Transcribe-2 0.10ドル 12月31日までの導入価格
MAI-Transcribe-1.5 0.36ドル 現行の1世代前
MAI-Transcribe-1 0.36ドル 2026年8月20日に非推奨
0.10ドル 音声1時間あたりの価格
72% 前世代(0.36ドル)からの下げ幅
12月31日 この価格が保証されている期限

期限については、公式ニュースの書き方がそのまま条件になっている。

At launch, MAI-Transcribe-2 will be priced at $0.10 per hour as a limited-time offer until the end of the year.

(訳)提供開始時点では、MAI-Transcribe-2 の価格を、年末までの期間限定として1時間あたり0.10ドルとする。

— Microsoft AI 公式ニュース(2026年9月3日)
一言でまとめると──「文字起こしの単価が、他社の3分の1近くまで下がりました。ただし年内限りの値札で、来年いくらになるかは公表されていません」。試すには良い条件で、来年の予算を組むにはまだ材料が足りない改定です。

文字起こしAIの料金を、音声1時間あたりで並べる

各社は単位をそろえてくれない。1分あたりで書く社、1時間あたりで書く社、トークンあたりで書く社が混在している。そこで公表価格を「音声1時間あたり」に直して並べ直した。

モデル 音声1時間あたり 各社の表記と課金の形
MAI-Transcribe-2(Microsoft) 0.10ドル 音声の長さで課金。12月31日までの導入価格
gpt-4o-mini-transcribe(OpenAI) 0.18ドル 音声1分あたり0.003ドル
Scribe v2(ElevenLabs) 0.22ドル 音声の長さで課金。リアルタイム版は0.39ドル
GPT-Transcribe(OpenAI) 0.27ドル 音声1分あたり0.0045ドル
Gemini 3.5 Transcribe(Google) 約0.30ドル トークン課金。公式ドキュメントの概算値
MAI-Transcribe-1(Microsoft) 0.36ドル 音声の長さで課金。前世代
音声1時間を文字に起こす価格を6つのモデルで比較した横棒グラフ。MAI-Transcribe-2が0.10ドルで最も短く、gpt-4o-mini-transcribeが0.18ドル、ElevenLabs Scribe v2が0.22ドル、OpenAI GPT-Transcribeが0.27ドル、Gemini 3.5 Transcribeが概算で約0.30ドル、前世代のMAI-Transcribe-1が0.36ドルと続く。バーの長さは金額に比例している。

この表には注記が要る。同じ「1時間いくら」に直せても、課金の仕組みが社ごとに違うからだ。MicrosoftとElevenLabsは音声の長さで数える。OpenAIは音声1分あたりの単価で、GPT-Transcribeが0.0045ドル、低価格版のgpt-4o-mini-transcribeが0.003ドル。ここまでは、録音の中身が何であれ請求額は再生時間で決まる。

Googleだけは形が違う。Gemini 3.5 Transcribeは入力の音声が100万トークンあたり2.00ドル、出力のテキストが100万トークンあたり12.00ドルというトークン課金である。公式ドキュメントは音声1秒あたり25トークン、テキスト1分あたり175トークンという前提を置いて「1分あたりおよそ0.005ドル」と見積もっており、上の約0.30ドルはこの概算にもとづく。つまりGoogleの数字だけは、早口の会議や複数人が同時に話す録音では上下しうる

もうひとつ、単価表からいちばん抜け落ちやすい階層がある。リアルタイムの文字起こしは別料金だ。ElevenLabsのScribe v2は録音済みなら0.22ドルだが、その場で流しながらだと0.39ドルになる。OpenAIのgpt-live-transcribeは音声1分あたり0.017ドルで、1時間に直すと1.02ドル。録音済みの単価だけを見て乗り換えを決めると、会議に同席させる使い方では計算が合わなくなる。MAI-Transcribe-2はVoice Live APIの入力側の文字起こしにも指定できるが、その場合の単価は公表資料からは読み取れなかった。

ⓘ なぜ「音声1時間あたり」に直すのか
各社の価格ページは、1分・1時間・100万トークンとばらばらの単位で書かれています。単位が違うまま並べると、桁を1つ読み違えたことに気づけません。文字起こしは「何時間ぶんの録音を処理したか」で使用量が決まる仕事なので、音声1時間あたりに統一するのが比べやすい形です。手元で見積もるときは、月に何時間ぶんの録音を流すかを先に数えてから単価を掛けてください。

「世界一速く、正確で、安い」はどこまで本当か

Microsoftはこのモデルを「世界でもっとも速く、もっとも正確で、もっとも安い音声認識モデル」と紹介している。3つの主張は、根拠の強さがそれぞれ違う。

まず正確さ。公開の多言語ベンチマークFLEURSでは、60言語の平均単語誤り率が5.2%で、Microsoftはこれを首位だとしている。一方、第三者の計測サイトArtificial Analysisの単語誤り率ランキングでは2.0%で2位だ。上にいるのは1.7%のFun-Realtime-ASR-previewで、こちらはプレビュー段階のモデルである。Microsoft自身も公式ニュースで2位であることを書いており、「精度と速度を合わせれば首位」という言い方をしている。5.2%と2.0%は別のベンチマークの数字で、直接は比べられない。前者は60言語の平均、後者はArtificial Analysisの計測条件による。

モデル 単語誤り率(Artificial Analysis) 音声1時間あたり
Fun-Realtime-ASR-preview 1.7% 価格の掲載なし
MAI-Transcribe-2 2.0% 0.10ドル
Scribe v2(ElevenLabs) 2.2% 0.22ドル
MAI-Transcribe-1.5 2.4% 0.36ドル
Gemini 3.5 Transcribe 2.6% 約0.30ドル
GPT-Transcribe(OpenAI) 3.3% 0.27ドル

次に速さ。Microsoftは、長い録音の処理でOpenAIのGPT-Transcribeの最大10倍、ElevenLabsのScribe v2の7倍、GoogleのGemini 3.5 Transcribeの5倍だと説明している。モデル紹介ページには、音声1時間ぶんの処理が推論時間およそ10秒で終わるという書き方も出てくる。ただし、この比較はArtificial Analysisの計測にもとづくとされるものの、録音の長さや同時実行の条件までは公表されていない。提供元が示した数字として読むのが妥当だろう(※観測)。

最後に安さ。これは表のとおりで、公表価格では最安である。ただし期限付きの最安値であり、しかも提供形態はプレビューだ。SLAが付かず本番利用が推奨されていない状態と、年末で切れる価格が重なっている。「いま試す」条件としては良く、「来年の見積もりに入れる」条件としてはまだ揃っていないという読み方になる。

12月31日で切れる値札が、1週間に3つ並んだ

期限付きの導入価格は、いまや1社の作法ではない。9月最初の3日間に、大手3社が立て続けに同じ形の値札を出している。

2026.09.01

Anthropic:Claude Fable 5.1でキャッシュ読み出しを75%引き同じ文脈を繰り返し送るときの単価が100万トークンあたり1.00ドルから0.25ドルへ。標準の入力10.00ドル・出力50.00ドルは据え置きで、こちらに期限の記載はない。詳しくはClaude Fable 5.1の記事で扱った。

2026.09.02

Google:Gemini 3.8 Flashを導入価格で投入、値上げ日まで明記入力0.75ドル・出力3.75ドル(100万トークンあたり)は12月31日まで。2027年1月1日から入力1.50ドル・出力7.50ドルへ、ちょうど倍になると公式に書いてある。経緯はGemini 3.8 Flashの記事に整理した。

2026.09.03

Microsoft:MAI-Transcribe-2を音声1時間0.10ドルで投入「年末までの期間限定」とあるだけで、2027年1月1日からいくらになるのかは公式ニュースにも技術ドキュメントにも書かれていない。

3社を並べると、開示の粒度がはっきり分かれる。Googleは値上げ後の数字まで先に書いた。Microsoftは期限だけを書いて、その先を書いていない。使う側から見れば、前者は年間の見積もりが立ち、後者は立たない。同じ「導入価格」という言葉でも、引き受けるリスクの量が違う。

この構図自体は、7月にOpenAIがGPT-5.6 Lunaを80%値下げしたときから続いている流れの延長にある。あのときは大量処理向けの下位モデルだけが崩れ、最上位は据え置かれた。今回は、モデル本体ではなくその周辺にある機能──キャッシュ、文字起こし──で同じことが起きている。値下げの現場が、本体からその隣へ移っている。

あなたの請求書はどこが変わるか

ここまでの金額は、すべて開発者向けAPIの価格である。日常的にAIを使っている人にとって、どこが動いてどこが動かないのかを分けておきたい。

A
月額プランで文字起こしを使っている人:変わらない

ChatGPTやGeminiの音声入力、会議ツールに付いている自動議事録は、それぞれの月額プランの中に含まれている。今回動いたのはAPIの価格表で、月額プランの値付けとは別系統である。

B
APIを直接呼んでいる人:切り替えれば下がる

週5本の1時間会議を1か月ぶん、つまり20時間の録音を流す場合、MAI-Transcribe-2なら2.00ドル、Scribe v2なら4.40ドル、GPT-Transcribeなら5.40ドル、Gemini 3.5 Transcribeなら約6.00ドル。1人あたりの差額は月4ドル前後だが、これが1,000人ぶんになると年に4万8,000ドルの開きになる。

C
文字起こしサービスを契約している人:すぐには変わらない

議事録サービスや文字起こしSaaSは、上流のモデルを仕入れて月額で売っている。仕入れ値が下がっても利用者の月額に降りてくるとは限らず、降りてくるとしても時間差がある。GitHub Copilotのような再販型のツールで繰り返し見てきた形と同じである。

⚠ 乗り換える前に確かめる4点
1つめ、提供形態がプレビューで、Microsoft自身が本番利用を推奨していません。基幹の業務をまるごと移す段階ではありません。2つめ、12月31日以降の価格が未公表です。来年度の予算を0.10ドル前提で組まないでください。3つめ、精度は言語と録音状態で大きく変わります。自分の会議の録音を30分ぶん、いま使っているモデルと両方に流し、固有名詞と数字の誤りを数えてから決めるのが確実です。4つめ、リアルタイム用途は単価の階層が別です。録音済みの数字で判断できません。
💡 誤り率0.6ポイントの差を体感に直す
Artificial Analysisの計測で、MAI-Transcribe-2は2.0%、Gemini 3.5 Transcribeは2.6%でした。差は0.6ポイントで、1,000語あたり6語ぶんの違いになります。1時間の打ち合わせで話される語数を1万語とすれば60語ほどの差です。ここで問題になるのは誤りの総数より中身で、社名・人名・金額を外すモデルは、誤り率が低くても議事録には向きません。試すときは全体の正確さではなく、固有名詞と数字だけを抜き出して照合してみてください

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の改定で目を引くのは、72%という下げ幅よりも、値下げの現場が移動していることのほうだと考えます。7月にOpenAIが下位モデルを80%引きにしたときは、モデル本体の単価が崩れました。今週動いたのは、キャッシュの読み出しと文字起こしという、モデルの周辺にある機能です。本体の賢さで差が付きにくくなるほど、競争は隣の領域へずれていきます。文字起こしはその典型で、精度の差が0.6ポイントの世界に入った以上、残る勝負どころは値段と速度になります。

読者にとっての実務的な意味は、はっきりしています。文字起こしは、いまいちばん乗り換えの安いAI用途です。同じ音声ファイルを別のモデルに流し直せば結果を並べて比べられますし、出てくるのはテキストなので、後工程を作り直す必要もありません。設計判断や長い自律作業のように「どのモデルか」で結果が変わる仕事とは、性質がまったく違います。値段が動いたときにいちばん素早く恩恵を受け取れるのが、この種の仕事です。

一方で、10セントという数字を来年の計画に書き込むのは早すぎます。プレビューであることと、12月31日で切れることが重なっているからです。Googleは同じ週に、値上げ後の数字まで含めて公開しました。価格を開示する会社と、期限だけを示す会社の差は、そのまま使う側が抱える不確実性の差になります。選ぶときは単価の低さだけでなく、来年の数字が読めるかどうかも一緒に見ておきたいところです。

そのうえで、この10セントが定着するかどうかは、まだ判断できないと考えています。導入価格は、そこに利用者が集まってから改めて書き直されることがあります。いま安いことと、これからも安いことは別の話です。

まとめ

Microsoftが2026年9月3日、音声認識モデルMAI-Transcribe-2を公開しました。価格は音声1時間あたり0.10ドルで、前世代のMAI-Transcribe-1の0.36ドルから72%の引き下げです。対応言語は60で、日本語も含まれます。

他社の公表価格を音声1時間あたりに直すと、OpenAIのgpt-4o-mini-transcribeが0.18ドル、ElevenLabsのScribe v2が0.22ドル、OpenAIのGPT-Transcribeが0.27ドル、GoogleのGemini 3.5 Transcribeが約0.30ドル。0.10ドルはこの並びの最安値ですが、12月31日までの導入価格で、翌日以降の価格は公表されていません。提供形態もパブリックプレビューで、Microsoft自身がSLAなし・本番利用非推奨と明記しています。

精度は、公開ベンチマークFLEURSの60言語平均で単語誤り率5.2%。第三者計測のArtificial Analysisでは2.0%で、首位ではなく2位です。速度が他社の5〜10倍という説明は提供元によるもので、計測条件までは公表されていません(※観測)。

ChatGPTやGeminiの月額プランの料金は、今回動いていません。変わったのは開発者向けAPIの価格表です。

同じ週に、Googleは2027年1月1日からGemini 3.8 Flashを倍額にすると先に書き、Microsoftは12月31日という期限だけを書いた。次に確かめる日付は、その12月31日である。翌日にMAI-Transcribe-2がいくらになるのかは、公式ニュースにも技術ドキュメントにも、まだ一行も書かれていない。