画像生成AIのMidjourneyを舞台にした著作権訴訟が、法廷での本格的な攻防に入った。ディズニー・ユニバーサル・ワーナーブラザースの3大スタジオが束になって仕掛けたこの一件で、Midjourney側は2026年7月21日、「侵害を積極的に煽ってはいない」として請求そのものを退けるよう連邦裁判所に申し立てた。同じ月の頭には、スタジオ自身の社内AI利用を開示させようという逆襲にも出ている。
生成AIで「あの映画のあのキャラクター」を描かせたことがある人なら、他人事ではない話だ。訴訟の行方次第で、Midjourneyという1サービスの存亡だけでなく、ChatGPTの画像生成機能やGeminiのNano Banana系モデルを含む業界全体の「どこまでなら描かせていいのか」という線引きが変わってくる。
1年越しの対立、ここまでの流れ
発端は2025年6月。ディズニーとユニバーサルが、Midjourneyに対して連名で著作権侵害訴訟を起こした。訴状は、ダース・ベイダーやエルサ、バート・シンプソンといった看板キャラクターを、ユーザーがわずかなプロンプトで無断生成できてしまう状態を「組織的」かつ「意図的」な侵害だと断じた。ワーナーブラザース・ディスカバリーも同年9月に単独で提訴し、バットマン・スーパーマン・ジョーカー・フラッシュ・シュレック・ミニオンズといった一群のキャラクターを侵害の証拠として並べた。2025年11月4日、カリフォルニア中部地区連邦裁判所はこれら複数の訴訟を1件に統合。以降、3大スタジオ対Midjourneyという構図で審理が進んでいる。
ディズニー・ユニバーサルが提訴ダース・ベイダーやエルサなど看板キャラクターの無断生成を「組織的な著作権侵害」として提訴。法定損害賠償と差し止めを求めた。
ワーナーブラザースが単独提訴、後に統合バットマン・スーパーマン等を巡り追加提訴。同年11月、裁判所が全訴訟を1件に統合した。
開示範囲を限定する判断担当判事のジョエル・リクリン判事が、スタジオ側が開示すべき情報を「一般消費者向けAIツール」に限定する決定を下した。Midjourneyが求めていた社内AI活用の詳細は対象外とされた。
Midjourneyが開示範囲の再考を要求ジョン・クロンスタット判事に対し、スタジオの事業計画・研究資料・学習データ・モデルの重み・取締役会資料までの開示を要求。「フェアユース」と「unclean hands(自らも同じ穴のムジナ)」の両抗弁を補強する狙いとされる。
Midjourneyが請求棄却を申し立て「一部ユーザーがサービスを侵害に使ったというだけで、サービス提供者を寄与侵害の責任に問うことはできない」として、訴訟そのものの却下を求める申立てを提出した。
Midjourneyの反撃──「煽ってはいない」という一手
7月21日にMidjourneyが提出した申立ての核は、著作権法における「寄与侵害(contributory infringement)」の成立要件にある。判例上、オンラインサービスの提供者が寄与侵害に問われるには、単に一部利用者が侵害目的で使ったという事実だけでは足りず、提供者が侵害行為を積極的に「煽動(induce)」したことを示す必要がある、というのがMidjourney側の主張だ。訴状はその煽動の具体的な事実を示せていない、というのが今回の申立ての骨子である。
Midjourneyは、汎用の画像生成ツールがたまたま著作権キャラクターを描けてしまうことと、提供者がその侵害行為を「煽った」ことは別問題だと切り分ける。
開示要求の裏側にあるのは「unclean hands」の抗弁だ。訴えている側が自社制作にAIを使っているなら、Midjourneyだけを罰する道理はない、という論法である。
スタジオ自身のAI利用を暴けるか──開示範囲を巡る攻防
今回の訴訟でもう一つの見どころが、開示(ディスカバリー)の範囲を巡る駆け引きだ。2026年6月中旬、リクリン判事はスタジオ側が開示すべき情報を「一般消費者が使う製品に関するAI」に限定する決定を下した。これに対しMidjourneyは7月上旬、事業計画・調査レポート・学習データセット・モデルの重み・取締役会向け資料まで対象を広げるよう求め、判事の再考を促した。
Midjourney側の弁護士は申立て書でこう述べている。「もし原告らが、自らが罰しようとしているまさにその行為をしているのなら、その証拠はMidjourneyのフェアユースおよびunclean handsの抗弁の核心に関わる」。一方でスタジオ側の弁護士デイビッド・シンガー氏は、求めているのは自社の映画やテレビ番組を無断で複製・上演・翻案されない権利であり、「著作権者であれば誰でも侵害者に対して主張する当然の権利だ」と反論している。
この開示範囲を巡る審理は2026年8月17日に予定されている。ここでの判断が、その後の本案審理でどこまで「スタジオ側の内情」が証拠として使えるかを左右する。
何が賭かっているのか──数字で見る訴訟の重み
この訴訟が単なる企業間のいざこざで済まない理由は、請求されている金額と、判決が持つ射程の広さにある。
1件あたり最大15万ドルという法定損害賠償の水準は、生成された画像の「件数」次第で天文学的な総額に膨らみうる仕組みだ。スタジオ側は差し止め命令(injunction)も求めており、認められればMidjourneyは特定キャラクターの生成を技術的にブロックする対応を迫られる可能性がある。
さらに射程が広いのは、この裁判で示される「フェアユースの線引き」が、Midjourney一社にとどまらない点だ。学習データに著作権保護コンテンツを含む画像生成AIは他にも数多くあり、判決の論理はそのまま類似サービスの法的リスク評価に流用される。裏を返せば、この訴訟の結末を見届けずに「画像生成AIの著作権リスクは低い」と楽観するのは早計だということでもある。
Midjourneyを使う人は、いま何をすべきか
訴訟の当事者はあくまでMidjourney社であり、個人ユーザーが今すぐ何かを訴えられる状況にはない。とはいえ、これから同サービスを商用利用しようとしている人には、いくつか押さえておきたい実務的な注意点がある。
「〇〇風」ではなく実在キャラクターの固有名詞を含むプロンプトは、たとえ個人利用でも権利者からのクレーム対象になりうる。商用の成果物では特に、既存IPを直接想起させる出力は使わない判断が無難だ。
Midjourneyに限らず画像生成AIの多くは、商用プランの利用規約に著作権侵害時の責任分担・補償範囲を定めている。契約更新のたびに、この条項が変わっていないか目を通す価値がある。
開示範囲が広がれば審理は長期化し、狭いままなら本案の判断が早まる可能性がある。差し止め命令が出れば、特定の生成機能に制限がかかることも考えられる。継続利用を前提にしている人ほど、この日程は覚えておきたい。
そもそも画像生成AIは1つのツールに固定して使うものでもない。用途やリスク許容度に応じて、Midjourneyの口コミ・評判や画像生成AIの一覧を見比べながら、案件ごとに使い分ける発想を持っておくと、こうした訴訟の帰趨に振り回されずに済む。
編集部の見立て
今回の申立てで注目すべきは、Midjourneyが「フェアユース」という使い古された盾だけでなく、スタジオ自身の振る舞いを法廷に持ち込むという攻めの一手に出た点だと考えます。開示範囲を広げさせる狙いが通れば、この訴訟は単なる侵害の有無を超えて、「ハリウッドもAIをどう使っているか」という業界全体のダブルスタンダードを白日の下に晒す場になりかねません。
一方で、寄与侵害の抗弁は法的には筋の通った主張ですが、「煽動の証拠がない」という一点突破で棄却まで持ち込めるかは楽観できません。看板キャラクターを次々と生成できてしまう仕様そのものが、裁判所には十分「意図的」と映る可能性も残っています。
読者にとって大事なのは、この訴訟がMidjourney一社の存続問題ではなく、画像生成AI全体の著作権リスクの相場観を決める一戦だという点です。8月17日の審理、その先の本案判断まで、他人事ではなく自分の使い方に置き換えて追いかける価値があります。
まとめ
2026年7月21日、Midjourneyはディズニー・ユニバーサル・ワーナーブラザースによる著作権訴訟に対し、請求棄却を求める申立てを提出しました。「一部ユーザーの悪用だけでサービス提供者の責任は生じない」というのがその骨子です。同時に、スタジオ自身の社内AI利用の開示を求める攻めの姿勢も見せています。
個人ユーザーが直ちに何かの責任を問われる話ではありません。ただし、実在キャラクターを直接想起させる出力を商用利用する際のリスクや、利用規約の補償条項は、この訴訟の帰趨にかかわらず今から確認しておいて損はありません。
開示範囲を巡る次の審理は2026年8月17日。ここでの判断が、本案の行方だけでなく画像生成AI業界全体の著作権リスクの相場観を左右します。一つのツールに依存せず、用途とリスクに応じて選び直せる目を持っておくことが、こうした法廷闘争に振り回されない一番の備えです。
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