Anthropic は2026年10月13日付で、ワシントンD.C.巡回区連邦控訴裁判所に再審理の申立書を出した。求めているのは、9月25日の判決を3人の裁判官による審理のやり直し、または同裁判所の全員の裁判官による審理で見直すことである。その判決は、国防総省がAnthropicを国家安全保障上の「供給網リスク」と認定した措置を、2対1で支持していた。

この認定の発端は、Claudeに付けた2つの利用禁止、つまり米国民の大規模監視と、人間が関与しない致死的な自律兵器への利用を、Anthropicが契約から外さなかったことにある。8月27日にカリフォルニア北部地区の連邦地裁が、同じ時期に出された別の根拠に基づく認定を違法と判断した経緯は、前回の記事で伝えた。今回の主題は、その続き、つまりD.C.巡回区控訴裁の判決文と、Anthropicの申立書が何を言っているかである。

なお、国防総省は2026年現在、自らを「戦争省(Department of War)」と呼んでおり、判決文の当事者名もその表記になっている。本文では国防総省と書く。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報は、D.C.巡回区控訴裁の記録にある再審理申立書(2026年10月13日付)と、その付属資料として添付された9月25日の判決文です。申立てからは約4日が経過しており、速報ではなく、判決文と申立書を読み直したうえでの解説です。裁判所が再審理を認めるかどうかの決定は、10月17日時点で確認できていません。以下の日付はすべて米国の暦に従っています。

Anthropicの「供給網リスク」認定とは何か

「供給網リスク」とは、国防総省が使うIT製品やサービスの供給元が、その機能を妨害したり、データを抜き取ったりしうる危険のことだ。根拠法は2018年の連邦調達サプライチェーン安全法で、認定されると、国防総省はその供給元との契約や、その供給元を使って国防総省向けの仕事をする下請け契約を禁じることができる。申立書は、この条文がもともと、カスペルスキーやファーウェイのような外国の敵対的な企業を念頭に置いたものだと主張している。

経緯は判決文に沿うとこうなる。2025年の秋から、国防総省はClaudeを「あらゆる合法的な用途」に使えるようにする契約条項を求め、Anthropicは多くの利用制限を緩めた一方で、致死的な自律兵器と米国民の大規模監視の禁止だけは残した。交渉は数か月で行き詰まった。2026年2月24日にアモデイCEOとヘグセス長官が会談し、27日までの受け入れを迫られ、26日にAnthropicが拒否を公表した。その翌日、大統領と長官がSNSで同社を批判し、長官がClaudeを供給網から外す手続きに入った。

2026年2月24日から10月13日までの経過を、日数に比例させた時間軸で示した図。2月27日に大統領と長官がAnthropicを批判し、3月3日に正式な認定、3月9日にAnthropicが控訴裁に審査を請求した。5月19日に口頭弁論、6月3日に長官が再検討の請求を却下、8月27日にカリフォルニア北部地区連邦地裁が別の認定を違法と判断、9月25日にD.C.巡回区控訴裁が2対1で認定を支持し、10月13日に再審理を申し立てた。提訴から判決までは200日、判決から申立てまでは18日。

正式な認定は3月3日付で、通知は4日にメールで届いた。国防総省は6日に省内の全システムからAnthropic製品を「できるだけ早く、遅くとも180日以内に」外すよう命じ、請負業者が国防総省向けの仕事でAnthropic製品を使うことも禁じた。Anthropicは9日に控訴裁へ審査を請求し、4月8日に裁判所は執行停止を認めないまま審理を急ぐと決め、5月19日に口頭弁論が開かれ、9月25日の判決に至った。

2対1 9月25日の判決の票の割れ方
180日 省内システムから外す期限(3月6日の命令)
15通 申立書が挙げる第三者の意見書の数
一言でまとめると──「国防総省との契約条件の争いが、AIの利用制限そのものを調達リスクと読む判決に行き着いた」。Anthropicはその読み方を、全員の裁判官で見直すよう求めています。

判決文はClaudeの利用制限を、なぜ調達リスクと呼んだのか

多数意見を書いたのはカッツァス判事で、ラオ判事が加わった。ヘンダーソン判事は反対意見を書いている。多数意見の出発点は、Anthropic自身が認めている事実だ。同社はClaudeの中に、特定の作業をさせない制限を組み込んでいる。判決文によれば、その制限が政府の利用者の依頼した作業を止めたことが、複数回あった。

判決文が挙げる例は2つある。1つは、疾病対策予防センター(CDC)が感染症の拡大防止に関する機微な研究についてClaudeに問い合わせたとき、Claudeが応答を拒んだという件だ。もう1つは、海外での軍事作戦をめぐり、契約上の禁止がその利用に及ぶかどうかで争いが起き、国防総省が「Claudeが必要なときに必要なとおり動くか」に確信を持てなくなったという件である。国防総省は具体的な作戦名を明かしておらず、判決文はAnthropicが記録に出した報道に触れるにとどめている。

では、それがなぜ供給網リスクになるのか。条文は、リスクを「誰かが妨害し、悪意で不要な機能を入れ、データを抜き、あるいはその他の形で操作する」ことと書く。多数意見はこの「操作する」を、辞書的な意味で「巧みに配置し、動かし、制御する」と読み、悪意の有無は問わないと判断した。

But at least as applied here, the statutory definition of a “supply chain risk” turns on what Anthropic does, not why Anthropic does it.

(訳)少なくとも本件に当てはめる限り、「供給網リスク」の法律上の定義は、Anthropicが何をするかで決まり、なぜそうするかでは決まらない。

— D.C.巡回区控訴裁、2026年9月25日の判決文(多数意見)より

多数意見は同じ箇所で、Anthropicが「高潔な意図」でClaudeを制御していることを疑う理由はない、とも書いている。申立書によれば、国防総省は当初、Anthropicを敵対的な当事者で、軍事作戦を妨げる動機があると位置づけていたが、多数意見はその筋書きを採っていない。動機ではなく、制限を組み込めるという事実と、それが実際に作業を止めたという事実で、リスクを認めた形になる。

憲法上の主張も退けた。判決文は、国防総省がAnthropicを外したのは、同社が必須と考えた契約条項を受け入れなかったからであり、AI規制を支持する発言のためではない、と結論づけている。国防総省は6月3日の再検討の拒否で、認定が「Anthropicは納入後のClaudeを制御できる」という前提に立っていないと明確にしており、判決もこの点を踏まえている。反対意見のヘンダーソン判事は、この条文が対象とするのは「欺瞞的な手段で行う破壊的な行為」だと読んだ(申立書による引用)。

再審理の申立ては何を争っているのか

申立書の核は、多数意見が「例外的に重要な4つの問題」を、最高裁や同じ裁判所の先例と食い違う形で決めた、という主張だ。4つを順に並べる。

01
条文の守備範囲

「操作する」を悪意抜きで読めば、あらゆる請負企業が自社製品を設計し動かしている以上、全員が認定の対象になりうる。AIの訓練を理由にできるなら、すべてのAI企業に及ぶ、と申立書は述べる。

02
法が定めた手続き

条文は認定の前に通知と反論の機会を求めている。申立書によれば、長官は緊急性を1文で述べて事前の通知を省いた。多数意見はこれを「結果は変わらなかった」として問題なしとしたが、法律に書かれていない「害のない誤り」の理屈を持ち込んだ、と申立書は批判する。

03
適正手続き

外国のテロ組織とされる団体の指定でさえ、認定の前に通知と反論の機会が要るとするのが同じ裁判所の先例だ。国防総省は認定後もClaudeを軍事作戦で使い続けており、緊急性の主張と合わない、とAnthropicは訴える。

04
表現の自由と、別の裁判所の判断

多数意見は発言と認定の因果関係を認めなかった。一方、8月27日のカリフォルニア北部地区連邦地裁は、似た記録から、発言が認定の動機になったと判断した。同じ長官による同じ時期の2つの認定について、結論が割れたままになっている。

申立書はさらに、元安全保障担当高官、元軍幹部、業界団体、149人の元裁判官などによる意見書が計15通出ていることを挙げ、判決の影響が当事者の外に及ぶと主張する。この裁判所はこの法律に基づく審査について専属の管轄を持つため、判決は最高裁に持ち込まれない限り最終判断になる、というのも申立書の論点だ。

申立書が求めているのは判決の取り消しそのものではなく、審理のやり直しである。再審理を認めるかどうかを決めるのは裁判所で、認められなければ9月25日の判決がそのまま残る。

Claudeは使えなくなるのか──国防総省の調達の範囲

ここまでの話は、国防総省の調達に対する措置である。一般向けのClaudeの提供を止める命令ではない。ただし、報道の書き方は割れている。The Next Webは判決の日に、軍とその請負業者によるClaudeの利用を禁じるものだと簡潔に書いた。法律事務所のHolland & Knightが9月29日に出した解説は、もっと範囲を絞って読んでいる。

A
個人・国防総省と関係のない企業:判決の対象外

認定が止めるのは、国防総省が結ぶ契約と、その契約の履行に使う技術である。Claudeを仕事や学習に使っている個人や、国防総省と取引のない企業の利用そのものを、この判決は止めていない。

B
国防総省と契約のある企業:契約の履行に使うかが分かれ目

Holland & Knightの解説によれば、禁止は契約ごとのもので、連邦調達規則の条項は契約の履行にあたって使う場合を対象にしている。無関係な社内業務や商用の用途が、それだけで禁じられるとは限らない。請負業者には、契約担当官から書面の指示がない限り、Anthropic製品の排除や証明を自分から行う義務はないという。

C
AIを選ぶ担当者:利用制限が調達の論点になった

3月6日の命令は、国防総省がOpenAIとの契約拡大に動いた時期と重なる。どのモデルを使えるかの線引きが、性能や価格だけでなく、ベンダーの利用条件でも引かれうることを、この件は具体例で示した。

⚠ 国防総省と取引のある方へ
Holland & Knightの解説は、請負業者が確認すべき点として、Anthropic製品が国防総省に納める成果物に入っているか、契約の履行に使われているか、下請けや供給元が使っていないか、を挙げています。連邦調達規則の52.204-29は「合理的な調査」を、52.204-30は履行中に使った場合の報告を定めています。自社の契約書にこれらの条項や、契約担当官から出た書面の指示があるかを、契約書と下請け契約の両方で確かめてください。法的な助言ではないため、判断は契約の当事者と弁護士の確認を経てください。

編集部の見立て

Editor's Opinion

この件を、AnthropicとClaudeだけの争いとして読むのはもったいないと考えます。判決文が問題にしたのは、Claudeの性能でも価格でもなく、ベンダーが製品に組み込んだ「やらせない作業」の線でした。同じ線は、安全のための設計とも、必要なときに動かない欠陥とも読めます。国防総省は後者として扱い、Anthropicは前者だと主張しています。2つの裁判所は、それぞれ別の条文のもとで、逆向きの結論を出しました。

AIを選ぶ側にとって実務的なのは、この読み方が軍の外へそのまま広がるとは限らない、という点です。ただ、利用条件や拒否の挙動が調達の審査項目になりうることは、すでに判決文という形で記録に残りました。使っているAIが、自社の業務のどの作業で、どんな理由で応答を断るのか。それを記録している組織と、していない組織とでは、同じ問いを突きつけられたときの答えの具体性が変わります。

もう1つ、確定していないことがあります。再審理が認められるのか、認められた場合に結論が変わるのか、いまは誰にも分かりません。カリフォルニアの判断が効力を保っているため、同じ会社の同じ認定が、一方では違法、他方では適法という状態が続いています。どちらかの結論を前提に、契約や調達の方針を固めるのは早いと考えます。

まとめ

2026年10月13日、Anthropicが、国防総省による「供給網リスク」認定を支持した9月25日のD.C.巡回区控訴裁の判決について、再審理を申し立てました。判決は2対1で、カッツァス判事が多数意見、ヘンダーソン判事が反対意見を書いています。

多数意見は、認定の可否が「Anthropicが何をするかで決まり、なぜそうするかでは決まらない」と判断し、Claudeの利用制限が政府ユーザーの作業を止めたことを根拠に挙げました。申立書は、条文の範囲、法定の手続き、適正手続き、表現の自由の4点で先例と食い違うと主張しています。

この措置が及ぶのは国防総省の調達です。3月6日の命令は、省内システムからの撤去と、請負業者が国防総省向けの仕事で使うことの禁止を定めました。Holland & Knightの解説は、禁止が契約ごとで、契約の履行に使う場合が対象になると読んでいます。

カリフォルニア北部地区連邦地裁は8月27日に、別の根拠に基づく同じ認定を違法と判断しており、結論は割れたままです。

9月25日の判決文は、Claudeが断ったことを理由に除外を認めた。10月13日の申立書は、その理由づけが他の請負企業にも向きうると訴えている。次に動くのは、D.C.巡回区控訴裁が申立てをどう扱うかだ。認めれば全員の裁判官で審理し直し、退ければ9月25日の判決が残る。