米調査報道メディアThe Interceptが2026年9月8日、情報公開請求(FOIA)訴訟で入手した400ページ超の文書をもとに、米国防総省とChatGPTを開発するOpenAI、ClaudeのAnthropic、Google、xAIが結んだ契約の中身を報じた。2025年7月に締結されたこの契約は4社とも上限2億ドル。文書には、OpenAIに提供を求めるモデルの条件として「拒否率を最小限に抑える」という一文があった。
OpenAIはこの文言について、最終的に署名した契約には含まれていないと主張している。一方、同じ2025年7月の契約から出発しながら、Anthropicだけは軍事利用の制限を巡って国防総省との交渉を決裂させ、7カ月にわたる対立に発展した経緯がすでにある。4社が同じ金額・同じ出発点から、なぜここまで違う道をたどったのかを、今回の開示文書に沿って整理する。
情報公開請求で出てきた400ページ──何が分かったのか
The Interceptは非営利団体Legal Advocates for Safe Science and Technologyとともに、国防総省を相手取った情報公開請求(FOIA)訴訟を起こしていた。2026年3月5日に提出した開示請求に国防総省が法定期限までに応じなかったため、同年4月にニューヨーク州南部地区連邦地裁へ提訴。この訴訟を通じて手に入れたのが、今回報じられた400ページ超の契約関連文書である。
対象になっているのは、2025年7月に国防総省とOpenAI・Anthropic・Google・xAIの4社がそれぞれ結んだ契約だ。金額はいずれも上限2億ドル(4社合計で最大8億ドル)で、「軍事上の優位性・有用性を高め、軍の意思決定を支援する」AIプロトタイプの開発が目的とされている。
文書から見えてきたのは、金額以上に契約が定める義務の中身だ。各社は国防総省の作戦や脅威に関するブリーフィングを提供する一方、国防総省側も評価用のベンチマークデータセットを企業に渡す。さらに企業側には、軍と共同での机上演習(想定訓練)や、自社技術が生むリスクの予測、技術者を軍に常駐させての導入支援まで求められている。双方向の情報共有を前提にした、単なる納入契約ではない関係であることが、文書の随所からうかがえる。
OpenAIの契約書に見つかった「拒否率最小限」の一文
今回の開示でもっとも注目されたのが、OpenAIとの契約を改定した文書に含まれていた一文だ。そこでは、国防総省向けに提供するモデル群を指す言葉として、次のように定義されている。
"'OpenAI Mission Models' refer to OpenAI models that are designed for national security use cases and have minimal refusal rates."
(訳)「OpenAI Mission Models」とは、国家安全保障用途向けに設計され、拒否率を最小限に抑えたOpenAIのモデルを指す。
「拒否率」とは、AIが利用者の指示を安全上の理由などで断る割合のことだ。それをあらかじめ低く設計したモデルを軍向けに求める文言が、契約の付属文書に存在していたことになる。
これに対しOpenAI広報のネイト・エバンス(Nate Evans)氏は、「拒否率を最小限にすることを義務付ける契約文言に、OpenAIが合意したことは一度もない」とThe Interceptに説明した。同社の主張では、この文言は国防総省側が示した草案の段階のものであり、OpenAIが拒否して最終的に署名した契約には含まれていないという。国防総省の広報担当ジェイコブ・ブリス(Jacob Bliss)氏も、この文言は現行のOpenAIとの契約には存在しないと述べたと報じられている。一方でThe Interceptによれば、国防総省側の担当弁護士は当初この文書を署名済みの契約だと認めていたが、後に説明を翻したという。しかもThe Interceptは、今回の開示請求そのものが「最終的に締結された契約文書に限る」と国防総省に指定し草案の除外を求めたものであり、実際に提供された文書のどこにも「草案」を示す表示は無かったとも伝えている。どちらの言い分が最終合意の実態と一致するかは、この記事の時点で確定していない。
一方でThe Interceptは、GoogleとxAIについて開示された契約文書には、この「System Oversight」に相当する項目そのものが見当たらないとも指摘している。黒塗りであっても項目名ごと存在するOpenAIの契約書と、項目自体が無いGoogle・xAIの契約書とでは、文書上の扱いが異なる。Googleの契約には、米国の敵対勢力が使うAI戦術について国防総省に助言する役割や、「責任あるAI」導入に関する研修を主導する役割が明記されている一方、自律兵器・国内監視への不使用を明文化した条項の有無は、少なくとも今回開示された範囲の文書からは確認できていない。
Anthropicだけが譲らなかった一線と、ここまでの経緯
4社は同じ2025年7月に、同じ上限2億ドルの契約から出発した。ところがAnthropicだけは、その後の追加契約を巡る交渉で国防総省と正面から対立している。この経緯は本サイトですでに詳しく報じたため、ここでは要点だけを時系列で振り返る。
4社と国防総省が上限2億ドルの契約を締結Claudeはこの契約のもとで、フロンティアAIとして初めて政府の機密ネットワークでの使用を承認された。
機密ネットワーク向け追加契約の交渉が決裂国防総省が求めた「あらゆる合法的用途」への無制限アクセスに対し、Anthropicは自律型兵器の運用指揮と国内の大規模監視への不使用という2つの制限を譲らなかった。
トランプ大統領がAnthropic製品の利用停止を指示ヘグセス国防長官はAnthropicを「供給網リスク」に認定した。
OpenAIは改定契約に署名2月6日付で改定内容を受け入れる合意に署名したのち、2月27日付で最新版の契約に署名した。「拒否率最小限」の一文が争点になっているのは、この改定契約を巡ってのことである。
連邦地裁がAnthropicへの認定を違法と判断米カリフォルニア北部地区連邦地裁のリタ・F・リン判事が、供給網リスク認定の取り消しと恒久的な差し止め命令を出した。
国防総省のAI窓口にChatGPT MilとGrok for Governmentが追加対象300万人以上のGenAI.milポータルに3社目・4社目が並んだが、Claudeの席は空いたままだった。
The Interceptが契約文書400ページ超を開示OpenAIの「拒否率最小限」条項や、GoogleとxAIの文書に歯止め条項が見当たらないことが明らかになった。
同じ月に交わされた同額の契約が、7カ月のあいだにこれだけ違う扱いを受けた。今回の開示文書は、その分岐点で各社が何を書面に残したのか(あるいは残さなかったのか)を、はじめて具体的な条文の形で見せている。
4社の契約、同じ金額で何が違うのか
今回判明した範囲を整理すると、4社の立ち位置の違いが見えてくる。
| 項目 | OpenAI | Anthropic | xAI | |
|---|---|---|---|---|
| 2025年7月契約の上限額 | 2億ドル | 2億ドル | 2億ドル | 2億ドル |
| 機密ネットワーク向け追加契約 | 2026年2月に署名 | 交渉決裂・未署名 | 署名(時期は文書未確認) | 署名(時期は文書未確認) |
| 軍事利用の歯止め条項 | 「System Oversight」項目はあるが全文黒塗り | 自ら要求したが国防総省が拒否 | 該当項目自体が文書に見当たらず | 該当項目自体が文書に見当たらず |
| 今回の開示で新たに判明したこと | 「拒否率最小限」の一文があった草案の存在 | 交渉決裂の経緯が契約文書側でも裏付けられた | 「敵対勢力のAI戦術」助言役が契約に明記 | 個別の役割は今回の開示文書に明記なし |
4社のうち、軍事利用に自ら制限を課そうとした形跡が文書ではっきり確認できるのはAnthropicとOpenAIの2社だけだ。違いは、その制限を最終的な契約に残せたかどうかにある。Anthropicは残せず契約自体が止まり、OpenAIは(同社の説明が正しければ)残すことに成功した。GoogleとxAIについては、今回開示された文書の範囲では、同種の制限を求めたかどうかの記述自体が見当たらない。
AIを選ぶ人には、何を意味するか
普段の生活や仕事で使うGeminiやGrok、ChatGPT、Claudeの挙動が、この契約によって今日から変わるわけではない。それでも、軍という「もっとも圧力の強い顧客」を相手にしたとき各社がどこまで自社の安全方針を守ったかは、その企業の姿勢を測る手がかりになる。
利用規約に書かれた安全方針が、大口顧客の圧力の下でも維持されるかどうかを示す実例として見ておく価値がある。今回はAnthropicとOpenAIが制限を主張し、少なくとも文書上はGoogleとxAIにそれが見当たらないという差が出た。
高リスク用途への線引きをベンダーが契約書レベルでどう扱うかは、調達時のリスク評価に直結する項目だ。今回のように文書が公開請求で初めて明らかになる例もあり、公表資料だけで判断しきれない部分が残る。
高リスクな自動意思決定や監視用途への利用制限は、開発者向けの利用規約にも波及しうる条件だ。自社サービスがどの用途に当たりうるかを、各社の利用ポリシーで確認しておく意味がある。
編集部の見立て
今回の件でまず押さえておきたいのは、OpenAIとAnthropicの結果が正反対に見えても、出発点はどちらも「自社から制限を求めた」という同じ行動だったという点です。違いは相手が折れたかどうかであって、姿勢の差ではありません。この違いを、企業ごとの安全意識の優劣として単純化して読むと、実際に起きたことを見誤ると考えます。
もう一点気になるのは、GoogleとxAIの契約文書に同種の条項が見当たらないという指摘の扱い方です。The Interceptも「文書に無い」としか書いておらず、「求めなかった」のか「文書に載らなかっただけ」なのかは、今回の開示だけでは区別できません。この段階で結論を出すのは早いというのが編集部の見立てです。
それでも、契約という書面の形で各社の立ち位置が並んだこと自体には意味があると考えます。これまでは各社の公表資料や広報コメントでしか比較できなかった話が、同じ枠組みの契約書という共通の物差しで初めて突き合わせられるようになりました。今後の開示でGoogleとxAIの文書が増えれば、この比較はさらに精度を増していくはずです。
まとめ
The Interceptが2026年9月8日、情報公開請求(FOIA)訴訟で入手した契約文書400ページ超をもとに、国防総省とOpenAI・Anthropic・Google・xAIが2025年7月に結んだ上限2億ドルずつの契約の中身を報じました。OpenAIとの改定契約には「拒否率を最小限に抑える」モデルを求める一文があり、OpenAIはこれが最終契約には含まれていないと主張しています。
同じ契約から出発しながら、Anthropicは2026年2月に自律兵器・国内監視への不使用という一線を譲らず追加契約の交渉が決裂し、一時は政府調達から排除される事態になりました(2026年8月27日に連邦地裁がその認定を違法と判断)。GoogleとxAIについては、今回開示された文書の範囲では同種の歯止め条項が確認できていません。
読者が日常で使うAIの挙動が今日から変わるわけではありませんが、各社が高リスク用途にどう線を引いているかを契約書という共通の形式で比較できるようになった点に、今回の開示の意味があります。
FOIA訴訟はまだ続いており、GoogleとxAIの契約についても今後さらに文書が開示される可能性がある。両社の契約に歯止め条項が実際にあるのかどうかは、その開示を待つことになる。