米連邦取引委員会(FTC)が2026年10月26日、Anthropicの幹部に証言を求める要求を送った。FTC広報が、AxiosとThe Hillの取材に確認している。
2週間足らず前、FTCはAnthropicとOpenAIに、事故の記録やマーケティング資料などの書類を出すよう求めていた。今回はその次の段階で、人が自分の言葉で答えることを求められている。違反が認定されたわけではない。ただ、調べる側の手が書類の山から人へ伸びたことは、はっきりした変化である。
10月26日に何が起きたのか
Axiosが10月26日(月曜・米国時間)に報じた内容は、短くまとめられる。FTCが、消費者への被害を調べる調査の一環として、Anthropicの幹部に証言を求める要求を送った。FTC広報は同社が受け取ったことを確認し、ほかのAI企業の個人にも同様の要求が出ていると述べたが、社名や人数は明かさなかったという。
The Hillは同じ日に、広報が自社の取材にも確認したと伝えている。報道の元は同じAxiosだが、広報への確認が2つの媒体で取れている点は、この話の足場になる。
FTCの調査が表に出る OpenAIとAnthropicを含む調べが進んでいると報じられた。このとき既に、近く書類の提出を求め、のちに経営幹部の証言も強制する方針だと伝えられていた(詳しくは9月30日の記事)。
2社に書類の提出を求める要求が届く セキュリティ事故、安全対策、マーケティング資料、プライバシーポリシーが対象と報じられた(10月18日の記事)。
Anthropicの幹部に証言を求める要求 FTC広報が確認。同じ日にAnthropicは株式公開に向けた書類(Form S-1)を米証券取引委員会に提出している。
書類の要求と証言の要求は何が違うのか
FTCが調査中に使う民事調査要求(Civil Investigative Demand、略してCID)は、書類の提出だけでなく、質問への書面での回答や、宣誓のうえでの口頭の証言まで求められる仕組みだ。報道は証言の要求を「召喚状(subpoena)」と呼ぶ社と「民事調査要求」と呼ぶ社に割れていて、どちらの法的な手段かは確認できていない。以下では「証言を求める要求」と書く。
書類と証言の違いは、誰が語るかにある。書類は、会社が弁護士と相談しながら選び、整えて出す。証言は、幹部本人が質問を受け、その場の言葉で答える。広報の文面や公式ブログの言い回しではなく、社内で実際に何が判断されていたかが出てくる場だ。
| 項目 | 書類の要求(10月中旬) | 証言の要求(10月26日) |
|---|---|---|
| 求めるもの | 事故の記録、安全対策、販促資料、プライバシーポリシー | 幹部が答えること(質問の内容は報じられていない) |
| 宛先 | OpenAIとAnthropicの2社 | Anthropicのみ確認。他社の個人にも出たとFTC広報は述べた |
| 氏名・日程 | 該当なし | いずれも報じられていない |
| 法的な位置づけ | 民事調査要求と報じられた | 報道により「召喚状」「民事調査要求」と呼び方が割れている |
IPOの書類と同じ日だった意味
証言の要求が出た10月26日は、Anthropicが株式公開の書類を出した日でもある。書類の中身は別の記事で扱った。ここでは、FTCの調査との接点だけを拾う。
Axiosによると、この書類でAnthropicは、FTCの調査が「significant costs and model design changes(大きな費用とモデルの設計変更)」につながりうると投資家に警告している。また、今後も「disproportionate government scrutiny(不釣り合いな政府の注視)」の対象であり続けると見込む、とも書いたと伝えられている。引用は報道を通した孫引きで、書類の原文でそのまま確かめたものではない(※観測として扱う)。
この記述は、読者にとって2つの意味がある。1つは、会社自身が調査の結果としてモデルの設計が変わりうると認めている点。もう1つは、同じ書類が自社を「不釣り合いな注視を受ける側」と位置づけている点で、これは会社側の見方にすぎず、FTCの動機を示すものではない。
まだ分かっていないこと
報道を突き合わせても、空白のまま残る点が多い。この調査の見通しを語る前に、並べておく。
対象になった幹部の氏名も役職も報じられていない。経営トップなのか、安全対策や製品の責任者なのかで、調べている焦点の読み方が変わる。
日程は報じられていない。証言の中身が外に出る経路も不明で、書類と違って、要点が表に出るとは限らない。
FTCが確認したのはAnthropicだけで、OpenAIの幹部への同種の要求は確認されていない。「他社の個人にも出た」という広報の説明が、OpenAIを指すとは限らない。
要求書は公開されていない。報道が挙げる事例(モデルによる誤通報の件など)が、要求書で名指しされているかどうかも確認できていない。
Claudeを選ぶ人が確かめる3点
調査の結果が出るまで、Claudeの機能や料金が変わる発表は、確認できた範囲では出ていない。それでも、使う側が手元でできる確認はある。
FTCが先に書類で求めたのは、販促資料とプライバシーポリシーだった。会社が利用者に何を約束したかが調べられている以上、ClaudeでもChatGPTでも、契約時点のデータの扱いの説明を、日付つきで保存しておく価値がある。
会社自身が「モデルの設計変更」の可能性に触れている。業務で使っている組織は、挙動が変わるときの事前通知の有無と、旧モデルを使い続けられる期間を、契約書か管理画面で確かめておくとよい。
書類の要求はOpenAIにも出ており、OpenAIは同じ10月14日に8つの州から提訴もされている。報道で名前が挙がっているのは2社だが、調査の範囲が広がる可能性もFTCは示している。乗り換えれば避けられる種類の話ではない。
編集部の見立て
今回の動きで見ておきたいのは、要求の宛先が「会社」から「人」に移ったことです。書類は会社の文章として出ますが、証言は個人の記憶と言葉になります。調べる側が、会社の説明と社内の実態のずれを確かめにきている、という読み方は成り立ちます。ただし、要求書が公開されていない以上、これは推測の域を出ません。
もう一つ気になるのは、株式公開の書類と同じ日に出たことです。偶然かもしれません。それでも、公開を目指す会社にとって、調査は事業の見通しを左右する項目に変わりました。会社自身が「モデルの設計変更」に触れている点は、日々Claudeを使う人にとって、遠い話ではなくなる可能性があります。
一方で、Claudeだけを避ければ済む話ではないことも、書いておきます。OpenAIは書類の要求を受け、州からも訴えられています。AIを選ぶときの基準に、性能と料金に加えて「規制当局とどう向き合っているか」を入れる時期が来ているのだと思います。ただ、その材料はまだ少なく、判断を急ぐ段階ではありません。
まとめ
2026年10月26日、FTCがAnthropicの幹部に証言を求める要求を送ったと、FTC広報がAxiosとThe Hillに確認しました。10月中旬の書類の要求に続く段階で、他社の個人にも同様の要求が出ているとFTCは述べています。
認定でも提訴でもなく、調査の途中経過です。証言を求められた幹部の氏名、日程、要求の法的な位置づけ、OpenAIへの同種の要求の有無は、いずれも確認できていません。
Anthropicは同日のIPO書類で、調査がモデルの設計変更につながりうると警告したと伝えられています。使う側は、契約時点の条件を日付つきで残し、挙動が変わるときの通知の仕組みを確かめておくのが現実的です。
証言の日程が決まり、その内容が少しでも外に出るのか。それとも書類の分析が先に終わり、和解や提訴といった別の形で結果が見えてくるのか。現時点で確かなのは、FTCが人を呼ぶと決めたところまでだ。