中国のAI企業DeepSeekが10月17日、主力の軽量モデル「V4.1-Flash」を「V4.1-Flash-1017」へ更新した。新モデルを別名で出したのではない。API利用者が呼び出す名前はdeepseek-flashのまま、裏側のモデルだけが入れ替わった。価格表は1行も動いていない。

動いたのは成績だ。DeepSeekが公表した11項目のベンチマークは、すべて旧版を上回った。ターミナル操作で仕事を進めるAIの力を測る「Terminal-Bench 4.0」は、旧版の31.2から42.3へ。公称値ながら、11.1点、割合にして約36%の上積みである。

ChatGPTやClaudeの月額プランを使っている人にとって、DeepSeekのAPIは日常の道具ではない。それでもこの更新は、AIを選ぶ側が知っておく価値のある形をしている。値段を据え置いたまま、同じ名前の中身を差し替えるというやり方が、使う側の確かめ方を変えるからだ。前回の経緯はV4.1-Flashの登場と、V4-Pro退役の撤回で整理している。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はDeepSeek公式のAPIドキュメント(更新履歴・料金ページ)と、Hugging Faceのモデルカードで、いずれも2026年10月17日付です。本記事の公開時点で、およそ1日が経過しています。ベンチマークの数字はすべてDeepSeekの自己申告で、他社モデルの比較値もDeepSeekが同じ表の中で載せたものです。独立した評価機関による1017版の測定結果は、確認できた範囲ではまだ出ていません。料金は2026年10月18日朝時点の公式ページの値です。

DeepSeek V4.1-Flash-1017とは何が変わったのか

V4.1-Flashは、DeepSeekが9月10日に公開した軽量モデルである。画像も読める「マルチモーダル」対応で、重みは誰でも使えるMITライセンスで公開されている。今回の1017は、その小幅な更新版にあたる。モデルカードの文面も「マイナーアップデート」という位置づけだ。

公式の更新履歴とモデルカードが書いている変更点は、次の3つに絞られる。

  1. API・公式Webサイト・公式アプリのモデルが、同時に1017版へ切り替わった。呼び出す名前はdeepseek-flashのままで、料金と呼び出し方法は変わらない。
  2. 11項目のベンチマークが旧版より上がった。同時に、タスクの実行時間と出力の長さが縮んだと説明されている。
  3. DeepSeekのコーディング用ツール「DeepSeek Harness」や、テンセントのCodeBuddy、WorkBuddyなどに合わせて調整した。Harnessは0.2.1-rc.1以降への更新が推奨されている。

重みもHugging FaceでDeepSeek-V4.1-Flash-1017として同日に公開された。旧版と同じくMITライセンスで、手元の設備に載せて動かすこともできる。

11/11 公表されたベンチマークのうち旧版を上回った項目
+11.1点 Terminal-Bench 4.0の伸び(31.2 → 42.3)
0% API料金の変更幅(据え置き)
一言でまとめると──「値札は同じ、名前も同じ、中身だけが強くなって短く答えるようになった」更新です。公表された11項目すべてで、旧版を上回りました。

公称の数字を並べる──旧版との差と、他社との位置

下の表は、DeepSeekがモデルカードに載せた比較表から、コーディングとエージェント作業に関わる5項目を抜き出したものだ。数字は点数が高いほど良い。他社モデルの値もDeepSeekが同じ表に載せたもので、第三者の測定ではない。この点は頭に置いて読みたい。

ベンチマーク(公称値) 旧V4.1-Flash 1017版 GPT-5.6 Sol Opus 5
Terminal-Bench 4.0 31.2 42.3 39.9 51.8
DeepSWE v1.1 74.2 77.0 73.0 74.0
ProgramBench 20.3 29.1 23.0 37.0
NL2Repo-Bench 65.4 68.2 56.8 75.3
HLE(ツールなし) 36.8 42.6 44.5 56.3

旧版との差は、項目によって大きく違う。いちばん伸びたのはプログラムを一から作る力を測るProgramBenchで、20.3から29.1へ8.8点、割合では約43%の上積みだ。Terminal-Bench 4.0の11.1点がそれに続く。逆に、DeepSWEの伸びは2.8点にとどまる。実際のソフトウェアの不具合を直す作業は、旧版の時点ですでに高得点だったということだ。

他社との位置も、項目で表情が変わる。Terminal-Bench 4.0ではGPT-5.6 Solの39.9を上回り、DeepSWEとProgramBench、NL2Repo-Benchでも同じ並びになった。ただしOpus 5には、ProgramBenchで7.9点、Terminal-Bench 4.0で9.5点届かない。知識と推論の総合力を測るHLEでは、GPT-5.6 Solの44.5にも、Opus 5の56.3にも及ばない。強くなったのは「手を動かす仕事」の側で、「何でも知っている」側ではない。

HLE(ツールなし)の42.6という数字には、もうひとつの値が添えられている。問題を文章だけのものに絞って測ると、44.0になる。

— Hugging Faceのモデルカード(2026年10月17日)の表より

測定の条件にも注意がいる。Terminal-Bench 4.0はClaude Codeの枠組み、DeepSWEはMini-SWE-V2という枠組みで走らせた値だと明記されている。同じモデルでも、AIに道具を持たせる「ハーネス」が変われば点数は動く。自分の使うツールの上で同じ点数が出る保証はない。

DeepSeek APIの料金は変わったのか

変わっていない。deepseek-flashの単価は、100万トークンあたり次のとおりだ。トークンとは、AIが文章を処理するときの単位で、日本語なら1文字が1〜2トークン前後にあたる。

deepseek-flash(100万トークンあたり) オフピーク ピーク
入力(キャッシュヒット) 0.003ドル 0.006ドル
入力(キャッシュミス) 0.15ドル 0.30ドル
出力 0.60ドル 1.20ドル

ピークは、協定世界時の月〜金曜1時〜4時と6時〜10時で、日本時間にすると月〜金曜の10時〜13時と15時〜19時にあたる。中国の祝日は除かれる。それ以外はすべてオフピークで、価格はピークのちょうど半額になる。つまり日本の昼休みと夕方に使うと、倍の値札で計算される。

名前の扱いにも変更がある。旧世代のdeepseek-v4-flashとdeepseek-v4-flash-vision-expは引退済みで、これらの名前で届いたリクエストも1017版が処理し、Flashの料金で請求される。名前を直していない古いプログラムも、気づかないうちに新しい中身で動いていることになる。

ⓘ 検索APIが開放された。無料なのは10月31日まで
同じ日に、DeepSeekは自前の検索エンジンをAPIとして開放しました。DeepSeekの料金ページによると、検索(Search)と取得(Fetch)は、それぞれ成功1,000回あたり0.75ドルで、1万回なら7.50ドルです。DeepSeek Harness、Claude Code、Codexの経由で呼ばれたものは当面無料で、課金は北京時間の11月1日0時(日本時間の11月1日午前1時)に始まります。

「同じ名前で中身が入れ替わる」ことの意味

今回の更新で最も扱いに困るのは、成績の上がり方ではなく、上がった状態で黙って入れ替わるという運び方のほうだ。公式ドキュメントが案内する呼び出し名はdeepseek-flashだけである。版を指定して呼び出す書き方は、案内されていない。

01
良くなる方向でも、挙動は変わる

DeepSeekは出力が短くなったと説明している。要約の長さ、箇条書きの数、前置きの有無といった癖は、点数に出ない部分で動く。自分のプログラムが出力の形に依存しているなら、そこから崩れる。

02
名前では固定できない

旧名も新名も、同じ1017版に行き着く。更新前の挙動に戻したくなっても、APIの呼び出し名を変えるだけでは戻れない。

03
重みが公開されていることが逃げ道になる

旧版の重みはHugging Faceに残っている。自前で動かせる環境があれば、版を固定できる。クラウド経由の便利さと引き換えに、版の固定という選択肢を持てるのがオープンウェイトの強みだ。

救いは、入れ替えの事実と点数が公表され、重みまで同日に開けられている点にある。点数の根拠を確かめたい人は、モデルカードから辿れる。

で、あなたはどう動くか

読者の立場で、動き方は3通りに分かれる。

A
月額プランだけを使っている人

直接の影響はない。ChatGPTやClaudeの料金も機能も、今回の更新では動かない。ただし、Terminal-Bench 4.0で公称42.3の軽量モデルがこの価格で使えるという事実は、各社の次の価格改定を見るときの物差しになる。

B
APIでdeepseek-flashを呼んでいる人

すでに1017版で動いている。普段の入力を20〜30件選び、出力の形(長さ・書式・抜け)が崩れていないかを今日のうちに見る。コストは単価が同じ以上、出力が短くなったぶんだけ下がる見込みだが、実際の請求額は自分のログで確かめるしかない。

C
コーディング用のAIを探している人

DeepSeekのAPIは、Claude CodeやCodexに接続して使う方法が公式の連携手順で案内されている。有料のモデルと並べて、同じ作業を同じ道具で走らせる比較ができる。ただし公称の42.3が自分の作業で出るかは別問題で、実測が必要になる。

💡 比べ方の目安
モデルを比べるときは、点数より先に「同じ作業を同じ道具で10回走らせて、最後まで完走した回数」を数えてください。ベンチマークの点数は条件つきの数字ですが、完走回数は自分の仕事の数字だからです。

料金面では、DeepSeekの標準単価が最安の座を明け渡した経緯も合わせて見ておきたい。安さだけでDeepSeekを選ぶ理由は、すでに薄れている。今回の更新が足したのは、安さではなく、性能とのバランスの側だ。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の更新で最も印象に残ったのは、31.2から42.3という数字そのものよりも、更新の置き方です。新しい名前をつけて発売するのではなく、既存の名前の中身を入れ替え、価格表には触れない。利用者から見れば、何も申し込まないまま性能が上がります。

これは歓迎すべき面と、警戒すべき面が同居しています。歓迎すべきなのは、乗り換えの手間が要らないことです。警戒すべきなのは、検証する間もなく本番の挙動が変わることです。性能が上がる方向の変更であっても、出力が短くなれば、後続の処理が前提にしていた形は変わりえます。

もうひとつ気になるのは、点数の出どころです。今回の比較表は、DeepSeek自身が競合の数字まで含めて作ったものです。他社の値を自社の枠組みで測り直したのか、各社の公表値を持ち寄ったのかは、文面からは読み取れません。第三者の評価が出るまでは、順位ではなく「この水準に来ている」という目安として読むのが妥当だと考えます。

そのうえで、私たちは1017版の追加評価を待ちたいと思います。独立した評価が出れば、公称値とのずれが見えてきます。そこまで含めて、軽量モデルの勢力図は書き換わるのか、書き換わらないのかが決まります。

まとめ

DeepSeekは2026年10月17日、V4.1-Flashを「V4.1-Flash-1017」に更新しました。API・Webサイト・アプリの3つが同時に切り替わり、呼び出し名はdeepseek-flashのまま、料金も据え置かれています。

公表された11項目のベンチマークはすべて旧版を上回り、Terminal-Bench 4.0は31.2から42.3へ、ProgramBenchは20.3から29.1へ伸びました。ただしこれらはDeepSeekの自己申告で、HLEではGPT-5.6 SolとOpus 5の公称値に届いていません。

deepseek-flashの単価は、オフピークで入力0.15ドル・出力0.60ドル、ピークはその倍です。旧名で呼んでいたリクエストも、現在は1017版が処理しています。出力が短くなった分、後続の処理が前提にしていた形が変わる可能性があります。

次に日付が動くのは、10月31日の夜から11月1日の未明にかけてだ。DeepSeekの検索・取得APIは、Harnessなどを経由した利用が当面無料のあと、日本時間の11月1日午前1時から1,000回0.75ドルの課金に入る。無料のうちに自分の作業で回数を数えておけば、課金後の請求額が見積もれる。