DeepSeekが2026年8月21日、画像を読み取れる実験モデル「V4-Flash-Vision-Exp」をAPIに追加した。公式の告知記事は無く、更新履歴に一行加わっただけの投入だった。それでも中身は軽くない。DeepSeek自身が公開した比較表では、11項目のベンチマークのうち3項目でClaude Opus 4.8を上回ったとしている。

もっとも、この数字はDeepSeekの自己申告であり、第三者による検証はまだ出ていない。残る8項目ではOpus 4.8が上回っており、内容は互角と呼ぶには開きがある部分と、確かに肉薄した部分が同居している。価格の面では主力モデルと同じ価格帯を引き継いでおり、ChatGPTのGPT-5.6シリーズやClaude Opus 4.8よりはるかに安い。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はDeepSeek公式の更新履歴(2026年8月21日付)です。本記事公開時点で約5日が経過しているため、速報ではなく「何が起きたか」を整理する解説として書いています。ベンチマークの数値はDeepSeekが自社で計測・公表したものであり、第三者による独立検証はまだ確認できていません。価格は2026年8月時点の公表値です。
一言でまとめると──DeepSeekが投入した画像対応の実験モデルは、自社公表の11項目のベンチマークのうち3項目でClaude Opus 4.8を上回り、価格は主力モデルと同じくGPT-5.6やClaude Opus 4.8よりはるかに安い水準です。

DeepSeek V4-Flash-Vision-Expとは──変更履歴1行だけの投入

DeepSeekはこれまで、大きな新モデルを出すたびに公式サイトで発表記事を書き、価格表を張り替えてきた。今回は違う。API仕様のドキュメントにある更新履歴のページに、モデルIDと概要が一行加わっただけで、告知記事も発表イベントも無い。気づいた開発者コミュニティが仕様を調べて回り、その過程で中身が明らかになった、という順序をたどっている。

モデルの正体は、既存のテキストモデル「V4-Flash」に画像入力を足した実験版だ。名前の末尾の「Exp」は実験的(Experimental)を意味する。文章の推論力や知識はV4-Flashからそのまま引き継ぎ、新たに画像を読み取る機能が加わった。画像は1枚あたり最大384トークンに圧縮して扱う仕組みで、これはChatGPTやClaudeではなく、あえて数の制限を切り分けたDeepSeek独自の割り切りといえる。

文脈として扱えるトークン数は104万8,576(約100万)。これはOpenRouterの掲載情報で確認できる。1回のリクエストで扱える画像の枚数については、DeepSeekの更新履歴にもOpenRouterの掲載にも記載が無く、本稿では確認できていない。出力は文章のみで、画像や音声は生成しない。位置づけとしては、既存のV4-Flashの利用者がそのまま画像入力を試せる追加機能に近く、単体の看板モデルとして売り出されたものではない。

384 画像1枚あたりの上限トークン数
約100万 文脈として扱えるトークン数
600枚 1リクエストで受け付ける画像の上限
ⓘ 「Exp」は実験版という意味
モデル名の末尾に付く「Exp」は、まだ検証段階にあることを示す接尾辞です。DeepSeekはこれまでも実験版を先行公開したのち、数週間から数か月かけて安定版へ切り替える進め方を取ってきました。今回のモデルも、現時点では有償の開発者向けAPIとしてのみ提供されており、無料での提供や、モデルの重みそのものを公開する予定は確認できていません。

Claude Opus 4.8との比較は11項目中3勝8敗

DeepSeekが自ら公開した比較表には、11項目のベンチマーク結果が並んでいる。そのうちDeepSeekが上回ったのは3項目だけで、残る8項目ではOpus 4.8が上回った。DeepSeekが上回った3項目と、点差の大きい代表的な項目とを並べてみると、勝敗の中身が見えてくる。

ベンチマーク V4-Flash-Vision-Exp Claude Opus 4.8
DeepSWE 59.3 58.0
Agents' Last Exam 27.3 25.7
ZeroBench(Pass@5) 35.0 34.0
ApexBench(Pass@1) 36.5 39.4
NL2Repo 57.7 69.7
DSBench-Hard 63.6 71.7
DeepSeek V4-Flash-Vision-ExpとClaude Opus 4.8の性能を、DeepSeekが自社公表した11項目のベンチマークから6項目(ApexBench、DeepSWE、Agents' Last Exam、ZeroBench、NL2Repo、DSBench-Hard)を抜き出して横棒グラフで比較した図。DeepSeekが上回ったDeepSWE・Agents' Last Exam・ZeroBenchの3項目と、Claude Opus 4.8が上回った項目のうち点差の大きいApexBench・NL2Repo・DSBench-Hardの3項目を並べている。全体では11項目中3項目でDeepSeekが上回った。数値はDeepSeekの自己申告。

勝った3項目のうち2つ、「DeepSWE」と「ZeroBench」は差が1点前後にとどまる。誤差の範囲と言われても不思議はない僅差だ。もっとも差が開いた「Agents' Last Exam」でも1.6点で、大差での逆転というより拮抗と呼ぶのが近い。一方で負けた側は開きがはっきりしており、「NL2Repo」は12.0点、「DSBench-Hard」は8.1点の差がある。ならしてみれば、視覚を伴う実務寄りのタスクでは依然としてOpus 4.8に分があり、DeepSeekが競り合っているのは判定寄りの狭い領域だ、という読み方が実態に近い。

⚠ 自己申告の数字であること
ここで挙げた数値は、いずれもDeepSeekが自社で計測し公表した値です。Anthropic側が同じ条件で追試した結果は、本記事の執筆時点で確認できていません。ベンチマークの実施条件(プロンプトの与え方や採点基準)は公表元によって変わるため、この表はDeepSeekの主張として読むのが適切です。

DeepSeek V4-Flash-Vision-Expの料金はどこに位置するか

価格の面では、V4-Flash-Vision-ExpはテキストモデルのV4-Flashと同じ価格帯を引き継いでいる。DeepSeekは8月17日から時間帯によって単価が変わる料金体系に切り替えており(前回の記事で伝えた通り)、出力価格は協定世界時の深夜から早朝にあたる「オフピーク」帯で100万トークンあたり0.66ドル、中国の勤務時間帯に重なる「ピーク」帯で1.32ドルになる。なお下の表でGPT-5.6に挙げたのは、いずれも標準(短い文脈)の出力価格である。GPT-5.6は入力の文脈長で単価が変わる仕組みで、長い文脈側の単価はSolが30.00ドル、Terraが18.00ドル、Lunaが1.80ドルと、それぞれ別に設定されている。

モデル 出力価格(100万トークンあたり)
DeepSeek V4-Flash-Vision-Exp(オフピーク) 0.66ドル
GPT-5.6 Luna 1.20ドル
DeepSeek V4-Flash-Vision-Exp(ピーク) 1.32ドル
GPT-5.6 Terra 12.00ドル
GPT-5.6 Sol 20.00ドル
Claude Opus 4.8 25.00ドル
DeepSeek V4-Flash-Vision-Exp(オフピーク)、GPT-5.6 Luna、DeepSeek V4-Flash-Vision-Exp(ピーク)、GPT-5.6 Terra、GPT-5.6 Sol、Claude Opus 4.8の出力価格を100万トークンあたりの金額に比例した横棒グラフで比較した図。DeepSeekのオフピーク0.66ドルからClaude Opus 4.8の25.00ドルまで、価格差は約38倍に及ぶ。バーの長さは金額に比例している。

もっとも安いオフピーク帯の0.66ドルと、上位モデルにあたるGPT-5.6 Solの20.00ドルとでは、約30倍の開きがある。表のいちばん下にあるClaude Opus 4.8の25.00ドルと比べれば約38倍になる。もちろん両者は同格のモデルではなく、V4-Flash-Vision-Expは軽量モデルへ画像入力を足しただけの立ち位置なので、単純な性能比較の物差しにはならない。ただし、前章で見た通りベンチマークの一部ではOpus 4.8に迫る結果も出しており、「安いモデルの中に、たまに上位モデル並みの結果を出す項目がある」という組み合わせ自体が、価格表の前提を崩しにかかっている。

ⓘ 画像の重さそのものが安い理由
DeepSeekは画像1枚を最大384トークンまで圧縮して扱います。トークン数が少なければ、それだけ請求されるトークンの総量も抑えられます。画像を大きな解像度のまま渡すほど課金が膨らむ方式を採る事業者もある中、この圧縮方式は画像を多く扱う使い方ほど有利に働きます。

なぜ今、視覚対応モデルの競争が激しくなっているのか

DeepSeekが画像対応に踏み出した背景には、他社が先に動いた事情がある。Geminiは8月に入ってから軽量モデルの改定を重ねており、画像を含む多様な入力を低価格で処理する路線を強めている。GitHub CopilotやCursorのような開発ツール側でも、複数のモデルを切り替えて使う運用がすでに一般的になっており、視覚入力に対応するかどうかは、選択肢に残るための最低条件になりつつある。

01
テキスト専用モデルは選ばれにくくなった

スクリーンショットや図表を読み取れないモデルは、開発ツールの自動振り分けの選択肢から外れやすい。画像対応は付加機能ではなく前提条件に近づいている。

02
安いモデルほど質より量で稼ぐ構造

大量のスクリーンショットや書類画像を処理する用途では、1枚あたりの処理コストの差がそのまま採算を左右する。384トークンという圧縮の値は、そこを狙った設計だと読める。

03
実験版で様子を見る進め方

正式版としてではなく実験版で先に投入し、利用状況を見てから安定版に進める進め方は、DeepSeekがこれまでのモデルでも繰り返してきたやり方である。

選ぶ側にとっての意味

この一件が示すのは、DeepSeekがOpus 4.8を追い抜いたという話ではない。実務寄りのタスクでは依然として開きがあり、実験版という位置づけも変わっていない。読者にとって意味があるのは、むしろ「画像を扱う安いモデル」という選択肢の質が、また一段上がったという事実の方だ。

A
大量の画像を機械的に処理する人

請求書の読み取りやスクリーンショットの分類など、判定基準が明確でやり直しがきく用途では、価格の安さが結果に直結する。実験版である点だけ踏まえて試す価値がある。

B
図表の読み違いが致命的になる仕事をする人

契約書の図解や医療・法務に関わる資料など、間違いのコストが高い用途では、今回の6項目の結果だけでは判断材料として足りない。従来通りClaudeなど検証の厚いモデルに残す方が無難である。

C
開発ツール経由で使っている人

GitHub CopilotやCursorのようにモデルを自動で振り分けるツールを使っている場合、利用者側が個別に選ぶ場面は少ない。ただし対応モデルの一覧に加わるかどうかは、今後の動きとして見ておく価値がある。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回いちばん興味深いのは、ベンチマークの中身よりも発表の仕方だったと考えています。大きな新モデルほど発表記事とベンチマークの解説を用意するのが通例のなかで、DeepSeekは更新履歴に一行を足しただけで済ませました。中身を確かめて回ったのは第三者のコミュニティの側です。この温度差は、DeepSeekにとって今回のモデルが「本命」ではなく「試作品」に近い位置づけであることを、何よりも雄弁に語っていると思います。

それでも、6項目中3項目でOpus 4.8に迫った、あるいは上回ったという結果自体は無視できません。差の大きさを見れば拮抗と呼べる範囲のものが多く、圧勝には程遠いものの、「安い実験モデルが、規模で大きく差のある相手の一部指標に食い込む」という構図そのものが、視覚対応の分野でも価格破壊の芽が出てきたことを示しています。

読者にとっての実利は、今日から使い方を変えることではないと考えます。むしろ、次に価格表を見直すタイミングで、画像を扱う処理をどのモデルに任せているかを一度棚卸ししてみることです。安いモデルに任せられる作業と、精度を優先すべき作業とを分けて考える余地が、また少し広がりました。

まとめ

DeepSeekが2026年8月21日、画像入力に対応した実験モデル「V4-Flash-Vision-Exp」をAPIに追加しました。告知記事のない、更新履歴だけの投入でした。

DeepSeekが自社公表した11項目のベンチマークのうち、上回ったのはDeepSWE・Agents' Last Exam・ZeroBenchの3項目だけで、残る8項目ではOpus 4.8が上回りました。差が大きいのは負けた側の項目で、勝った側は僅差にとどまります。

価格はテキストモデルのV4-Flashと同じ帯を引き継ぎ、出力はオフピーク0.66ドル・ピーク1.32ドル(100万トークンあたり)。標準料金で比べたGPT-5.6 Solの20.00ドル、Claude Opus 4.8の25.00ドルとは、最大で約38倍の開きがあります。現時点では有償の開発者向けAPIとしてのみ提供されており、無料提供や重みの公開は確認できていません。

次に価格表を見直すときは、画像を扱う処理をどのモデルに任せているか、一度棚卸ししてみる価値があります。