Grok の画像生成機能「Grok Imagine」を巡り、米ミネソタ州の「ヌード化」禁止法(HF1606)への異議を訴えていたxAIの仮処分審理が、8月19日にセントポールの連邦地裁で開かれた。争点の中身は前回の記事で伝えた通りだが、審理の前日、法廷にもう一つの書面が加わった。訴訟の当事者ではない米司法省(DOJ)が、意見陳述書を提出したのだ。
8月19日、法廷で交わされた主張
審理は8月19日午前(米国時間)、ミネソタ州セントポールのウォーレン・E・バーガー連邦ビルで開かれた。xAI側の代理人ロバート・ダン氏は、法律が広すぎる作りになっている点を改めて主張した。
州議会の憲法担当の弁護士がその日たまたま欠席していたのかは分からないが、議会が第一修正の問題を検討しなかったのは明らかだ。
ダン氏はさらに、法律には同意・芸術表現・パロディを除外する規定が一切ない点を挙げ、州が同じ目的をより狭い規制で達成できると主張した。代案として、同意の有無と拡散行為に的を絞った書き換えや、誠実に対策を講じる事業者向けの「セーフハーバー」の新設を提案したと伝えられている。
対するミネソタ州側は、アシスタント司法長官のジャニン・キンブル氏が応じた。キンブル氏の主張は、xAI側とは別の土俵からの反論だった。
AIに第一修正上の権利はない。そこに人はおらず、アルゴリズムの自動処理に表現も存在しない。
キンブル氏はさらに、利用規約による禁止は参入障壁にならず、不適切な生成を個別に食い止めることは事実上不可能だと述べ、「違反への対応は、事後にしか発動しない」と実効性の乏しさを指摘した。xAI自身が、ヌード化画像を作成する利用者が今も数万人単位で存在すると報告している点も、自主対策の限界を示す根拠として挙げられている。
ミネソタ州は、アルゴリズムが自動生成した画像に第一修正の保護は及ばないと主張。xAIは、生成物であっても内容規制には厳格審査が必要だという立場を崩していない。
xAIは誠実に対策した事業者を免責する規定の追加を提案。州側は、利用規約による禁止だけでは参入障壁にならないとして退けている。
州側は「違反への対応は事後にしか発動しない」と実効性を問題視。xAI側は、対応の的確さを訴訟の各局面で示そうとしている。
フランク判事はこの日、双方の主張を聞いた上で判断を留保した。できるだけ早く判断を示すと述べたと伝えられているが、判決の期日は明らかにされていない。仮処分が出るまで、HF1606はxAIに対しても引き続き効力を持つ。
米司法省の意見書──「異例」の中身
今回の審理で新たに加わったのが、審理前日の8月18日に米司法省(DOJ)が提出した「意見陳述書(statement of interest)」だ。DOJはxAI側について訴訟の当事者になったわけではなく、仮処分そのものの可否については立場を示していない。その代わりに主張したのは、ミネソタ州法が連邦法がすでに対象としている行為にまで踏み込んでいるという論点だった。
DOJが個別の州法を巡る訴訟にこの種の意見書を提出するのは珍しく、AI規制を「国が主導すべき領域」と位置づけたい連邦政府の姿勢がにじむ場面といえる。
二度目の介入──コロラド州でも同じ構図があった
実はDOJがxAI関連の訴訟に登場するのは、これが初めてではない。2026年4月24日、DOJはコロラド州の「AI法」(SB24-205、アルゴリズムによる差別を規制する法律)を巡るxAIの訴訟に、意見書ではなく介入(インターベンション)という、より強い形で参加した。連邦公民権法に基づき自ら訴状を提出し、州法が人種や性別などを理由とする差別を助長するとして平等保護条項違反を主張したのだ。その4日後の4月27日には、州側とxAIの共同申立てにより、同法の施行が一時停止されている。
ミネソタ州の一件でDOJが取った行動は、コロラド州のときより一段軽い形式にとどまる。原告として訴状を出したわけではなく、あくまで第三者としての意見表明だ。ただし狙いは共通している。州ごとに異なるAI規制が積み重なることへの牽制である。
| 比較項目 | コロラド州(2026年4月) | ミネソタ州(2026年8月) |
|---|---|---|
| 対象の法律 | AI法(SB24-205、アルゴリズム差別規制) | HF1606(ヌード化禁止) |
| DOJの関与形式 | 介入(訴状を提出し当事者化) | 意見陳述書(当事者にはならず) |
| 主張の根拠 | 連邦公民権法・平等保護条項 | 連邦法との重複・AI産業への影響 |
| 直後の結果 | 4日後に州法の施行を一時停止(共同申立て) | 審理は結論持ち越し、法律は施行中のまま |
ここまでの経緯
ミネソタ州の一件は、7月の提訴から3週間余りを経て今回の審理にたどり着いた。詳しい争点の中身は前回の記事で伝えた通りだが、改めて要点だけ並べておく。
xAIがミネソタ州司法長官エリソン氏を提訴HF1606は第一修正に違反すると主張した。
緊急差し止め(TRO)を却下理由は法律の中身ではなく、提訴のタイミングが遅すぎたという手続き上の判断だった。
HF1606が施行違反1件あたり最大50万ドルの民事制裁金が定められている。
エリソン氏が仮処分への反対意見書を提出xAI側の主張する被害は「回復不能」ではないという趣旨だった。
米司法省が意見陳述書を提出州法が連邦法の範囲を超えると主張した。
仮処分審理双方が法廷で主張を展開し、フランク判事は結論を留保した。
読者への意味──AIの機能は「州で違う」時代に
この訴訟が意味することは、Grok Imagineだけの話にとどまらない。DOJが繰り返しxAIを巡る訴訟に姿を見せている事実は、連邦政府が州ごとのAI規制の積み重ねに歯止めをかけようとしていることを示している。同時にミネソタ州側は一歩も引かず、法律は施行されたまま運用されている。この綱引きの決着がどちらに転んでも、影響はxAI一社にとどまらない。
すでにFTCによるAIの政治的偏向を巡る取り締まりでもGrokは名指しの対象になっており、この10日ほどの間にGrokは連邦レベルで性質の異なる2つの規制の視線を同時に浴びていることになる。画像生成・対話を問わず、AIサービスの機能や利用条件が居住する州によって変わる場面は、今後さらに増える可能性が高い。
編集部の見立て
今回の一件で目を引くのは、判事が結論を出さなかったことそのものより、DOJがわざわざ意見書という形で顔を出した点だと考えます。仮処分の可否には触れず、それでも法廷に立場を残したのは、この訴訟の勝ち負け以上に、州によるAI規制のあり方そのものに対して連邦政府が発言権を確保しておきたいという意図に見えます。
コロラド州のときとの違いも見逃せません。当事者として訴状を出したコロラド州とは異なり、ミネソタ州では一歩引いた意見書にとどめています。未成年を含む被害の実態が広く報じられている案件で、DOJが全面的にxAIの肩を持つ形を避けたようにも読めます。介入の強さを事案ごとに使い分けている、というのがここまでの実態に近いでしょう。
キンブル氏の「AIに第一修正上の権利はない」という主張も、この訴訟の射程を考えるうえで見過ごせません。仮にこの理屈が採用されれば、生成AIの出力を巡る今後の表現規制論争そのものの土台が動くことになります。フランク判事がどちらの理屈を採るのかは、まだ誰にも分かりません。
まとめ
ミネソタ州の「ヌード化」禁止法HF1606を巡るxAIの仮処分審理が、2026年8月19日にセントポールの連邦地裁で開かれました。xAI側代理人は法律の除外規定の不備を、ミネソタ州側は「AIに第一修正上の権利はない」という主張と自主対策の限界をそれぞれ挙げ、フランク判事は結論を留保しています。
審理前日の8月18日には、米司法省が意見陳述書を提出しました。仮処分の可否そのものには立場を示していませんが、州法が連邦法の範囲を超えていると主張しています。DOJがxAI関連の州法訴訟に姿を見せるのは、4月のコロラド州AI法を巡る訴訟への介入に続き2度目です。
HF1606は判決が出るまで施行されたままで、xAIにも引き続き適用されます。
判事が仮処分を認めるかどうかは、まだ誰にも分からない。ミネソタ州法が生き残るかどうかの最初の答えは、次の法廷から出る。