企業の問い合わせ窓口にかけた電話を、Geminiを出しているGoogleのAIが横で聞いていた──そう訴えた集団訴訟で、カリフォルニア北部地区連邦地裁のリタ・リン判事が2026年10月22日(木曜)、2本の命令を出した。ホーム・デポの通話をめぐる3人の請求は、いったん退けられた。ベライゾン、ウーバー、ディスカバーの通話をめぐる3人は、裁判所ではなく個別の仲裁で争うことになった。
見出しだけ読むと「Googleが勝った」と受け取れるが、中身は違う。退けられたのは、Googleが無断で聞く意図を持っていたと示す事実が訴状に書かれていなかったからであり、Googleの行為が適法と認められたわけではない。しかも、ホーム・デポの3人は訴状を出し直せる。
Google Cloud Contact Center AI訴訟とは──10月22日の2つの命令
Contact Center AIは、Googleがクラウド事業の顧客企業に提供する、問い合わせ窓口向けのAI製品である。通話の内容をリアルタイムで処理し、オペレーターに返答案を示すような使い方ができる。訴訟は2023年に、ある通信会社の窓口にかけた人の訴えから始まった(当時の事件名はAmbriz v. Google)。いまの正式名称は「In re Google Cloud Contact Center AI Privacy Litigation」(連邦地裁サンフランシスコ、事件番号3:23-cv-05437)である。
原告の主張は、Googleが窓口企業の通話に「無断の第三者」として同席し、通話を聞いていた、というものだ。根拠にしているのはカリフォルニア州の盗聴を禁じる法律(カリフォルニア州プライバシー侵害法、略称CIPA)である。通話の当事者全員の同意なく通信を傍受することを禁じている。Googleは請求を争っている。
10月22日の命令は2つに分かれた。報道を突き合わせると、次のように整理できる。
| 通話の相手 | 原告の人数 | 裁判所の判断 | この先 |
|---|---|---|---|
| ホーム・デポ | 3人 | 請求を却下(訴状の修正は認める) | 訴状の出し直しの期限は11月12日とされる※観測 |
| ベライゾン | 各社1人ずつ(3社で計3人) | 個別の仲裁へ | 裁判所での審理は停止 |
| ウーバー | 各社1人ずつ | 個別の仲裁へ | 同上 |
| ディスカバー | 各社1人ずつ | 個別の仲裁へ | 同上 |
仲裁に回ったのは、3社の利用規約に仲裁条項があり、その規約を原告が受け入れていたためだと伝えられている。Googleはその契約の当事者ではないが、窓口企業と契約して通話を聞いていたと原告自身が主張している以上、条項を使えるという理屈で、判事はGoogleの申し立てを認めたという(OpenClassActions報道。原命令は未読のため※観測)。
「同意」はどこから来たのか
ホーム・デポの3人のうち2人は、同社のアカウントを持っていた。ホーム・デポのプライバシー声明は、通話の録音が顧客対応や、ソフトウェアによる顧客対応の分析のために使われ、サービス提供事業者と共有されうると書いている。判事はこの記載がGoogleを含むと判断した。つまり「Googleが聞くことへの同意」は、Googleの画面や音声案内ではなく、窓口企業のプライバシー声明から導かれた。
OpenClassActionsの報道によれば、判事は、Googleが自社のAI改善に通話を使ったとしても、最初の取得が同意の範囲内なら結論は変わらないという考えも示した(※観測)。2025年2月には、Googleが通話データを自社目的で使う能力を持つことが訴えを進める根拠になるとして、判事は訴えの却下を退けていた。その流れと見比べると、今回の命令は「能力」から「同意と意図」へと争点が動いたことを示している。
3人目はアカウントを持っていなかった。この人については、同意がなかったという主張自体は成り立ちうると判断されている。それでも請求は退けられた。次の章で扱う「意図」の主張が足りなかったからだ。
窓口企業のプライバシー声明に同意している扱いになる。声明に「サービス提供事業者との共有」とあれば、AIを動かす外部企業も含まれると読まれた。
声明への同意が読み取れないので、同意がなかったという主張は成り立ちうる。ただし、それだけでは勝てない。
各社の規約に仲裁条項があり、裁判ではなく個別の仲裁で争う。同意の中身は仲裁の場で判断されることになる。
足りなかったのは「意図」の主張だった
CIPAで責任を問うには、被告が同意なく通話を傍受する意図を持っていたことを、原告が示す必要がある。報道は今回の命令を、被告が同意なしに記録する意図を持っていなければCIPAの責任を負わない、という基準を示したものとして伝えている。ホーム・デポの3人の訴状は、Googleが意図して盗聴したと書いてはいるものの、同意なしに聞くという意図の裏づけとなる具体的な事実が乏しい、と判断された。
見落とせないのは、Googleの側の主張である。Googleは、窓口企業との契約で「通話の相手から同意を得る責任は窓口企業にある」と定めていると説明している。判事は10月13日の審理で、必要な同意は第三者が通話を聞いていてもよいという同意であること、また、窓口企業の説明がのちにGoogleが別の目的で使う場合まで覆うのかを問いただしたと伝えられている(Bloomberg Law配信の記事)。今回の命令でも、契約は関係するものの、それだけでGoogleの責任がなくなるわけではないという趣旨が報じられている※観測(1社の報道)。
つまり裁判所は、契約で責任を窓口企業に回したから安全、とも、契約があっても責任を問える、とも言い切っていない。訴状が書き直されたとき、どちらに傾くかが次の焦点になる。
電話をかける側・導入する側は何を確かめるか
この訴訟の主役はGoogleだが、示している論点はGoogleに限らない。AIが通話に同席する窓口を使う側と入れる側で、確かめる点は分かれる。
今回の命令では、プライバシー声明の「サービス提供事業者と共有する」という一文が、同意の根拠になった。個人情報を伝える電話の前に、その窓口企業の声明で、通話の録音・分析・外部委託がどう書かれているかを一度読んでおく価値がある。
同意を取る責任を契約で自社に置いたなら、通話冒頭の音声案内とプライバシー声明に「外部のAI事業者が通話を処理する」ことを書いておく必要がある。声明が曖昧だと、裁判で争点になりうる。
機能や料金に加えて、顧客データを事業者のAI改善に使うかどうかを規約で確かめる。今回の争点の中心は、まさにこの使途の線引きだった。無断利用を禁じる条項が契約にあるかを見る。
編集部の見立て
今回の命令で最も重要なのは、Googleが勝ったかどうかよりも、同意の出どころが窓口企業のプライバシー声明だったという点だと考えます。AIが通話に同席するとき、利用者が直接AI事業者と約束を交わす場面はほとんどありません。同意はいつも、間に立つ企業の書面を経由します。
そのため、声明の一文が曖昧な企業ほど、あとで争いの種を抱えることになります。AI事業者との契約で責任を窓口企業に置く設計は一般的ですが、今回の判事は、契約があっても責任がなくなるとは言い切っていません。AIの導入を決める側は、機能の比較表だけでなく、同意の書面が誰のどの文に書かれているかまで確認しておく必要があると見ています。
一方で、命令が示したのは、訴状に意図を裏づける事実が書かれていなかったという、手続き上の足りなさです。Googleの行為が適法だと確認されたわけではなく、通話が学習に使われたという認定もありません。結論を急がず、訴状が書き直されたあとの展開を見るのが妥当です。
まとめ
2026年10月22日、連邦地裁のリタ・リン判事は、Google Cloud Contact Center AIの通話傍受をめぐる集団訴訟で、2本の命令を出しました。ホーム・デポの通話をめぐる3人の請求は、Googleが無断で聞く意図を持っていたと示す事実が足りないとして却下されました。ただし訴状の修正は認められています。
ベライゾン、ウーバー、ディスカバーの通話をめぐる3人は、各社の規約にある仲裁条項に基づき、個別の仲裁に回りました。
同意の根拠になったのは、Googleの説明ではなく、窓口企業のプライバシー声明でした。Googleが通話をAIの学習に使ったかどうか、行為が適法かどうかは、まだ認定されていません。
AIを選ぶ側は、顧客データの使途と、同意を取る責任の所在を、規約と自社の声明の両方で確認してください。
ホーム・デポの3人が訴状を出し直す期限は11月12日とされています※観測。そこで意図を裏づける事実が書かれるかどうかが、この訴訟が続くかどうかの分かれ目になります。