イーロン・マスク氏が2026年9月13日深夜(日本時間14日午前)、Xへの投稿で新モデル「Grok 4.8」の存在を明らかにした。2.5兆パラメータ、新開発のC++ソフトウェアスタックで学習中だという。9月12日ごろの投入を約束していた「Grok 4.7」には一度も触れないまま、話は一つ先のモデルに移っていた。
前回の記事で伝えた通り、Grok 4.7は9月11日の時点で「あと数日」と延期されたばかりだった。そこからわずか2日、マスク氏の口から出たのは4.7の続報ではなく、4.8という新しい名前と、4.9・Grok 5まで見通したロードマップだった。
何が起きたか──「全モデル凌駕」から沈黙への9日間
発端は9月2日にさかのぼる。マスク氏はXで「Grok 4.7は10日で出る」「現行の全モデルを凌駕する」と投稿し、パラメータ数は前世代Grok 4.6の1.5兆から4割増となる2.1兆になると触れた。10日後といえば9月12日、他の主要3社がそろって9月最初の3日間に新モデルを出し終えていたタイミングを追いかける格好だった。
ところが約束の期日は動いた。9月11日、マスク氏は「あと数日かかる」と投稿し、理由として強化学習(RL)で応答の長さを罰しすぎたことを挙げた。難しい課題を早々に諦めたり、出力の見直しが甘くなったりする副作用が出ていたという。ここまでは前回の記事で伝えた内容である。
そして9月13日の深夜、風向きが変わった。マスク氏が新たに投稿したのは4.7の続報ではなく、次のモデル「Grok 4.8」の存在そのものだった。9月14日朝(米国東部時間)には別の質問への返信で、4.7・4.8・4.9・Grok 5までを一息に位置づける投稿も続いた。約束していた期日を2度動かした末に、話題の中心そのものが1つ先へずれた格好である。
Grok 4.8とは何か──2.5兆パラメータと新しいC++基盤
マスク氏の投稿を、そのまま引用しておく。
@techdevnotes Grok 4.8, which is a 2.5T model trained with our new C++ software stack, will finish training this week and start RL
(訳)@techdevnotes へ Grok 4.8は2.5兆パラメータのモデルで、私たちの新しいC++ソフトウェアスタックで学習している。今週中に学習を終えて、RL(強化学習)に入る。
この22語の投稿だけで、4つの主張が成立している。モデルが存在すること、パラメータ数が2.5兆であること、xAIが新しいC++の基盤で学習させていること、そして事前学習が今週中に終わりRLへ進むこと。裏を返せば、この4つのどれ一つとして、xAI公式のブログやモデルページでは確認できない。9月14〜15日の時点で、Grok 4.8にモデルIDも価格も文脈窓の長さもベンチマークの数値も存在しない。
数字の並びだけ見ておくと、Grok 4.6の1.5兆に対し、4.7の2.1兆は4割増、4.8の2.5兆はさらに1.5兆から67%の増加にあたる。パラメータ数が多いこと自体は性能を保証しない。C++への基盤刷新という言葉も、これまでのGrokがどの言語基盤で動いていたかをxAIが公表していないため、比較のしようがない一文である。
後退したGrok 4.7──「全モデル凌駕」から「Opus 5.0並み」へ
Grok 4.8の投稿から半日ほど後、マスク氏は別の利用者への返信で、4.7の現在地についても触れている。要旨は次の通りだ。Grok 4.7の到達点は、Claudeの上位モデル「Opus 5.0」に近い水準であり、その次の版「Opus 5.1」には届かない。得意な部分も不得意な部分もあり、画像や音声を扱う「マルチモーダル」の性能は修正が要るという。Grok 4.8については「はっきりした改善になる」とだけ述べている。
9月2日の「全モデルを凌駕する」から、9月14日の「Opus 5.0並み」へ。同じ人物が同じモデルについて2週間足らずで語った言葉としては、幅が大きい。Claude Opus 5は2026年7月24日にAnthropicが発表した中核モデルで、100万トークンあたり入力5ドル・出力25ドルという価格のまま、上位モデルFable 5に近い性能を打ち出している。Grok 4.7が「並ぶ」としている相手は、最新のFable系列ではなく1世代前のOpus 5である。
| 時点 | Grok 4.7についての発言 | 確度 |
|---|---|---|
| 9月2日 | 「10日で出る」「現行の全モデルを凌駕する」 | マスク氏の自己申告 |
| 9月11日 | 「あと数日」に延期、RLの調整不足を認める | マスク氏の自己申告 |
| 9月14日 | 「Opus 5.0並み、5.1ではない」「マルチモーダルは修正要」 | マスク氏の自己申告 |
| 9月14日時点 | 出荷日・価格とも未定 | xAI公式サイトで確認 |
※観測として扱うべき点を明確にしておきたい。Grok 4.7が実際にOpus 5.0と並ぶかどうかは、独立したベンチマークでは一切確認されていない。並ぶかどうかも、いつ出るかも、現時点ではマスク氏の言葉以外に根拠がない。
4.9はAstra・Fable級、5はAGI級──マスク氏が描く先
同じ返信の中で、マスク氏はさらに先のモデルにも言及していた。Grok 4.9は「おそらくAstra・Fable級」、Grok 5は「(AGIに達するとしたら)それになる」「もしかしたら何よりも優れているかもしれない、まだわからない」という言い方である。
今週中に事前学習を終え、RLに入るとされる。出荷日は未定。
AGIの可能性を問われた際の回答。マスク氏自身が「まだわからない」と留保を付けている。
4.7・4.8・4.9・5という4つの番号が、出荷済みのモデルなしに一度に語られたことになる。ロードマップとしての情報量は多いが、確定した事実は「Grok 4.6が現行の出荷済みモデルである」という1点だけで、それ以外はすべて予告と見通しの段階にとどまる。
ChatGPT・Claude・Geminiを使う人に、この空白は何を意味するか
Grok系のニュースを追っていない読者にとっても、今回の一件には日々のツール選びに関わる部分がある。
9月2日の「10日で出る」は9月12日を過ぎても実現せず、9月14日時点でも出荷日は示されていない。次の一手を待って現行ツールの選定を止める理由には、まだならない。
ChatGPT・Gemini・Claudeのように価格とベンチマークが公表済みのモデルと、仕様未定のGrok 4.7・4.8を同じ表で比べると、片方が有利に見える錯覚が起きる。比較は出荷済み同士で行うのが安全である。
1.5兆パラメータのGrok 4.6は8月12日から出荷済みで、価格・性能とも公表値がある。「次を待つ」よりも、今使えるモデルの中で判断するほうが確実である。
編集部の見立て
今回の一件で注目しているのは、Grok 4.8のパラメータ数そのものより、9月2日から9月14日までの12日間でマスク氏の言葉がどう動いたかのほうです。「10日で全モデルを凌駕する」という言い切りから、「Opus 5.0並みで、5.1ではない」という限定付きの評価へ。約束の対象そのものも、4.7から4.8へと一つ先にずれました。
これ自体を強く責める話だとは考えていません。開発の途中で見通しが変わるのは、AIの開発では珍しいことではないためです。気になるのは、その変化のたびに新しい数字と新しい名前が足され、比較対象が更新され続けることです。読者が実際に手に取れるのは、いまのところGrok 4.6だけであり、4.7・4.8・4.9・5はいずれも計画の段階にとどまっています。
選ぶ側としてできることは一つだと考えます。予告の段階にある数字と、出荷済みの数字を、同じ表に並べないことです。Grok 4.7が「Opus 5.0並み」になるかどうかは、出荷されて初めて確かめられます。それまでは、いま手元にあるモデルの比較で判断を進めるのが筋が通っています。
次の節目は、Grok 4.8の学習完了とRL入りが今週中に本当に起きるかどうかです。ここが動けば、出荷日についても具体的な言葉が出てくる可能性があります。
まとめ
イーロン・マスク氏が2026年9月13〜14日、Xで新モデル「Grok 4.8」(2.5兆パラメータ、新しいC++ソフトウェアスタックで学習中)の存在を明らかにしました。9月2日に「10日で出る」「全モデルを凌駕する」と予告されていたGrok 4.7は、9月11日の延期を経て、9月14日には「Claude Opus 5.0並みで、5.1ではない」という限定付きの評価に改められています。
同じ投稿でマスク氏は、Grok 4.9を「Astra・Fable級」、Grok 5を「もしかしたら何よりも優れている」と位置づけましたが、いずれも仕様・時期とも未公表です。数値はすべてマスク氏個人のX投稿による自己申告で、xAI公式のベンチマークは確認されていません。
現時点で出荷済みなのは、8月12日公開のGrok 4.6(1.5兆パラメータ)のみです。Grok 4.7・4.8を比較検討に含めるかどうかの判断は、出荷日と独立したベンチマークが出そろってからでも遅くありません。
「10日で出る」という約束から12日が過ぎても、Grok 4.7はまだ出荷されていない。その間に語られたのは、4.7の続報ではなく、4.8・4.9・5という3つの新しい名前だった。