英下院議員1人が起こした訴訟が、Grok の画像生成機能をめぐる国際的な包囲網の焦点になっている。2026年7月28日、ロンドンの高等法院(High Court)に新たな法廷文書が提出された。労働党のジェス・アサト議員は、同意なく性的な内容に加工された自分の画像・映像をGrokに生成されたとして今年6月に提訴していたが、今回の文書でxAIに対し「恒久的な技術的措置」を義務付ける命令を追加で求めた。文書は今回の被害を「尊厳への重大な侵害」と表現している。
Grokの画像生成をめぐっては、米カリフォルニア州、EU、英国オフコム、オランダの裁判所がすでにそれぞれ独自に動いている。1つの機能に対してこれほど多くの法域が同時並行で動くケースは珍しい。ChatGPT や Midjourney と並んで画像生成を使う人にとって、この一件は「どの安全策を持つツールを選ぶか」を考え直す材料になる。時系列を整理し、AIを選ぶ側にとっての意味まで踏み込んで見ていく。
半年で4つの法域が動いた──何が起きているのか
今回の高等法院の文書は、単発の事件ではない。2026年に入ってから、Grokの画像生成機能をめぐる規制・司法の動きは途切れることなく続いてきた。まず起きた順に並べる。
英オフコムがX社への正式調査を開始オンライン安全法(Online Safety Act)に基づき、Grokが実在の人物を「服を脱がせた」ように加工した画像を大量に生成しているとの報告を受けて調査に着手した。
米カリフォルニア州司法長官が調査開始、続けて是正要求ボンタ司法長官がxAIに対する調査開始を発表。2日後には、違法な画像の生成・拡散を直ちに停止するよう求める是正要求書を送付した。
EU欧州委員会も正式調査に着手X社がGrokの画像生成機能に伴うリスクを適切に評価・低減していたかを検証する調査を開始した。
オランダ・アムステルダムの裁判所が仮差止命令非営利団体Offlimitsの申立てを受け、本人の同意のない性的画像の生成・拡散を禁じる命令を下した。違反時は1日あたり10万ユーロの制裁金が科される。
アサト議員がロンドン高等法院に提訴プライバシー情報の不正利用と英データ保護法違反を理由に、xAIを相手取り提訴。損害賠償と、xAIの行為が違法であったことの確認を求めた。
xAIが今度は利用者を提訴米テキサス州の連邦裁判所で、Grokを使って児童性的虐待素材を生成・拡散したとして、米国人利用者を相手取り損害賠償と恒久的な利用差止めを求める訴えを起こした。
アサト議員側が請求を拡張高等法院に新たな法廷文書を提出。金銭賠償に加え、xAIに「恒久的な技術的措置」の実施を義務付ける命令を裁判所に求めた。
法廷文書が明かした経緯
今回の当事者であるジェス・アサト氏(サフォーク州選出)は、2026年1月、Grokが女性たちの同意なく性的な画像を作り出している問題について公に批判の声を上げていた。法廷文書によれば、その直後から彼女自身がGrokによる加工の標的になったという。X上の複数の利用者がGrokに指示し、彼女について「性的で、卑わいで、屈辱的、脅迫的、差別的」な、同意のない画像や映像が生成・拡散された。訴状はこれを「彼女の尊厳への重大な侵害」だったと表現している。
アサト氏側は当初、投稿の削除をX社に求めた。だが2026年3月時点で、X社は一部の投稿について「利用規約・プライバシーポリシー・ルールのいずれにも違反していない」として削除を拒んだと報じられている。この対応の遅れが、6月の提訴、そして7月28日の請求拡張につながった一つの伏線になっている。
「実在の人物を脅迫的・性的な姿に加工できてしまう設計そのものが問題だ」──アサト氏側の弁護団は、Grokがどう構築され、どう学習されたかにこそ責任の所在があると主張している。
7月28日の新たな文書で求められているのは、単なる金銭的な補償ではない。「恒久的な技術的措置」によってGrokが本人の加工画像を二度と生成できないようにすることを、裁判所命令という形で義務付けてほしいという要求だ。これは、事後の削除対応ではなく、生成そのものを止める仕組みを法的に強制しようとする点で、これまでの対応より一段踏み込んだ請求といえる。
なぜGrokだけがここまで矢面に立つのか
画像生成AIは他にも数多くある。それでもGrokだけがこれほど多くの法域から同時に問われているのには、いくつかの背景がある。
GrokはX上の投稿にひも付き、タイムラインに流れてきた実在の人物の写真をその場で指示して加工できる。新しいアプリを開いて画像をアップロードする手間がいらない分、乱用への距離が近い。
X社は1月、実在人物の服装を加工できないようにする「技術的措置」を導入したと説明した。だが導入は問題が広く報じられた後であり、オフコムなどの調査は今も続いている。対策が被害の後に来る構図が繰り返されている。
カリフォルニア州、EU、英オフコム、オランダの裁判所は、それぞれ別の法律・別の被害申告を根拠に動いている。1つの機能がこれほど広範囲で同時に問題視される例は、生成AIの規制史でも珍しい。
7月14日にxAIが利用者を提訴した動きは、責任の所在を「プラットフォームの設計」から「個々の利用者の使い方」へと引き寄せようとする姿勢の表れとも読める。訴訟の構図が単純な「被害者vs企業」ではなくなりつつある。
画像生成AIを選ぶ人が、いま見るべき基準
この一件から得られる教訓は、Grokを使うか使わないかという二択には収まらない。画像生成AIを選ぶときに、性能や価格だけでなく「安全設計」を判断基準に加える必要性を示している。
ゼロから絵を起こすタイプと、アップロードした実在人物の写真を加工できるタイプとでは、悪用の起きやすさが違う。後者を提供するサービスを選ぶなら、年齢確認や本人同意の仕組みが用意されているかを見ておきたい。
今回、X社は通報から数カ月「規約違反ではない」と削除を拒んでいた。規約の文言そのものより、通報にどう対応してきたかという運用実績のほうが、実際の安全性を映す指標になる。
SNSに組み込まれた生成AIは、作った画像がそのまま同じプラットフォーム上で瞬時に拡散する。単独アプリと比べて、生成から拡散までの距離が短い分、被害の広がり方も速くなりやすい。
編集部の見立て
今回の一件で注目すべきは、被害者本人が求めているのが金銭的な賠償だけではないという点だと考えます。「恒久的な技術的措置」を裁判所命令として求めるという発想は、プラットフォーム企業に対して「事後対応ではなく設計そのものを変えよ」と迫るものです。この種の請求が裁判所に認められるかどうかは、生成AIの安全設計に法的な強制力を持たせられるかどうかの試金石になります。
同時に見過ごせないのは、xAIが自社の利用者を提訴したという事実です。プラットフォームの設計に起因する被害と、個々の利用者による意図的な悪用は、本来切り分けて論じるべき問題です。この訴訟が、企業側の責任を利用者に転嫁する材料として使われないか、注視する価値があります。
AIを選ぶ側にとっての教訓はシンプルです。生成できる・できないという機能の豊富さだけで選ぶのではなく、「その機能が悪用されたとき、企業がどれだけ早く・どれだけ実効的に対応してきたか」という運用の実績まで含めて判断する。今回の一件は、その視点の重要性を改めて突きつけています。
まとめ
2026年7月28日、ロンドンの高等法院に新たな法廷文書が提出され、Grokの画像生成をめぐる英下院議員ジェス・アサト氏の訴訟は「恒久的な技術的措置」を求める段階に進みました。同じ機能をめぐっては、米カリフォルニア州、EU、英オフコム、オランダの裁判所がすでにそれぞれ独立に動いており、1つの機能に対する規制・司法の圧力としては異例の広がりを見せています。
AIを選ぶ側が持ち帰るべきは、機能の豊富さと安全設計は別軸だという当たり前の事実です。実在人物の画像を加工できるかどうか、通報にどう応えてきたか、SNSと一体化しているかどうか──これらは価格やクオリティの比較表には出てきませんが、実際に使うツールを選ぶうえで無視できない判断材料になります。
生成AIの機能はこれからも増え続けます。だからこそ、「できること」だけでなく「何かあったときにどう対応する企業か」を、選ぶ基準の一つに加えておくことをおすすめします。
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