米カリフォルニア北部地区連邦地裁のトーマス・ヒクソン判事(治安判事)が2026年10月19日、MetaにAIの学習に使った本の入手経路について、ダウンロードを「決めた」「認めた」全員の名前を答えさせる命令を出した。対象は、Llamaの学習用に集めた「シャドウライブラリ」(LibGenやAnna's Archiveのように、著作権者の許諾なく本を公開している電子書籍アーカイブ)のデータである。

Metaはこれまで、初期のLlamaの本の入手について「正式に決めた人は特定できない。多くは現場のチームの合意だった」と答えていた。判事はこの説明を、質問に答えていないとして退けた。

ただし、これは証拠開示(相手方に資料や情報を出させる手続き)の命令であって、Metaが著作権を侵害したと認めた判断ではない。この線引きを外すと、記事の読み方を誤る。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報は、裁判所が2026年10月19日付で出した証拠開示命令(連邦地裁 北カリフォルニア地区、Kadrey v. Meta Platforms, Case No. 23-cv-03417-VC ほか4件の併合命令)です。報道としては、10月20日のTorrentFreakが最も早く伝えました。公開時点で命令から約3日が経過しており、速報ではなく、選ぶ側にとっての意味を整理する記事として書いています。命令の中身は原文で確認しました。報道で補っている部分は、その旨を本文に添えています。

1通の命令で何が決まったのか

この命令は1つの訴訟のものではない。Kadrey v. Meta(作家のリチャード・カドリーらによる集団訴訟)と、出版社などが起こした4件の別訴訟(Entrepreneur Media、Chicken Soup for the Soul、Cambronne、Cognella)の証拠開示の争いを、1通でまとめて裁いている。5件とも相手はMeta Platformsだ。

10ページの命令は、当事者が持ち込んだ論点を順に処理していく形で、勝ち負けが混ざっている。原告側の言い分がそのまま通ったわけではない。

論点 判事の判断
Metaの社内データ一覧「AI Data Catalog」の黒塗り文書 認める。7日以内に判事へ提出させ、非公開で中身を見る
入手を「決めた人」を答えさせる質問(Entrepreneur Media・質問22) 認める。原告の3つの要求をすべて認容
BitTorrentでの入手・配布を「決めた人」を答えさせる質問(質問23) 一部認める。入手の経緯と、アップロード(シード)の扱いを決めた人は認容。ある2人の資料を調べたかの確認は却下
Metaの証人への追加3時間の尋問(Kadrey) 認めない。準備不足と言える根拠が乏しいと判断
Foxとのライセンス契約の無修正版(第三者のFox Corp.が保護を申立て) Fox側の申立てを認める。誤って渡った無修正版は原告に破棄させる
5件 1通でまとめて裁かれた訴訟
7日 黒塗り文書を判事に出すまでの期限(10月26日まで)
3時間 原告が求めた追加尋問(却下)
一言でまとめると──「Metaに、本の入手を決めた人を、役職や正式さに逃げずに全員答えさせる」命令です。侵害の有無はまだ誰も判断していません。

「チームの合意でした」が通らなかった理由

争点になったのは、質問22の文言だ。原告は「Plaintiff's Worksを含むシャドウライブラリのデータを入手・ダウンロードする決定を、下した、許可した、承認した自然人をすべて特定せよ」と問うている。

Metaの答えは、Llama 1と2については「入手・利用を正式に決めた個人は特定していない」というものだった。Llama 3と4については答えが「利用」の話に流れ、入手の話に戻っていなかった。判事は次の点を指摘している。

  • 質問は「正式な決定」に限っていない。
  • 聞かれているのは「利用」ではなく「入手・ダウンロード」である。
  • 決定者が1人でなくてもよい。質問は最初から、全員を挙げることを求めている。

If a decision is fairly attributable to a group or a team, everyone in the group or team who participated in making that decision is responsive to this rog.

— 証拠開示命令(2026年10月19日)7ページ

訳せば「決定が集団やチームのものと言えるなら、その決定に加わった全員が、この質問の答えに当たる」となる。「みんなで決めたので誰が決めたとは言えない」は、答えを逃れる理由にならないという意味だ。

質問23はさらに踏み込んでいる。BitTorrent(ファイルを細かく分け、参加者どうしで送り合う仕組み)では、ダウンロードしながら他の人へアップロードもするのが普通で、これを「シード」と呼ぶ。原告は、シードするか、避けるか、どう避けるかを決めた人の特定も求め、判事はこの部分を認めた。Metaはアップロードを避ける対策を取ったと説明しているが、報道によればMetaはBitTorrentを使ったこと自体は否定していない(TorrentFreak、10月20日)。

もう1点ある。質問22の3つ目の要求は、Metaの研究部門「FAIR」でLibGenの入手を承認した人と、Anna's Archiveのダウンロードの再開を承認した人を挙げるか、「該当者を特定できていない」と宣誓のうえで述べるか、のどちらかを求めるものだった。判事はこれも認めている。名前を挙げるか、いないと宣誓するか。どちらを選んでも、Metaは何かを書面に残すことになる。

まだ決まっていないこと

この命令の外側にある決着済みの部分と、未決の部分を分けておく。

済
学習そのものは、2025年6月に一度Meta有利で決着

Kadrey訴訟では2025年6月25日、チャブリア判事が、本を使ったLlamaの学習は著作権侵害にならないというMetaの主張(フェアユース)を一部認めた。この部分を覆す命令ではない。

未
本の「入手」と「配布」は未決

争いが残っているのは、本をどう手に入れたか、そして入手の過程でアップロード(配布)をしたかどうか。今回の質問22・23は、まさにこの部分の事実関係を掘る手続きだ。

未
経営層の関与は、原告の主張にとどまる

2026年5月に別の出版社グループ(Elsevier、Cengage、Hachette、Macmillan、McGraw-Hillなど)が起こした訴訟は、Zuckerberg氏本人が承認したと主張している。これは訴状の主張で、認定された事実ではない。

この構図は、同じく書籍の入手経路が争われた Anthropic の件とよく似ている。Anthropicの15億ドルの和解は、2026年7月20日に最終承認された。報道によると、対象は約48万点の作品で、1作品あたり約3,000ドルの水準だった。争われたのは「学習したこと」よりも、LibGenなどから本を取得したことのほうだった。Metaは、同じ型の争いの途中にいる。

ライセンスで買う道は、すでに使われている

命令のなかでいちばん読み飛ばされやすいのは、Fox Corp.の件だ。判事は、FoxがMetaにAIの学習用としてマルチメディアのコンテンツを提供するライセンス契約を結んでいると述べている。この契約は書籍や類似のコンテンツを対象にしていない。

Foxは他社とも契約交渉を続けており、価格などが漏れると交渉が不利になるとして、無修正の契約書の保護を求めた。Metaが誤って無修正版を原告に渡していたことも、命令から分かる。判事は、価格条件は別の権利者の別の形式のコンテンツの話で、この訴訟の事実からは遠すぎるとして、Foxの申立てを認めた。

この件が教えるのは、AI企業が学習データを「許諾を得て買う」ルートと、「集めてきて後で争う」ルートの両方を、同時に走らせていることだ。どちらがどの割合かは、外からは見えない。今回の命令が裁判所の管理下で見ようとしているのは、まさにその内訳の一部である。

AIを選ぶ人は、この命令をどう読むか

まず、日常の利用は何も変わらない。この命令はLlamaやMetaのAIサービス(Museシリーズなど)の提供を止めるものではないし、利用者に何かを求めるものでもない。

A
Metaのモデルを業務に組み込む人

重みを公開しているモデルは、手元に置いて使える安心感がある一方、学習データの出どころについての責任は、公開側のライセンス条項と今後の判決に左右される。Muse Spark Openのライセンス条項と合わせて、利用規約のうち「免責」「補償」の項を確認しておきたい。

B
ChatGPT・Claudeを使っている人

同種の争いは他社にも広がっている。この命令自身が、9月10日の別の命令(26-2333、ECF 131)がOpenAIとAnthropicに対する開示の申立てを退けていたことに触れている。どの社も、学習データの出どころをめぐる訴訟と無縁ではない。

C
著作物を扱う仕事の人

出版・教育・メディアの現場では、取引先のAIがどの契約で学習データを得ているかを聞かれる場面が増えうる。「正式な決定者がいない」という答えが法廷で通らなかった事実は、社内の説明資料にも使える。

💡 今日できる確認
利用中のAIサービスの規約から、「出力が第三者の権利を侵害した場合の補償(indemnity)」の有無を探してください。補償があるサービスと、ないサービスで、商用で使うときの安心の度合いが変わります。Metaに限らず、どの社でも同じ確認ができます。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の命令でいちばん興味深いのは、結論の重さではなく、問いの立て方です。「誰が決めたのか」を全員挙げさせるという聞き方は、企業が責任を組織の中に分散させて薄める、という慣行を正面から塞ぎにいっています。

AIの学習データをめぐる訴訟は、これまで「学習は適法か」という大きな論点に目が向きがちでした。しかし2025年の判断が学習そのものにはおおむね寛容だったいま、勝負は「どう手に入れたか」という地上の事実に移っています。入手の経緯は、技術の話ではなく、社内で誰が何を見て何と言ったかという、記録の話です。

もう一つ気になるのは、命令が「該当者を特定できていないと宣誓する」という選択肢まで認めていることです。名前を挙げるのも、いないと宣誓するのも、Metaにとっては軽くありません。どちらの答えが出ても、それは次の局面の材料になります。

ただし、この段階で「Metaが黒だ」と読むのは早すぎます。命令は証拠開示の範囲を決めただけで、答えの中身は、これから出てきます。

まとめ

2026年10月19日、米連邦地裁のヒクソン判事は、Kadrey v. Metaなど5件の訴訟の証拠開示をめぐる命令を出しました。

Metaは、Llamaの学習用に集めたシャドウライブラリのデータの入手を決めた、許可した、承認した全員を答えなければなりません。「正式な決定者はいない」「チームの合意だった」という説明は、質問への答えとして認められませんでした。BitTorrentでのアップロードの扱いを決めた人も対象です。

この命令は侵害の有無を判断していません。学習そのものについては、2025年6月に一度Meta有利の判断が出ており、今回の争いは本の入手と配布に移っています。ChatGPTやClaudeの利用者にとっても、日常の利用に変更はありません。

命令に基づき、AI Data Catalogの黒塗り文書は10月26日までに判事へ提出される。中身は非公開で審査されるので、外からその結果が見えるのは、次に出る命令や書面の中でしかない。