Metaが2026年9月23日、年次イベント「Connect 2026」でAIエージェント「Muse」に新しい機能を積んだ。声だけだった対話に、表情を持つ映像のアバターが加わったのだ。名称は「Muse Realtime Avatar」。ユーザーが話し終えてから最初の応答が返るまで約870ミリ秒だという。
同じ壇上でMetaは、Museを持ち歩くための道具も一緒に並べた。1,299.99ドルのVRグラス、キーホルダー型端末「Muse Charm」、カメラを持たない眼鏡「Ray-Ban Meta Audio」。9月8日に公開されたばかりのMuseは、その10日後の9月18日には米国App Storeの無料アプリランキングで首位に立ち、長く指定席だったChatGPTを押しのけている。
Muse Realtime Avatarとは何か──声に表情と姿がついた
Museはもともと、Metaが個人向けに投入したAIエージェントだ。メールの送信や旅行の予約、日用品の注文まで、複数のアプリをまたいで作業を代行することを売りにしている。9月8日に単体アプリとして米国とカナダで公開されたばかりの製品である。
今回加わった「Muse Realtime Avatar」は、この音声会話に映像の姿を重ねる機能だ。ユーザーの発話が終わってから最初の応答が届くまで約870ミリ秒、その後は1秒あたり25コマのペースで映像が途切れずに続く。会話の長さに上限は設けられておらず、出力にはMetaの電子透かし技術「Video Seal」が遅延を増やさずに埋め込まれる仕組みになっている。
数字の中身──「78%」「88%」、そして「60倍」の意味
Metaは同じ発表の中で、Muse Realtime Avatarの完成度を示す比較テストの結果も公開した。評価者が2〜3分の会話を、身元をそろえたアバターで実施し、映像の質・音声との同期・キャラクターの一貫性・仕草を採点する形式である。
| 比較相手 | Muse優勢 | 相手優勢 |
|---|---|---|
| Runway Characters | 78% | 22% |
| HeyGen LiveAvatar | 88% | 12% |
裏側の仕組みにも触れておきたい。高精度な「教師モデル」で映像を1コマ作るには、40段階の拡散処理と3方向のガイダンスが必要で、1コマあたり120回のニューラルネットワーク評価を要していた。これをリアルタイム対話用に蒸留した「学生モデル」は、わずか2回の評価で同じ1コマを作る。
ただし60倍という数字は、応答が60倍速くなったという意味ではない。評価回数を減らせても、映像を送り出すまでには他の処理時間も挟まる。Metaの技術資料によれば、この蒸留を経た学生モデルは、教師モデルとの比較における好感度が45%から55%まで改善したという。効率化そのものと、映像の質を保てているかは別の物差しで測る必要がある。
なぜ画面の外へ出たのか──VRグラス・Charm・Ray-Ban Meta Audio
Connect 2026でMetaが見せたのは、ソフトウェアの発表だけではなかった。同じ壇上で、Museを持ち歩くための3つの道具を並べている。
重さ約100gの軽量VRグラス。5Kディスプレイを積み、処理を担う外付けの「コンピュートパック」にケーブルでつながる構造になっている。発売は2027年春の予定。
指紋タッチで起動する、キーホルダーサイズの端末。小さな画面とリアルタイムの音声・アバター機能を積み、12月の出荷を予定している。
カメラを持たない、Meta初の音声専用スマートグラス。重さ43g、バッテリーは最大12時間。10月13日から予約が始まる。
3製品に共通するのは、いずれもMuseを常時起動させておくための入れ物だという点だ。VRグラスは大きな画面を、Charmは指先での即応性を、Ray-Ban Meta Audioはカメラへの抵抗感の低さを担う。Metaはこれを「ソフトの前に体を配る」戦略だとは説明していないが、3つの価格帯・3つの発売時期を並べれば、狙いは読み取れる。
ChatGPTとの差はどこまで縮まったか
Museの勢いは、Connect 2026より前から目立っていた。公開から12日間、iOS版(米国・カナダ限定)のダウンロード数は180万件。同じ条件で比べたChatGPTの初動130万件を上回っている(いずれもApptopia調べ)。9月18日には公開からわずか10日で米国App Storeの無料アプリランキング首位に立ち、この10日間だけで約73万件が米国内でダウンロードされた(Sensor Tower調べ)。
MuseがWalmartやExpediaといった提携先を増やし、購入や予約までを代行する設計であることは、ChatGPTが広告付きのエージェント機能を試していることとも重なる。無料で使えるAIエージェントが、どうやって収益を得るのか。両社が選んだ答えの形は違っても、向いている先は同じところにある。
編集部の見立て
今回の発表で軸になっているのは、アバターの完成度より「配る場所」の選び方だと考えます。ChatGPTやGeminiがアプリの中で機能を積み増していくのに対し、Metaは眼鏡・キーホルダー・VRグラスという3つの入れ物を同時に用意しました。ソフトの強さだけで差をつけにくいなら、先に入れ物を押さえてしまう。そういう発想に見えます。
78%・88%という比較テストの数字は、額面どおりには受け取れないと考えます。自社が設計したテストで自社が勝ったという発表は、Runway CharactersやHeyGen LiveAvatarを使う理由がすぐに無くなることを意味しません。実際に両方を試した人の声が出そろうまでは、参考値として扱うのが無難でしょう。
一方で、ダウンロード数と利用者数の伸びは自己申告ではなく、Sensor TowerやApptopiaといった第三者の集計です。無料のAIエージェントが機能を積み増しながら、ChatGPTの指定席を実際に脅かしている。ここは数字が裏づけている事実だと見ています。
読者にとっての論点は、Museを試すかどうかより、無料のAIエージェントに旅行の予約や買い物を代行させることに、どこまで慣れておくかだと考えます。手数料や広告で成り立つ仕組みである以上、代行の裏側で何が起きているかは、使う側が把握しておく価値があります。
まとめ
2026年9月23日、MetaはConnect 2026でAIエージェント「Muse」にリアルタイムのアバター機能「Muse Realtime Avatar」を追加すると発表しました。応答は約870ミリ秒、比較テストではRunway Charactersに78%対22%、HeyGen LiveAvatarに88%対12%で好まれたとしていますが、いずれもMeta自身が設計したテストです。
同じ発表で、1,299.99ドルのVRグラス(2027年春発売)、12月出荷予定のMuse Charm、349ドルのRay-Ban Meta Audio(10月13日予約開始)という3つのハードウェアも公開されました。Museを持ち歩くための入れ物を、ソフトの強化と同時に揃えた形です。
9月8日の公開から10日でApp Store首位に立ったMuseは、9月25日時点で累計340万ダウンロードに達しています。無料のAIエージェントが、ChatGPTの指定席を実際に動かしている状況です。
次にMetaが動くとすれば、Muse Charmの価格発表になるだろう。ハードウェアの値付けが出そろったとき、無料をうたうAIエージェントの採算がどこで合っているのか、そこが見えてくるはずだ。