Midjourney を舞台にした著作権訴訟が、また一手進んだ。Disney・Warner Bros.・NBCUniversalの3社は2026年8月12日、Midjourneyが提出していた請求棄却の申立てに対する反対意見書をカリフォルニア州中部地区連邦裁判所へ提出した。
前回の記事で伝えた通り、Midjourneyは7月21日、「一部ユーザーの悪用だけでは提供者に責任は生じない」として、連邦最高裁の新しい判例を根拠に請求棄却を申し立てていた。今回のスタジオ側の反撃は、その根拠となった判例を「読み間違えている」という一点を突いている。
8月12日、何が提出されたのか
Disney・Universal・DreamWorksが2025年6月11日に、Warner Bros.が同年9月4日に、それぞれMidjourneyを著作権侵害で提訴した。両訴訟は同年11月に統合され、Disney側の訴訟が主導的な事件番号を持つ形で審理が進んでいる。訴えの中心にあるのは、ダース・ベイダーやエルサ、バットマン、スーパーマン、バッグス・バニーといった自社キャラクターを、Midjourneyのユーザーがプロンプトひとつで生成できてしまうという主張だ。
7月21日、Midjourneyは請求棄却を求める申立てを提出した。根拠にしたのは、同年3月25日に連邦最高裁が下したCox対Sony判決だ。この判決は、通信事業者コックス・コミュニケーションズが利用者の著作権侵害について「寄与侵害」の責任を負うかどうかを争ったもので、Midjourney側は「一部の利用者が悪用したという事実だけでは、提供者は責任を負わない」という趣旨をそのまま自社の主張に転用した。
これに対しスタジオ側が8月12日に出した反対意見書の骨子は、大きく2つだ。ひとつは、Cox判決が制限したのは「寄与侵害」という理論だけで、スタジオ側が主張する「代位責任」という別の理論には及んでいないという指摘。もうひとつは、仮に寄与侵害の枠組みで見ても、自分たちの訴状はMidjourneyが侵害を積極的に助長した意図を示す具体的な主張で満ちているという反論だ。裁判所がこの申立てをどう判断するかは、まだ決まっていない。
Disney・Universal・DreamWorksが提訴ダース・ベイダーやエルサなどの自社キャラクターがMidjourneyで無断生成されているとして、カリフォルニア州中部地区連邦裁判所に提訴。
Warner Bros.も別途提訴バットマン・スーパーマン・バッグス・バニーなどを対象に、同じ裁判所へ別訴訟を提起。
2つの訴訟が統合Disney側の訴訟を主導事件として一本化され、以後は一つの手続きで審理が進む。
最高裁がCox対Sony判決寄与侵害の責任が生じる条件を、侵害の勧誘か、侵害に特化したサービス提供かの2つに絞る判断を全会一致で下す。
Midjourneyが請求棄却を申立てCox判決を根拠に、スタジオの訴えは寄与侵害の要件を満たしていないと主張。
スタジオ側が反対意見書を提出Cox判決は代位責任の理論には及ばず、寄与侵害の主張もすでに十分だと反論。
最高裁Cox対Sony判決とは
Cox対Sony判決は、もともとAIとは無関係な事件だった。インターネット接続業者のコックス・コミュニケーションズが、自社回線を使って音楽を繰り返し違法に共有していた利用者を把握していながら放置したとして、レコード会社側から「寄与侵害」の責任を問われた事件である。寄与侵害とは、自分では直接侵害行為をしていない事業者が、他者の侵害行為に加担したとみなされて負う責任のことだ。
2026年3月25日、最高裁は9対0の全会一致で、コックスに寄与侵害の責任は生じないと判断した。判断の骨子は、事業者が侵害の事実を知っていた、というだけでは責任は発生せず、①侵害行為を積極的に勧誘(インデュース)したこと、②侵害専用に仕立てられたサービスを提供したこと――この2つのどちらかを示せない限り、寄与侵害は成立しないという線引きだった。単なる知識では足りず、意図の証明を要求する内容であり、プラットフォーム側に有利な判決として受け止められている。
寄与侵害と代位責任の違いとは
スタジオ側の反論を理解する鍵は、著作権の「他人の侵害を理由に負う責任」には、実は2種類あるという点だ。Cox判決が制限したのは、そのうちの片方でしかない。
事業者が侵害を積極的に勧誘したか、侵害専用のサービスを提供したかを示さなければ成立しない。Midjourneyはここを主戦場に、自分たちのサービスは汎用の画像生成ツールであり、侵害専用ではないと主張している。
事業者に侵害行為を止める権限や能力があり、かつその侵害から直接の経済的利益を得ていれば成立する。意図の証明は求められない。スタジオ側はこの理論を根拠に、Cox判決は自分たちの主張の障害にならないと反論している。
Midjourneyの申立てが寄与侵害の話しかしていないなら、代位責任の主張はCox判決とは無関係に残る。スタジオ側の反対意見書は、まさにこの「射程の狭さ」を突く構成になっている。
画像生成AIを使う読者への影響
この争いの当事者はMidjourneyという企業であり、個人の利用者が今すぐ何かを請求される話ではない。ただし、Midjourneyを仕事で使っている人にとっては、無関係な話でもない。
この訴訟が扱っているのは「実在するキャラクターをそのまま出力させる」使い方だ。ダース・ベイダーやバットマンを名指しで生成する行為は、訴訟の結果を待たずとも著作権リスクを伴う。判決の行方に関係なく、避けたほうがよい使い方であることに変わりはない。
生成物が第三者の権利を侵害した場合の責任分担は、各サービスの利用規約に書かれている。Midjourneyのように訴訟を抱えるサービスを商用で使うなら、規約の補償(インデムニティ)条項がどこまでをカバーしているかを、いま一度確認しておく価値がある。
仮に裁判所がMidjourneyの申立てを認めても、訴訟そのものが終わるわけではない。代位責任の主張が残る以上、争いの土台は縮むが消えない。今回の申立てはあくまで訴訟の一部分を早期に切り落とせるかどうかの手続きだ。
編集部の見立て
今回の意見書でいちばん興味深いのは、Midjourneyが持ち出した判例そのものではなく、その判例が「どこまで及ぶか」を巡る解釈の応酬だと考えます。最高裁の判断が出たからといって、訴訟が一気に決着するわけではありません。判例には射程があり、その射程の内と外を見極める作業が、実際の訴訟の大半を占めています。
スタジオ側が代位責任の理論を持ち出したのは、Cox判決の弱点を突いた合理的な選択に見えます。意図の証明を求める寄与侵害と違い、代位責任は「支配力」と「利益」という、証拠として示しやすい2つの要素で成立します。Midjourneyがサブスクリプションで収益を得ており、生成内容をある程度コントロールできる立場にあることを考えると、この理論のほうがスタジオ側にとって主戦場になりやすいはずです。
読者にとって重要なのは、この申立てが認められても否定されても、訴訟自体はすぐには終わらないという点です。Midjourneyを含む画像生成AIの著作権リスクは、ひとつの判決で白黒つく話ではなく、こうした手続きの積み重ねの中で輪郭がゆっくり定まっていきます。次に注目すべきは、裁判所がこの申立てにどう判断を下すか、そしてその判断が出る時期です。
まとめ
2026年8月12日、Disney・Warner Bros.・NBCUniversalの3社が、Midjourneyの請求棄却申立てに対する反対意見書を提出しました。Midjourneyは7月21日、最高裁のCox対Sony判決(2026年3月25日・寄与侵害の要件を厳格化)を根拠に棄却を求めていましたが、スタジオ側は「この判決が制限したのは寄与侵害だけで、自分たちが主張する代位責任には及ばない」と反論しています。
寄与侵害は侵害の勧誘や侵害専用サービスの提供という意図の証明を必要とし、代位責任は支配力と経済的利益があれば意図の証明なしに成立します。この違いこそが、今回の応酬の核心です。裁判所の判断はまだ出ていません。
個々の利用者が直接訴えられているわけではありませんが、実在するキャラクターを名指しで生成する行為の著作権リスクは、この訴訟の結果を待たずとも変わりません。商用利用者は、使っているサービスの補償条項を確認しておく価値があります。
次にこの訴訟が動くのは、裁判所が今回の申立てへの判断を示すタイミングです。それまでは、寄与侵害と代位責任という2つの理論が並走したまま、審理が続きます。