フランスのMistral AIが10月29日、旗艦モデル「Mistral Large 4」の重み(モデル本体のファイル)をHugging Faceで公開した。10月6日の先行公開のときに「10月末」と予告されていた約束が、期限どおりに果たされたことになる。

公開の形は、ダウンロードに承認手続きのかからない配布である。総パラメータ数は約1兆。ライセンスは「Mistral Ecosystem Open-Weight License」で、Mistral自身が「改変MIT」と呼ぶ。自社の中で使うぶんには無料、ただし第三者にモデルを貸して推論や追加学習をさせる事業を営むなら、Mistralとの別契約が要る。

「オープンウェイト」という言葉は、誰でも自由に使えるという印象を与えやすい。今回の公開で本当に決まったのは、その「自由」の線がどこに引かれたかである。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はHugging Face上のMistral公式モデルページ(2026年10月29日更新)とMistralの公式発表です。公開から約1日が経過しています。価格は公開時の公式発表に載る値で、ChatGPTやClaudeの月額プランとは別物です。性能の数字の多くはMistral自身の測定で、第三者による再測定はまだ見つかっていません。

何が公開されたのか──約束の重みが届いた

Mistral Large 4は、推論と通常応答を1つにまとめたMoE(Mixture of Experts)型のモデルだ。MoEとは、巨大なモデルの内部を多数の専門家に分け、1回の処理ではそのうち一部だけを動かす方式のことで、全体は大きくても1回に動かす計算量は小さく済む。モデルカードによると、専門家は128あり、1回の処理で動くのはそのうち4つと、全員が共有する1つである。

1回の処理で動く量は、前回の記事で「490億」と書いた。モデルカードでは、専門家部分が490億、入力や出力の層を含めると約520億とされている。数字が2通りあるのは数え方の違いで、モデル名の「A52B」は後者を指す。

重みのファイルは54個に分かれ、合計で約1.06テラバイトある。入力は文章と画像、出力は文章。文脈長(一度に読ませられる長さ)は、前回の記事で資料ごとに割れていたが、モデルカードには100万トークンと書かれている。推論の強さは低・中・高から選べ、既定は「高」だ。

約1兆 総パラメータ数(1回に動くのは約520億)
約1.06TB 公式の重み(FP8)のファイル合計
100万 文脈長(トークン)

配布と同時に、APIの提供先も出そろった。Mistralの発表では、Mistral Studio、Mistral API、OpenRouter、NVIDIAのホスト型エンドポイント、Microsoft Foundryで使える。Microsoft Foundryについて、Mistralは自社モデルの「最初のクラウド提供元」と位置づけている。

一言でまとめると──「重みは約束どおり出た。ただし1兆パラメータは手元のPCに入る大きさではなく、ライセンスは『誰でも商売に使える』ではない」。得をするのは、自社のサーバーで動かす組織と、API経由で使う開発者です。

Mistral Large 4のライセンスとは──改変MITが線を引く場所

本家のMITライセンスは、使う・改変する・売る・再配布するを、著作権表示を残すだけで許す。Mistralの版は、ここに1条を足したものだ。商用利用を含めて自由に使え、微調整して派生モデルを作ってもよい。例外は1つ、「Model as a Service」の事業者である。

ライセンス本文は、Model as a Serviceを「第三者に、推論や追加学習のためのモデルへのアクセスを提供し、その第三者が入力・設定・学習データに対して意味のある支配力を持つ形」と定義している。自社または関連会社がこれを営むなら、使う前にMistralと別の商用ライセンスを結ぶ必要がある。

使い方 別契約 本文の根拠
社内の業務・研究で動かす(第三者に使わせない) 不要 社内利用は商用ライセンスの要件から除かれている
自社アプリの一機能として組み込み、利用者に見せる 対象外とされる モデルが特定の機能の内側に組み込まれるだけの製品は除外
他社がホストするモデルへ、依頼を中継するだけ 対象外とされる 単なる中継は除外
第三者に推論や追加学習へのアクセスを貸し、入力や設定を握らせる 必要 Model as a Serviceの定義そのもの
⚠ 表の読み方の注意
上の表は、ライセンスの該当箇所を編集部が要約したものです。「意味のある支配力」や「特定の機能の内側」の境目は本文の言葉に頼っており、具体例は示されていません。自社の使い方が境目に近いときは、原文を読むか、Mistralに照会してください。Mistral自身の公式製品を通した利用も、別契約の対象から外れています。

ライセンスの種類は、Hugging Face上では「other」(独自ライセンス)と表示される。MITやApache 2.0のような定番の名前では検索に出ないため、導入前の法務チェックで引っかかりやすい。Mistral Large 3などの前世代がApache 2.0で出ていたことを知っている人ほど、今回の条項は見落としやすい。

自分で動かすには何が要るか

モデルカードに載っている起動例は、vLLMもSGLangもGPU8基の構成だ。公式のFP8版でファイル合計が約1.06テラバイトある以上、これは意外な数字ではない。Blackwell世代のGPU向けには、さらに小さいNVFP4の版も用意されている。

家庭用の機材でどこまで縮められるかは、第三者が作った量子化版を見るとわかる。Unslothが公開したGGUF形式のファイルを並べると、いちばん小さい1ビット版で233GB、2ビット版で378GB、3ビット版で493GBだ。同社の案内では、2ビット版を動かすのに384〜512GBのメモリが要るとされている。

Mistral Large 4の重みのファイルサイズをギガバイトで比べた横棒グラフ。第三者による量子化版は1ビット233、2ビット378、3ビット493、4ビット605、16ビット2,100。公式のFP8版は約1,060。破線は512ギガバイトの位置で、3ビット版までがその左側に収まる。

図の破線より左、つまり512GB以内に収まるのは3ビット版までだ。縮めるほど精度は落ちる。公式がベンチマークを取ったのは縮める前の版なので、手元で動くものと、発表の数字が測ったものは別物になる。この差を埋める測定は、現時点では見つかっていない。

ⓘ 自社で動かす前に確かめること
1兆パラメータのモデルを自前で運用すると、GPUの購入または賃借、電力、運用の人手がかかります。月に流すトークン量が少ないうちは、API経由のほうが安く済むことが多いはずです。自社運用に意味が出るのは、データを外に出せない組織と、継続して大量に流す組織です。損益の分かれ目は使い方で変わるため、試算するときは自社の月間トークン量を入れて確かめてください。

API単価は、先行公開の割引価格に近い値で表示された

Mistralの公式発表に載っているAPI価格は、100万トークンあたり入力0.70ドル、キャッシュ入力0.07ドル、出力2.10ドルだ。前回の記事で追った先行公開時の価格と並べると、次のようになる。

100万トークンあたり 先行公開の標準価格 先行公開の割引価格 今回の公式表示
入力 1.36ドル 0.68ドル 0.70ドル
出力 4.18ドル 2.09ドル 2.10ドル

今回の表示は、先行公開の標準価格の約半分で、発売直後の割引価格とほぼ同じ水準になる。ここで「値下げが確定した」とは言えない。Mistralの発表には先行公開時の価格との比較がなく、割引が恒常化したのか、名前を替えて標準価格に置いたのかは書かれていないからだ。確かなのは、いま公式ページに出ている価格が0.70ドルと2.10ドルであることまでである。

単価が半分でも、費用が半分になるとは限らない。前回の記事で見たように、Large 4は同程度のモデルの約2.5倍のトークンを書く性質が測定されていた。その測定は先行版のものなので、重みの公開版でも同じかどうかは、まだ誰も測り直していない。Artificial Analysisが先行版で測った1課題あたりの標準費用1.13ドルを、単価の比だけで当てはめると0.57ドル前後になる。これは試算で、実測ではない。※観測

性能の数字は、まだ自己申告が中心

Mistralは、重みの公開に合わせてモデルを改良したと説明している。示された数字は、先行版との比較だ。

01
コマンド操作の課題

Terminal-Bench 4.0で、先行版の28%から41%へ13ポイント上がった。出力トークンは30%減ったという。Mistral自身の測定。

02
悪意あるサイバー要求の拒否

JailbreakBench、StrongREJECT、AgentHarmの平均で96.6%。Mistralは、測定したオープンモデルの中で最高と主張している。

03
知能指数(Artificial Analysis)

先行版は38点だった。重みの公開版は改良後の別物で、同社の再測定は見つかっていない。※観測

前回の記事は、Large 4を「断らないモデル」として紹介した。今回の発表は、むしろ守りの側に寄っている。防御目的と攻撃目的を見分ける安全装置を組み込んだと説明し、侵入テストや脆弱性診断向けの専用版は、Orange Cyberdefenseのような設計パートナーに限って先行提供している。専用版の利用には厳格な審査と契約上の保証が要り、対象は自社または明示的に許可された環境に限られる。

Mistralは、安全装置の調整を続けているとも述べている。重みを配布した以上、利用者の側で安全装置の挙動を変えて動かせるのは、オープンウェイトのモデルに共通する性質だ。専用版を審査つきで出す理由は、そこにあるのだろう。※一般論

技術報告書は「近日公開」とされている。ベンチマークの条件を確かめられるのは、それが出てからになる。

あなたの立場では、どこが変わるか

A
ChatGPTやClaudeのアプリを使う人:変わらない

今回の発表はMistralの配布とAPI価格に関するもので、各アプリの機能や月額には触れていない。Mistralのモデルに切り替える理由が新しく生まれたわけでもない。

B
APIで使う開発者:単価を試算し直す

0.70ドルと2.10ドルは、先行公開の標準価格の約半分だ。ただし書くトークンの量は未測定なので、請求額は自分の課題で10〜20件流して確かめるまで見積もれない。

C
データを外に出せない組織:選択肢が増えた

社内利用は別契約の対象から除かれ、重みは承認なしで手に入る。ただし最小の量子化版でも233GBあり、公式版はGPU8基の構成が前提になる。

D
モデルを貸して商売にする事業者:契約が先

他社に推論や追加学習を提供する形なら、Mistralとの別契約が要る。製品の中に機能として組み込むだけか、モデルそのものへのアクセスを貸すのかで、扱いが分かれる。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の公開でいちばん重いのは、重みが出たことそのものより、ライセンスの1条だと考えます。「オープンウェイト」と聞いて、誰でも自由に商売に使えると受け取る人は多いはずです。しかしMistralは、モデルを貸す事業にだけ線を引きました。自社で使う側には寛大で、同じ土俵で売る側には対価を求める設計です。

もう一つ、1兆パラメータという数字を、手元で動くという意味に読まないでほしいと思います。公式の重みで約1.06テラバイト、第三者の最小版でも233GBあります。無料で配られていることと、無料で運用できることは別の話です。

価格については、判断を急ぎません。0.70ドルと2.10ドルが先行公開の割引価格とほぼ重なる以上、標準価格の値下げなのか、割引の延長なのかは、時間がたたないと見えません。書くトークンの量も、公開版では測られていません。いま確かなのは、公式ページの表示だけです。

まとめ

2026年10月29日、Mistral AIがMistral Large 4の重みをHugging Faceで公開しました。総パラメータ数は約1兆、1回の処理で動くのは約520億、文脈長は100万トークンです。公式のFP8版は合計で約1.06テラバイトあります。

ライセンスは改変MITで、自社内の利用は無料です。第三者に推論や追加学習へのアクセスを貸すModel as a Service事業だけが、Mistralとの別契約の対象になります。

API価格は100万トークンあたり入力0.70ドル、出力2.10ドルと表示されました。先行公開の標準価格(入力1.36ドル、出力4.18ドル)の約半分ですが、値下げか割引の延長かは公式に書かれていません。

ベンチマークの数字は主にMistral自身の測定で、重みの公開版を第三者が測り直した結果は見つかっていません。

先行版で38点だった知能指数が、改良後の公開版でも同じなのか。Artificial Analysisの再測定と、Mistralの技術報告書が出るまで、その答えは空白のままだ。