中国のAI企業Moonshot AIが、予告していた期限の11月4日に、新モデル「Kimi K3.1 Pro」の重み(モデルの中身そのもののファイル)をAI公開サイトのHugging Faceに置いた。10月23日の発表時には、重みが本当に出るのか、ライセンスはどうなるのかが未確認だった。この2点に、公開された原文で答えが出た。

答えは、ライセンスの条文はK3とほぼ同一で、違うのは題名と製品名の表記の2行だけだ。容量は約1.56TBで、個人のパソコンに載る大きさではない。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はHugging Face上のKimi-K3.1-Proのモデルカードとライセンス原文、およびMoonshot AIの公式発表です。重みの公開は2026年11月4日付(米国時間)の複数の報道で確認しており、記事公開時点で1日以内です。モデルカードの成績表はMoonshot自身が測った数字で、第三者の再現はまだ確認できていません。

Kimi K3.1 Proの重みとは──公開されたものの中身

重みとは、AIが学習で身につけた数値の塊をまとめたファイルのことだ。これが手に入ると、APIを通さず自分のサーバーでモデルを動かせる。今回Hugging Faceに置かれたのは、2.8兆個のパラメータ(モデルの規模を表す部品の数)を持つ専門家混合(MoE)モデルである。MoEは、入力のたびに一部の専門家だけを呼び出す作りで、1トークン(AIが文章を処理する単位)を処理するときに動くのは約1,040億個。全体の約27分の1にあたる。

Kimi K3.1 Proのパラメータ数を比べた横棒グラフ。全体は2.8兆個、1トークンで動く部分は1,040億個で、後者は全体の約27分の1。バーの長さは個数に比例している。

モデルカードに載っている主な仕様は次のとおり。文脈の長さ(一度に読める量)は1,048,576トークンで約100万トークン、入力は文字と画像、重みはMXFP4という低い精度の数値形式で保存されている。推奨の実行環境として、vLLM、SGLang、TokenSpeedの3つが挙がっている。

2.8兆個 総パラメータ数
約1.56TB リポジトリの総容量
100万 文脈の長さ(トークン)

リポジトリは公開(認証なしで取得可能)で、重みは96個に分割されたファイルとして置かれている。APIは従来どおり利用でき、料金は前回の記事で整理した入力2.00ドル・出力10.00ドル(いずれも100万トークンあたり)のままだ。

Kimi K3.1 Proのライセンス──K3と違うのは2行だけ

ライセンスは「Kimi K3.1-Pro License」という独自のもの。MITやApache 2.0のような標準的なオープンソースのライセンスではなく、Hugging Face上の分類も「other」になっている。原文をK3のライセンスと突き合わせると、異なるのは題名の行と、画面に表示せよと求める製品名の行の2行だけだった。条件の中身は同じである。

条項 対象になる条件 求められること
基本の許諾 使用・複製・改変・再配布・販売・ファインチューニング 制限なく許諾(著作権表示の同梱と法令順守が条件)
第2条(Model as a Service) 第三者にモデルの推論やファインチューニングを貸す事業(APIなど)を運営し、本人と関連会社の売上合計が連続する12カ月で2,000万ドル超 商用利用の前に、Moonshot AIと別契約
第3条(表示) 月間利用者1億人超、または月間売上2,000万ドル超の商用の製品・サービスで使う 画面に「Kimi K3.1-Pro」と目立つ形で表示
第4条(適用除外) 社内利用(第三者にモデルやその出力・能力を提供しない使い方)、またはMoonshot公式製品・認定の推論パートナー経由の利用 第2条・第3条は適用されない

第2条の「Model as a Service」には、モデルの機能が特定の機能の中に組み込まれただけのエンドユーザー向け製品と、他社が運営するモデルへの単なる中継は含まれない、と原文に書かれている。つまり、自社アプリの一機能としてKimiを使うだけなら、第2条の対象にはなりにくい。ただし、適用の可否は個別の事情で変わる。契約を伴う判断は、原文と法務の確認を前提にしてほしい。

前回の記事で「K3にあった売上2,000万ドル超の条項が引き継がれるか」を次の確認点に挙げた。答えは、引き継がれた。

容量1.56TBは何を意味するか

リポジトリの使用容量は約1.56TB。Hugging Faceの記録では、K3のリポジトリも約1.56TBで、ほぼ同じ大きさだ。パラメータ数が同じ2.8兆で、保存の形式も同じ水準なので、容量が変わらないのは自然である。

1.56TBは、一般的なノートパソコンの保存領域をまるごと使い切る大きさだ。しかも動かすときには、これを高速なメモリに載せる必要がある。1トークンで動くのは約1,040億個でも、どの専門家が呼ばれるかは入力ごとに変わるため、全体を手元に置いておく必要がある。個人が趣味で動かす用途は現実的ではなく、動かせるのはGPUサーバーを持てる組織に限られる。必要なGPUの枚数や構成は、vLLMなど各推論エンジンの公式レシピに従って確かめることになる。

Moonshotが今回の重みを出した意味は、「誰でも動かせる」ことではなく、動かせる組織が、API経由ではなく自社の管理下でK3.1 Proを使えることにある。社外に出せないデータを扱う会社が、中国企業のAPIに送らずに済む道が開いた。

モデルカードの成績表──読んでよい範囲

モデルカードには、コーディングとサイバーセキュリティの成績表が載っている。まず、コーディングの総合試験Terminal-Bench 4.0の数字を並べる。

モデル Terminal-Bench 4.0 ExploitBench ExploitGym
Kimi K3.1 Pro 65.7 74.7 20.7
Claude Opus 5.5 66.4 91.0 34.5
Claude Fable 5.1 57.9 83.0 30.4
GPT-6 Astra 58.2 100 42.4
GLM-5.3 41.8 54.4 15.0

数字は高いほど良い。Terminal-Bench 4.0ではK3.1 ProがOpus 5.5に0.7点差まで迫り、Fable 5.1とGPT-6 Astraは上回る。一方、攻撃コードの生成力を測るExploitBenchとExploitGymでは、Claudeの2モデルとGPT-6 Astraの下に位置し、前回の記事で触れた「サイバー能力を削った」という説明と矛盾しない並びになっている。

ただし、この表は読み方に条件がある。K3.1 Proの数字はMoonshotがClaude CodeやKimi Codeという道具を使って自分で測ったもので、他社モデルの数字は各社のブログや公式リーダーボードから取った測定条件のそろっていない比較だ。ExploitBenchは5回試して最良の結果を採る方式で、条件も社ごとに違う。同社内の試験xdev-bench-hardでは81.0%という数字が載っているが、モデルカードには、サイバー関連の学習データを外したという説明は見当たらず、表の数字が公開された重みの成績なのかも明記されていない。

ⓘ 数字の出どころを分けて読む
第三者の計測として確認できているのは、Artificial Analysisの知能指数など一部だけです。モデルカードの成績表はMoonshot自身の測定が中心で、重みが公開されたことで、外部の研究者が同じ条件で再現できるようになりました。再現結果が出るまでは、表の差を「実力差」と読み切らないほうが安全です。

あなたのAI選びはどこが変わるか

ChatGPTやClaude、Geminiを月額プランで使っている人にとって、今回の公開で変わるものはない。各社の月額料金にも影響しない。関係が出るのは、APIで大量に処理している人と、自社でモデルを動かす選択肢を考える組織である。

A
機密データを外に出せない組織:自社運用が候補に入る

GPUサーバーを確保できるなら、社内利用の範囲では第2条・第3条の対象外になる。問われるのは、1.56TBを載せて動かす環境の費用と運用の手間が、APIの従量課金より安くなるかどうかだ。

B
Kimiを土台に自社サービスを作る事業者:2つの線を確認する

第三者へのAPI提供をするなら、12カ月の売上合計2,000万ドルが分かれ目になる。月間利用者1億人超、または月間売上2,000万ドル超の製品なら、画面への表示義務が生じる。

C
コーディング支援ツールの利用者:変化はまだない

GitHub Copilotには8月にK3が加わった(詳しくはこちら)。K3.1 Proの追加は、確認できた範囲では発表がない。

⚠ 重みを手元に置いても、安全性の確認は別です
公開されたモデルのファイルを自社に取り込む場合は、配布元の確認、ファイルの改ざん検知、実行時に外部コードを読み込む設定(Transformersでは信頼設定が必要な場合があります)の可否を、社内のセキュリティ担当と先に決めてください。取引先や発注元の規定で中国企業製モデルの利用が制限されていないかも、導入前に確かめる必要があります。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回、いちばん面白いと感じたのは、ライセンスを前世代からほぼ一字も変えなかった点です。モデルは大きく進化したのに、事業者に課す線は「年間売上2,000万ドル」「月間利用者1億人」のまま動いていません。公開の条件を型として固定している様子がうかがえます。

もうひとつは、重みの公開が「性能の証明」ではなく「検証の入口」になった点です。モデルカードの数字は発表元のものにすぎませんが、重みが外に出た以上、外部の研究者が同じ条件で測り直せます。Terminal-Bench 4.0でOpus 5.5に迫るという主張が本当かどうかは、いまから数週間で見えてくると思います。

読者の方は、「オープンウェイト」という言葉で安心せず、ライセンス原文を一度は読んでください。この種の独自ライセンスは、会社の規模が変わった日に条件が変わります。

まとめ

Moonshot AIは、予告していた11月4日にKimi K3.1 Proの重みをHugging Faceで公開しました。2.8兆パラメータ、約1.56TB、文脈は約100万トークンで、1トークンあたり動くのは約1,040億個です。

ライセンスは独自の「Kimi K3.1-Pro License」で、K3の条文と異なるのは題名と表示する製品名の2行だけでした。第三者に推論を提供する事業者で売上合計が12カ月で2,000万ドルを超える場合は別契約が、月間利用者1億人超または月間売上2,000万ドル超の製品には画面表示が必要です。

モデルカードの成績表は発表元の測定で、他社の数字と条件がそろっていません。個人の月額プランには影響がなく、関係するのはAPIの大量利用者と自社運用を考える組織です。

次に見るのは、重みを使った第三者の測定結果が出たときに、モデルカードの81.0%(社内の攻撃コード試験)やTerminal-Bench 4.0の65.7が再現されるかどうかだ。数字が合えば自社運用できる上位級モデルという看板が裏づけられ、合わなければ発表元の数字として扱い続けることになる。