中国のAI企業Moonshot AIが10月23日、新モデル「Kimi K3.1 Pro」を公開した。7月に重みを配ったKimi K3の後継にあたり、API単価は入力100万トークンあたり3.00ドルから2.00ドルへ、出力は15.00ドルから10.00ドルへ、どちらも約3分の1の値下げになった。
ところが第三者の計測では、知能指数の1タスクあたりの費用は約2ドルで、前のK3とほぼ変わらない。単価が下がっても請求が下がるとは限らない、という典型例である。さらにMoonshotは、重みを公開する版ではサイバー攻撃に関する学習データを外したと明かしている。重みは11月4日までに出すという。
Kimi K3.1 Proとは──K3を仕上げ直した2.8兆パラメータのモデル
Kimi K3.1 Proは、K3に追加の学習をかけて仕上げ直したモデルだ。全体で約2.8兆個のパラメータ(モデルの規模を表す部品の数)を持ち、一度の処理で実際に動くのはそのうち約1,040億個とされる。必要な部分だけを動かす専門家混合(MoE)という作りで、巨大さのわりに1回あたりの計算を抑えられる。一度に読める長さ(コンテキスト)は100万トークンで、K3から変わっていない。
同時に、同じ中身を2〜3倍の速さで動かす「K3.1 Pro Highspeed」も出た。Moonshotの公式アプリのKimi、業務用デスクトップ版のKimi Work、コーディング用のKimi Code、そしてAPIから使える。APIでは入力データを保存しない設定(ゼロデータリテンション)も用意されているが、企業向けの管理画面では発売時点で既定がオフになっている。
推論の深さは「low」「high」「max」から選べる。ただし推論そのものを止めることはできず、既定は最も深い「max」だ。ここは次章の費用の話に直結する。
Kimi K3.1 Proの料金──単価は下がり、1タスクの費用は動かず
API料金は次のとおり。単位は100万トークンあたりで、トークンとはAIが文章を処理するときの単位(日本語なら1文字がおよそ1〜2トークン)だ。
| モデル(100万トークンあたり) | 入力 | 出力 | キャッシュ読み出し |
|---|---|---|---|
| Kimi K3.1 Pro | 2.00ドル | 10.00ドル | 0.20ドル |
| Kimi K3.1 Pro Highspeed | 4.00ドル | 20.00ドル | 0.20ドル |
| Kimi K3(前世代) | 3.00ドル | 15.00ドル | 0.30ドル |
入力・出力・キャッシュ(同じ文脈を繰り返し送るときの割引単価)のすべてが、K3の3分の2になった。高速版は標準版の2倍の単価で、速さも2〜3倍とされている。
ここで見落としやすいのが、知能指数を測るのに使ったトークン量だ。Artificial Analysisによると、K3.1 Proは測定一式を終えるまでに出力を1億5,000万トークン使った。比較対象の中央値は8,700万トークンで、約1.7倍にあたる。深く考えるぶん、同じ仕事に使うトークンが増える。結果として、測定1タスクあたりの費用は約2ドルと、K3と変わらない水準にとどまった。
出力の速さも、安さとは別の話だ。計測値は毎秒73.5トークンで、比較対象186モデル中の113位、中央値の毎秒82.3トークンをやや下回る。急ぐなら倍の単価を払ってHighspeedを選ぶ、という設計になっている。
順位──第三者の指数で4位、首位とは3点差
独立の計測機関Artificial Analysisの知能指数で、K3.1 Proは55点、対象215モデル中の4位に入った。K3は44点だったので、11点の上昇になる。上にいるのは、ClaudeのOpus 5.5(58点)とSonnet 5.5(56点)、Metaの「Muse Wonder Full」(56点)の3つだ。ChatGPTの最新系列にあたるGPT-6 Astraと、GeminiのGemini 4 Argonは、ともに53点で下に並ぶ。
コーディングの腕前を測るTerminal-Bench 4.0では、Moonshotの自己申告で65.7%。Opus 5.5の66.4%に1ポイント足りず、GPT-6 Astraの58.2%は上回った。事実の誤りを測る同社内の試験では、誤った主張の割合がK3の23.4%から8.3%に下がったという。GPT-6 Astraは同じ試験で5.5%で、まだ届いていない。ただしこれらはMoonshotが自分で作った試験であり、実際の誤り率をそのまま表す数字ではない。
第三者の計測と自己申告の差は、はっきり分けて読みたい。55点・4位は外部の計測、65.7%と8.3%は発表元の数字である。
攻撃コードの能力を削った重み──81.0%の読み方
今回のもう一つの論点は、重みを公開する版でMoonshotが意図的に能力を削ったことだ。同社は、サイバー攻撃に関する学習データを、学習の途中段階と強化学習の両方から取り除いたと説明している。理由は、無償で手に入るモデルが攻撃能力の限界を押し広げないようにするためだという。一般的なコーディング能力は残し、サイバー関連のデータだけを外した。
削った影響は、同社の社内試験「xdev-bench-hard」(実際のソフトウェアの欠陥を突く課題、pass@3)で示されている。削る前の版は90.5%、公開版は81.0%で、差は9.5ポイントだった。一方、前世代のK3は33.3%だったので、公開版でもK3の約2.4倍は解ける。Moonshotの集計では、DeepSeek V4.1-Flashは85.7%で、公開版を上回っている。
つまり、削ったのに前世代の2倍以上は攻撃課題を解ける。同社自身も、サイバー能力は公開から3カ月以上が過ぎた非公開のトップモデルには及ばない、という言い方にとどめている。これも自己申告で、第三者の検証はない。重みは一度配れば回収できないため、安全研究者からは公開モデルの安全策は非公開モデルより遅れているという指摘も出ている。
11月4日に確かめること──重みとライセンス
Moonshotは「完全な重みは11月4日までに公開する」としている。Artificial Analysisのページには現在、ライセンスが「独自(プロプライエタリ)」、重みは「未公開」と表示されている。つまり今は、K3.1 Proを自分のサーバーで動かすことはできない。
Artificial Analysisは、重みが出れば「最も高得点のオープンウェイトモデル」になるとの見方を示している。出なければ、今の4位は「APIで使える中国製モデル」にとどまる。
発表資料にはライセンスの記載がない。7月に出たK3は独自ライセンスで、他社に推論環境を貸す事業者は、年間売上が2,000万ドルを超えると別契約が要る形だった。K3.1 Proが同じ条件を引き継ぐかは未確認である。
重みが出れば、外部の研究者が攻撃能力の削減や誤り率を自分で測れる。今ある数字の多くは、その時点で初めて検証にかかる。
あなたのAI選びはどこが変わるか
日常的にChatGPTやClaude、Geminiを月額プランで使っている人にとって、今回の発表で動くものはない。ChatGPT・Claude・Geminiの月額料金は変わっておらず、Kimi K3.1 Proが直接関わるのはAPI利用と、自前運用を考える層である。
K3から切り替えても請求が3分の1下がるとは限らない。自分の仕事から20〜30件を選び、K3とK3.1 Pro、いま使っているモデルに同じ入力を流して、1件あたりの総額と出来を並べると判断できる。推論の深さを「low」や「high」に落とすと費用が変わる可能性がある。
重みとライセンスが出るまでは、構成も契約も決められない。巨大なモデルなので、動かせる環境を持つ組織は限られる。
編集部の見立て
今回いちばん学びが大きいと考えるのは、単価の値下げと費用の下落が別物だという点です。単価が3分の1になっても、考える量が1.7倍に増えれば、請求はほとんど動きません。モデルの比較表で単価の列だけを見て選ぶと、こうした差を見逃します。
もうひとつは、サイバー能力の削減が、ゼロにするのではなく「9.5ポイント下げる」という形で行われたことです。前世代の2倍以上は解けるままなので、安全策としてはかなり控えめだと受け取る人もいれば、公開モデルとしては現実的な落としどころだと見る人もいるでしょう。どちらが正しいかは、11月4日に外部が測れるようになるまで、判断できません。
さらに言えば、今回の見出しになった数字の多くはMoonshot自身が測ったものです。第三者の計測が確認できたのは、知能指数の55点と、費用や速度の数字だけでした。ここを区別して読む姿勢が、新モデルの発表が毎週のように続く今は欠かせないと考えます。
まとめ
2026年10月23日、Moonshot AIがKimi K3.1 Proを公開しました。約2.8兆パラメータ、100万トークンの文脈を持つK3の改良版で、API単価は入力2.00ドル・出力10.00ドルと、K3の3.00ドル・15.00ドルから約3分の1下がりました。
Artificial Analysisの知能指数は55点で4位、首位のClaude Opus 5.5とは3点差です。ただし考えるトークンが増えたため、測定1タスクあたりの費用は約2ドルとK3とほぼ同じでした。
重みを公開する版ではサイバー関連の学習データを外し、社内の攻撃コード試験は90.5%から81.0%に下がりました。この数字は第三者の検証を受けていません。重みは11月4日までに公開される予定で、ライセンスの条件は発表されていません。
次に見るのは11月4日です。重みが予定どおり出るか、そしてK3にあった「売上2,000万ドル超のMaaS事業者は別契約」という条項がK3.1 Proにも残るかで、4位という順位の使い道が変わる。