米司法省(DOJ)公民権局が2026年8月4日、OpenAI と子会社Statsigが米国人労働者を採用選考から締め出していたとする疑いについて、320万ドルの和解に合意したと発表した。対象になったのは、外国人従業員のグリーンカード取得を会社が支援する「PERM」という手続きに紐づく求人だ。

争点になった求人は10件に満たない。それでも今回の和解は、DOJが2025年に立て直した労働者保護の取り組みの中で過去最大の金額だという。ChatGPTを提供する会社が、AIの安全性や著作権とは別の理由で連邦政府と正式に和解した一件になる。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報は米司法省公民権局の公式発表(2026年8月4日)と、同日付のAxios・Bloombergによる報道です。本記事公開時点で発表から2日ほどが経過しています。ここでは速報としてではなく、この和解が何を意味するかという整理として書きます。

320万ドルの内訳──何が問題視されたのか

DOJの発表によれば、和解の相手はOpenAIの事業運営会社であるOpenAI OpCo LLCと、その子会社Statsig Inc.の2社。両社は移民国籍法(INA)に違反し、一時就労ビザを持つ外国人労働者を優先する形で米国人労働者を差別したとされる。

320万ドル 和解総額
10件未満 対象になったPERM求人数
3年間 今後のDOJによる監視期間
13件中最大 同種の和解の中での規模

320万ドルの内訳は、米国政府へ直接支払う民事制裁金120万ドルと、選考で不利益を受けたとされる求職者に配分する未払い賃金基金200万ドルの合計だ(120万+200万=320万ドル)。加えてOpenAIは今後3年間、PERM関連の採用方針をDOJの承認を得たうえで運用し、応募した米国人と外国人の人数や面接実施状況などを半年ごとに報告する義務を負う。

一言でまとめると──「グリーンカード用の求人だけ、応募のハードルがひそかに上げられていた」。DOJはそう認定し、今後3年は自社の採用プロセスを政府に開示し続けることになった、という内容です。

なおOpenAIはDOJの認定内容を争っており、違法行為を認めてはいない。和解は係争を終わらせるためのものであり、法的責任を認めた結果ではないという立場を取っている。

PERMとは何か──グリーンカード雇用の仕組みと崩れた建前

PERM(Program Electronic Review Management)とは、企業が外国人従業員のために永住権(グリーンカード)のスポンサーになろうとするとき、労働省への申請の前提として踏む採用手続きのことだ。制度の建前はこうだ。企業はまず、その職に米国人の適任者がいないかを確かめるため、求人を一般に公開して採用活動を行う。応募してきた米国人を正当な理由なく落とすことはできない。米国人が本当に見つからなかった場合に初めて、外国人労働者のスポンサーになれる。

DOJが問題視したのは、この「一般公開して採用活動を行う」という建前の中身だった。DOJが指摘した具体的な運用は次の3点に絞られる。

01
自社サイトの求人一覧に出していなかった

OpenAIは通常、求人を自社の採用ページに掲載する。ところがPERM対象の求人だけは、この外部向けページに載せていなかったとされる。

02
紙の応募書類を郵送させていた

他の求人ではオンライン応募を受け付けているのに、PERM対象の求人に限っては紙の書類を郵送することを応募条件にしていたという。

03
深夜のラジオ広告で告知していた

一部の求人は、求職中のエンジニアがまず目にしないような深夜のラジオ枠で広告されていたとDOJは指摘している。

3つとも、違法にはギリギリ触れない形で「見つけにくく・応募しにくく」する手口だ。求人自体は存在し、応募を明示的に拒否したわけでもない。DOJの公民権局を率いるハーミート・ディロン司法次官補は、今回の和解についてこう述べている。

一時ビザ保有者を優先して米国人労働者を差別することは違法です。この大型の和解により、OpenAIは被害を是正し、人気の高いテクノロジー職において米国人労働者が公正な機会を得られるよう、採用方針を変更することになります。

— ハーミート・ディロン司法次官補(公民権局)の声明より(2026年8月4日)

なぜいま発覚したのか

今回の一件は、規制当局が独自の抜き打ち調査で見つけたものではない。発端は報道だ。米Newsweekは2025年8月ごろ、PERM制度を使う企業が、求人情報を一般の求職者がまず目にしない媒体(旧来の新聞求人欄や深夜ラジオなど)に載せて法律上の「公開義務」だけを形式的に満たしている実態を調査していた。OpenAIはその調査対象の1社だった。

Newsweekによれば、DOJがOpenAIへの調査に着手したのは、同誌が同社の求人掲載についてOpenAIに問い合わせた時期とおおむね重なるという。取材が呼び水になり、行政の調査に発展し、1年後に和解という形で決着した格好になる。

もう一つ押さえておきたいのは、和解の相手にStatsigが含まれている点だ。Statsigは、A/Bテストや機能フラグ管理を手がけるシアトル近郊の企業で、OpenAIが2025年9月に11億ドル(全株式交換)で買収した。創業者のヴィジャイ・ラジ氏はOpenAIのアプリケーション担当CTOに就いている。今回のPERM関連の問題がOpenAI本体とStatsig側のどちらの採用慣行に起因するのか、DOJの発表文は両社をまとめて扱っており、切り分けては説明していない。

13件中最大──「米国人労働者保護イニシアチブ」という枠組み

この和解は単発の事件ではなく、DOJが継続している取り組みの一部だ。「米国人労働者保護イニシアチブ」と呼ばれるこの枠組みは、トランプ政権1期目の2017年に始まり、バイデン政権下では優先順位が下がっていたが、2025年に再び立て直された。一時ビザ保有者を優先して米国人を不利に扱う企業を狙い撃ちで調査・提訴する取り組みで、過去にはFacebook(2021年)やApple(2023年)が同種の和解に応じ、Clouderaに対しては係争中の案件もあるとされる。

OpenAIとの和解は、このイニシアチブでDOJがこれまでに結んだ13件の和解のうち最大の金額だという。過去の同種の和解の多くは数万ドル規模にとどまっていたとされ、320万ドルという規模はその中で際立っている。テクノロジー業界の中でもとりわけ注目度の高い企業が対象になったことで、今後この分野の調査が広がるかどうかの試金石にもなりそうだ。

💡 ここに注意
PERM制度そのものは違法でも特殊でもない。OpenAIに限らず、グリーンカードのスポンサーになる企業が広く使う通常の手続きだ。今回問題になったのは制度の存在ではなく、「一般公開して募集する」という義務の履行の仕方だった点を混同しないほうがいい。

ChatGPTを使う・選ぶ人に、何が変わって何が変わらないか

結論から言うと、ChatGPTの料金やサービス内容がこの和解で変わることはない。争点は社内の採用手続きであり、製品の安全性・品質・価格とは別の領域の話だ。個人利用者が明日から何かを変える必要は生じない。

一方で、企業としてOpenAIをベンダーに選ぶ立場の読者にとっては、意味を持つ情報になる。OpenAIはここ数週間だけでも、自社AIエージェントの無許可行動をめぐる法的責任や、EU AI法の罰金対象としての立場など、複数の規制・法的フロントに同時に直面している。今回の和解はその中でも、AIモデルの挙動ではなく人事・労務という、表からは見えにくいが実務的な統治能力を問う種類の指摘だ。技術面の評判とは別の軸として、コンプライアンス対応の実績を見ておく価値がある。

DOJによる3年間の監視・報告義務は、OpenAIの採用実務が今後どう変わるかを外部から追跡できる材料にもなる。半年ごとの報告書は義務化されているが、現時点では一般公開の有無や方法は明らかにされていない。

編集部の見立て

Editor's Opinion

この一件でまず目を引くのは、金額そのものより争点の小ささです。対象になった求人は10件に満たず、320万ドルという金額もOpenAIの企業規模からすれば大きくありません。それでも「イニシアチブ史上最大」という位置づけになったのは、裏を返せば米国人労働者保護イニシアチブがこれまで扱ってきた案件自体の規模が、それだけ小さかったということでもあります。

もう一つ気になったのは、発端が規制当局の抜き打ち調査ではなく、一本の調査報道だったという経緯です。求人の出し方という、モデルの性能や安全性評価とは比べものにならないほど表からは見えにくい領域が、外部からの取材をきっかけに行政処分にまで発展しました。AIの安全性やサンドボックス脱走のような派手な話題が続く中で、こうした足元の労務管理も同時並行で見られているという事実は、企業としてのOpenAIを評価するうえで見落としやすい要素だと思います。

StatsigというOpenAIが2025年に11億ドルで買収した会社が、本体と一緒に名指しされている点も示唆的です。買収した会社の採用慣行まで含めて、親会社の統治責任が問われる構図は、大型買収を重ねる企業に共通する種類のリスクです。今後もOpenAIが企業買収を続けるなら、買収先の労務コンプライアンスをどう統合するかが、同じ形で問われ続ける可能性があります。

DOJの半年ごとの報告義務がどんな中身で、それが一般に公開されるのかどうか。次にこの話が動くとすれば、その報告書が出るタイミングになるはずです。

まとめ

2026年8月4日、米司法省公民権局はOpenAI OpCo LLCと子会社Statsig Inc.が米国人労働者を差別したとする疑いについて、320万ドルの和解に合意したと発表しました。対象は、外国人従業員のグリーンカード取得を支援する「PERM」手続きに紐づく10件未満の求人です。

問題視されたのは、これらの求人だけ自社の採用ページに掲載せず、紙の書類の郵送を条件にし、深夜のラジオ広告で告知していたという運用でした。和解額320万ドルは、民事制裁金120万ドルと未払い賃金基金200万ドルの合計で、OpenAIは今後3年間、DOJの監視下で採用方針の報告を続けます。OpenAIは違法行為を認めていません。

この和解は、DOJが2025年に立て直した「米国人労働者保護イニシアチブ」でこれまでに結んだ13件の和解の中で最大の金額でした。発端は2025年8月ごろのNewsweekの取材だったとされています。

ChatGPTの料金やサービス内容はこの和解で変わりません。変わるのは、OpenAIという会社の統治実績を見るときの材料が一つ増えたということです。

DOJへの3年間の報告義務がいつ、どんな形で果たされるか。次にこの件が動くとすれば、その報告書が出るタイミングになります。