OpenAI が2026年10月5日、ChatGPT とコーディング支援のCodexが生成する文章に、目に見えない電子透かしを入れると発表した。対象はEU域内の利用者だけで、導入は「今後数週間」かけて進む。
Anthropic が8月に、Claude の出力へ世界一律で透かしを入れると明らかにしたとき、本サイトは「ChatGPTは技術を持ちながら公開を見送っている」と書いた。その経緯は以前の記事にまとめている。あれから2か月、OpenAIがようやく動いた。ただし動き方は、Claudeとは対照的だ。
OpenAIのtextGrainとは──何が、どこで始まるのか
textGrainは、OpenAIが開発した文章用の電子透かしの方式だ。文字や記号を足すのではなく、AIが次の単語を選ぶときの「選び方」にわずかな偏りを持たせる。読んでいる人には何も見えないが、秘密の鍵を持つ検出器にかけると、その偏りが統計的な痕跡として浮かび上がる。
発表された範囲を整理すると、次のとおりになる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象の製品 | ChatGPTとCodex(対象のプランは全プラン) |
| 対象の地域 | EU域内の利用者。今後数週間で段階的に導入 |
| API(開発者向け) | 世界中の開発者が10月5日から、一部のモデルで有効化できる。初期設定はオフ |
| きっかけ | EU AI法第50条の透明性義務(2026年8月2日に適用開始) |
EU AI法第50条は、AIが作った文章や画像を、機械が読み取れる形で「AI生成」と分かるようにすることを事業者に求めている。違反した場合の制裁金は、最大1,500万ユーロか全世界の年間売上高の3%のいずれか高いほうとされる。OpenAIは今回、この義務への答えとして文章への透かしを出してきた形だ。
透かしの検出率と、証明できないこと
数字を読むうえで押さえたいのは、トークンという単位だ。AIが文章を処理する最小の単位で、日本語なら1文字がおおむね1〜2トークンにあたる。つまり200トークンは日本語で100〜200字ほど、400トークンは200〜400字ほどの目安になる。メールの数行や短い返信程度の長さでは、検出がまだ安定しにくいことが分かる。
OpenAIの説明では、誤検出を1%に抑える条件で、200トークンの文章は約80%、400トークンの文章は約95%の割合で透かしが見つかった。一方で、語の10%を同義語に置き換えると、400トークンでの検出率は約92%から約66%に落ちた。短い文章、数学の答え、翻訳された文章も検出しにくいと、OpenAI自身が認めている。
透かしが見つからなかったことは、人が書いた証拠にはならない。透かしが見つかったことも、誰が書いたか、どこまで人が手を入れたかを示すものではない。
この透かしは、利用者のアカウントやプロンプトを特定するものでもないと説明されている。また、文章をコピー&ペーストしても痕跡は一緒に運ばれるという。つまり、透かしは「AIが関わった可能性」を確率で示す道具であり、白黒を決める道具ではない。ここはClaudeの透かしの話とまったく同じ結論になる。
検出ツールを公開しない理由
もう一つ、見落とせない点がある。OpenAIは透かしを入れる一方で、検出ツールを一般には公開しない。当面は、承認された研究者や専門組織にだけ提供する方針だ。
検出の見逃しや誤検出が、現実の被害につながりうるため。学校や職場で「透かしがあるからAIだ」と決めつけられる事態を避けたい、という考え方だ。
あなたがChatGPTで書いた文章に、第三者が自分で透かしを調べる手段は、いまのところ広くは用意されていない。検出は各社が自社の方式でしか行えず、全社に共通の判定器は存在しないとも報じられている。
検出器が見えないまま痕跡だけが文章に残る形になる。EUの利用者が、この透かしを自分で止められるとは、現時点の報道では示されていない。
ChatGPT・Claude・Geminiの違い
文章の透かしをめぐる対応は、掲載している主要製品で次のように分かれた。
| 製品 | 文章への透かし | 適用範囲 |
|---|---|---|
| ChatGPT・Codex | 導入開始(textGrain) | EU域内の利用者が対象。APIは世界でオプトイン(初期設定オフ) |
| Claude | 導入済み(8月11日発表) | 世界一律。コンシューマーアプリ、API、Claude Codeなどが対象 |
| Gemini | 方式は公開済み | GoogleはSynthID-Textを2024年に論文とオープンソースで公開。Geminiでの現在の適用範囲は、今回の発表からは確認できない |
地域で線を引くOpenAIと、世界で一律にするAnthropic。同じEU規制を受けて、同じ「透かし」でも、利用者への当たり方がまったく違う。日本でClaudeを仕事に使っている人の文章には透かしが入りうる一方、日本でChatGPTを使っている人の文章には、少なくとも初期設定では入らないという非対称が生まれている。
あなたの仕事では何が変わるのか
読者の立場ごとに、実際に何を確かめるべきかを分けておく。
今回の導入はEU域内の利用者が対象で、日本からの通常利用は初期設定では対象外だ。ただし、EUの取引先に納品する文章や、EU拠点のメンバーが書いた文章は事情が変わる。
世界一律の方針なので、日本からの利用でも対象になる。外部に出す成果物や社外秘のコードに痕跡が残ることを避けたい仕事では、使い分けの材料になる。
OpenAIのAPIでは、透かしは開発者が自分でオンにする設計だ。顧客向けの出力にどちらが望ましいか、先に方針を決めておくと、後から変更せずに済む。
編集部の見立て
今回いちばん印象に残ったのは、同じEU規制に対して、OpenAIとAnthropicが正反対の答えを出したことです。世界一律にすれば運用は単純になり、地域で切れば、EU以外の利用者の使い心地は変わりません。どちらが正しいかというより、各社が「規制は地域の話」と見るか「製品の標準」と見るかの違いが出たのだと考えます。
読者にとって大切なのは、透かしそのものよりも、その使われ方だと思います。検出器が公開されない以上、透かしの有無で文章の出自を断言できる人は、当面ほとんどいません。それでも痕跡が残る事実は変わらないので、納品物や提出物では「AIを使ったことを隠す必要があるのか」という前提の見直しが、先に来るはずです。
そのうえで、この方針が日本にも広がるのかは、まだ判断できません。OpenAIは地域限定の導入としていますが、規制の対象地域が広がれば、設定が変わる可能性は残ります。日本でChatGPTを使っている方は、今後の発表で適用範囲が動かないかを時々確認しておくと安心です。
まとめ
2026年10月5日、OpenAIがChatGPTとCodexの文章に、電子透かし「textGrain」を入れると発表しました。対象はEU域内の利用者で、導入は今後数週間かけて進みます。APIは世界中の開発者が選べますが、初期設定はオフです。
誤検出1%の条件で、200トークンの文章は約80%、400トークンの文章は約95%の割合で透かしが見つかりました。ただし語の10%を同義語に替えると、検出率は約92%から約66%に落ちます。透かしの有無では、人が書いたかどうかも、誰が書いたかも証明できません。
検出ツールは当面、承認された研究者や専門組織にだけ提供されます。世界一律で透かしを入れるClaudeとは、適用範囲の考え方が対照的です。日本でChatGPTを使っている人は、当面は初期設定のままで問題ありませんが、EUに渡る文章や、API経由の出力は別に考える必要があります。
次の注目点は、OpenAIが透かしの適用地域を広げるのか、そして検出ツールがいつ誰に開かれるのかです。以前の記事で扱ったClaudeの透かしと合わせて、今後の発表を確認していきます。