プロンプト集を読んでも自分の仕事で再現できない理由
「使えるプロンプト100選」の類を読んで、そのとき感心して、翌日には1つも使っていない。心当たりのある人は多いはずだ。原因ははっきりしている。ああいう記事に並んでいるのはお手本の完成品だからだ。「優秀なマーケターとして、革新的な企画を5つ提案してください」と書いてあっても、自分の手元にある実際の材料をどこに置けばいいのかが分からない。
この記事は逆の作り方をしている。実務でよくある5つの場面について、そのままコピーして貼れる本文と、自分の状況に合わせて差し替える箇所、そして返ってきた答えが信用できるかどうかの確かめ方を一組にして並べた。プロンプトそのものより、後ろの2つのほうが実務では重要になる。
プロンプトの書き方は4つの枠で決まる
自己流で書き始める前に、枠を知っておくと早い。Googleは Gemini のカスタム機能「Gems」のヘルプで、良い指示を書くときに考えるべき点をPersona(役割)・Task(やること)・Context(前提)・Format(出し方)の4つとして挙げ、これは良いプロンプトを書くときと同じ観点だと説明している。4つ全部を使う必要はなく、いくつか使うだけでも助けになる、とも書かれている。
この4つのうち、日本語で依頼を書く人がいちばん落としやすいのがFormat(出し方)だ。「まとめてください」とだけ頼めば、AIは自分の好きな粒度でまとめる。「3つの箇条書きで、それぞれ40字以内」と書けば、その通りに返ってくる。以下の5本は、いずれもこのFormatを厚く書いてある。
1. 打ち合わせメモを「決まったこと」と「宿題」に割る
会議のあとに残るのは、たいてい断片的なメモだ。これを議事録の形に整えるのは、面倒なわりに頭を使わない作業で、AIに任せて損がない部類に入る。
あなたは会議の書記です。 以下のメモを読んで、次の3つに分けて出してください。 1. 決まったこと(誰が合意したかも書く) 2. 決まらなかったこと(何が足りなくて決まらなかったかも書く) 3. 宿題(担当者・期限・成果物の3点セット) 出し方の決まり: - 宿題は、担当者・期限・成果物が1つでも書かれていなければ「記載なし」と明記してください。 - メモに書かれていないことを推測で補わないでください。 - メモの言い回しをそのまま使い、要約しすぎないでください。 --- (ここに打ち合わせメモを貼る)
差し替える場所:1〜3の分類名だ。営業なら「合意事項/持ち帰り/次回アポ」、開発なら「決定/未決/担当タスク」のように、自分の会議で実際に使っている言葉に変えてください。分類名を自分の言葉にするだけで、出力の使い勝手が変わる。
確かめ方:出力に「記載なし」が1つも出てこなかったら疑ってください。実際の打ち合わせメモで、担当者と期限と成果物が全部そろっていることはまずない。全部埋まって返ってきたなら、AIがそれらしく補ったということだ。
2. 長い資料から必要な箇所だけを、原文のまま抜く
要約は便利だが、元の文を作り変える処理なので、微妙な条件や例外が落ちる。契約書や規程、仕様書のように言い回しそのものが重要な文書では、要約ではなく抜き出しを頼むほうが安全だ。
以下の資料から、私の質問に関係する箇所だけを抜き出してください。 質問: (ここに知りたいことを1つだけ書く) 出し方の決まり: - 抜き出した部分は資料の原文をそのまま引用し、要約や言い換えをしないでください。 - 引用ごとに、資料内の見出し名(または章番号・ページ番号)を添えてください。 - 質問に答える記述が資料に無い場合は、「該当箇所なし」とだけ書いてください。 - 資料に書かれていないことを、一般的な知識で補わないでください。 --- (ここに資料を貼る、またはファイルを添付する)
差し替える場所:質問だ。ここは1回につき1つにしてください。「解約条件と料金改定と再委託について教えて」とまとめて聞くと、どれか1つの答えが薄くなる。3つ知りたいなら3回に分けたほうが結果は良い。
確かめ方:返ってきた引用文を、元の資料内で検索してください。文字列がそのまま見つかれば本物だ。見つからない、あるいは少し言い回しが違うなら、それは引用ではなく生成された文である。この確認は10秒で終わる。抜き出し系の作業では、最も割の良い検算だ。
3. 数字の入った文章を検算させる
数字の間違いは、書いた本人には見えない。桁が1つずれていても、文章として自然に読めてしまうからだ。ここはAIに向いた仕事だが、頼み方を間違えると「問題ありません」と言われて終わる。
以下の文章に出てくる数字を検算してください。 やること: 1. 文章中の数値をすべて抜き出し、一覧にする 2. 足し算・引き算・割合・差額の計算があれば、その場で計算し直す 3. 計算が合わない箇所、単位がそろっていない箇所、桁が疑わしい箇所を指摘する 4. 文章だけでは検算できない数値には「要出典」と印を付ける 出し方の決まり: - 「正しい」「問題ない」という結論だけを書かないでください。 - あなたが実際に行った計算式を、1件ずつそのまま書いてください。 - 数値が同じでも、どの対象の数値かが入れ替わっている疑いがあれば指摘してください。 --- (ここに文章を貼る)
差し替える場所:4番の「要出典」の扱いだ。社外に出す文書なら「要出典」を残して自分で裏を取る。社内メモなら省いても構わない。
確かめ方:計算式が書かれているかどうかを見てください。「合計は正しいです」とだけ返ってきたなら、検算していない可能性が高い。式が書いてあれば、自分で1つか2つ抜き取って電卓に入れれば済む。
4. 断りのメールを3案つくる
断るメールは、書き出しで手が止まる。理由をどこまで書くか、代案を出すかどうかで文面が変わるからだ。いきなり1案に絞らず、方針の違う3案を出させて選ぶほうが速く終わる。
以下の依頼を断るメールの下書きを作ってください。 前提: - 相手との関係: (例: 取引先の担当者。今後も継続して取引がある) - 断る理由: (例: 8月末まで別案件で手が空かない) - 代わりに出せるもの: (例: 9月中旬以降なら対応可能。無ければ「なし」と書く) 出し方の決まり: - 本文200字程度で3案。1案目は丁寧、2案目は簡潔、3案目は代案を先に出す形。 - それぞれに件名を付けてください。 - 断る理由を、前提に書いた以上に詳しくしないでください。 - 謝罪の言葉は1通につき1回までにしてください。 --- (ここに元の依頼メールを貼る)
差し替える場所:前提の3行がこのプロンプトの本体だ。ここを埋めずに依頼メールだけ貼れば、AIは無難な定型文を返してくる。逆にこの3行さえ具体的なら、依頼メール本文を貼らなくても使える下書きが出る。
確かめ方:3案が本当に違う方針になっているかを見てください。3案とも似た文面なら、前提の書き方が抽象的すぎたということだ。とくに「代わりに出せるもの」を「なし」と書いたときは3案目が成立しないはずで、そこが正直に書かれているかどうかで指示の通り具合が分かる。
5. 表の整形は「結果」ではなく「数式」を頼む
表やCSVの整形をAIに頼むとき、整形済みのデータを返してもらうのが自然に思える。しかしこの形は、どこが変わったのかを目で追えないため、間違いに気づけない。ExcelをAIに任せる記事でも触れたとおり、処理した結果ではなく処理する数式を作らせると、元データが残ったまま見比べられる。
以下のデータを整形したいです。処理した結果ではなく、処理するための数式(または操作の順番)を出してください。 やりたいこと: (例: 日付表記を YYYY-MM-DD にそろえ、氏名を姓と名の別の列に分ける) 使っているソフト: (例: Excel / Googleスプレッドシート) 出し方の決まり: - 元の列は書き換えず、新しい列に結果が出る形にしてください。 - 数式は1つずつ、何をしている式かの説明を1行添えてください。 - この数式が失敗する入力パターンを、先に3つ挙げてください。 --- (ここにデータの先頭10行を貼る)
差し替える場所:「使っているソフト」だ。ExcelとGoogleスプレッドシートでは使える関数が違うので、ここを書かないと動かない数式が返ってくる。
確かめ方:先に挙げさせた「失敗する入力パターン」を、自分のデータで検索してください。挙がったパターンが実際に含まれていれば、その行だけ手で直せば済む。この一手間があるかどうかで、整形作業の信頼度はまるで変わる。
ChatGPTとClaudeとGeminiの使い分け
5本のプロンプトは3つのどれでも動く。そのうえで、向き不向きはある。
| 場面 | 選びやすいもの | 理由 |
|---|---|---|
| 長い資料からの抜き出し(2本目) | Claude | 長い文章を渡したときに、原文の言い回しを保った引用を返しやすい |
| 表・CSVの整形(5本目) | Gemini | Googleスプレッドシートと同じ画面の中で続きの作業ができる |
| メールの下書き(4本目) | ChatGPT | 案を複数出させたときの書き分けが安定している |
| 議事録・検算(1・3本目) | どれでも | 指示の書き方の影響が大きく、道具による差が出にくい |
この表は傾向であって、順位ではない。3つの違いをもう少し広く知りたいなら3大チャットAIの比較記事のほうが詳しい。実際のところ、同じプロンプトを2つに投げて読み比べるのが、いちばん手っ取り早い判断材料になる。
気に入ったプロンプトを毎回貼らずに済ませる
使うたびに貼り直すのは続かない。3つのサービスにはいずれも、指示を保存して繰り返し使う仕組みがある。
やり方はどれも同じだ。この記事のプロンプトのうち自分がよく使うものを、材料を貼る直前までの部分だけ指示欄に入れておく。あとは会議のメモや資料を貼るだけで動く。5本すべてを保存する必要はない。1週間に2回以上使うものだけを残していくと、手元に自分用の道具が残る。
編集部の見立て
5本を並べてみて、共通しているのは「無いものを無いと書かせる指定」が必ず入っている点です。「記載なし」「該当箇所なし」「要出典」「なし」──言葉は違いますが、どれも同じことを頼んでいます。AIが最も自然に間違えるのは、知らないことを知らないと言わずに、それらしく埋めてしまう場面だからです。
この指定にはもう一つの働きがあります。出力を見た瞬間に、指示が通ったかどうかが分かることです。「記載なし」がどこにも出てこない議事録は、それだけで疑わしいと判断できます。内容を全部読み返さなくても、1か所を見れば信用度が測れる。これは実務ではかなり大きな差になります。
逆に言えば、プロンプトを工夫する目的は「賢い答えを引き出すこと」ではなく、「答えが間違っていたときに気づける形にすること」だと考えています。上手な頼み方を覚えるより、確かめ方をプロンプトの中に組み込むほうが、長い目で見て時間が節約できます。
最後に一つだけ。この記事の5本は完成品として置いたものではありません。使ってみて返ってきた答えが物足りなかったら、その不満をそのまま「出し方の決まり」に1行足してください。プロンプトは書くものではなく、育てるものです。
まとめ
プロンプトを組み立てるときの観点は、Googleが Gems のヘルプで挙げているPersona(役割)・Task(やること)・Context(前提)・Format(出し方)の4つです。日本語の依頼文で落ちやすいのは4番目のFormatで、ここを厚く書くだけで返ってくる形が安定します。
この記事の5本には、いずれも「材料に無いことは無いと書く」指定を入れてあります。議事録なら「記載なし」、抜き出しなら「該当箇所なし」、検算なら「要出典」。ここが空欄のまま返ってきたときは、AIが埋めた疑いがあります。
検算を頼むときは、結論ではなく計算式を書かせてください。抜き出しを頼んだときは、返ってきた引用文を元の資料内で検索してください。どちらも10秒で終わり、間違いの大半はここで止まります。
まず1本だけ試すなら、次の打ち合わせのメモで1本目を使ってみてください。返ってきた議事録に「記載なし」がいくつ並ぶか──その数が、いま自分の会議で決めきれていないことの数です。
参考にした一次情報
- Tips for creating custom Gems(Gemini Apps ヘルプ)
- Projects in ChatGPT(OpenAI ヘルプセンター)
- What are Projects?(Anthropic ヘルプセンター)
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