Sakana AIが2026年9月11日、新型のAIシステム「Fugu Max」と「Fugu Ultra v2」を投入した。東京を拠点にするこの企業が選んだのは、単体の巨大モデルを一から鍛える王道ではない。複数の既存モデルに役割を割り振り、束ねて1つの答えに仕立てる「オーケストレーション」という組み方だ。

その本気度を示す数字がある。図表など視覚的な情報を読み解く力を測る「Chartography」というベンチマークで、Fugu Ultra v2は48.3点を取った。Claude Opus 5は27.3点、Claude Fable 5は29.5点。しかもFugu Ultra v2は、Fable 5・Fable 5.1・GPT-6 Astraのいずれも自分の部品として使っていないという。フロンティアモデルを1つも積まずに、フロンティアモデルより高いスコアを出した恰好だ。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はSakana AI公式ブログの発表(2026年9月11日)です。本記事公開時点で48時間を超えて経過しているため、速報ではなく解説・意味づけの構えで書いています。ベンチマークスコアと価格の数字はSakana AI自身が計測・公表した値で、第三者による再現検証は本記事公開時点で確認できていません。他社の価格は2026年9月時点の各社公式・公開情報です。

Fugu Ultra v2とは何か──「単体の最強モデル」を使わない仕組み

Fugu Ultra v2は、単一のモデルではない。Sakana AIの説明によれば、これは1つの窓口の裏側で複数の既存モデルに役割を割り振り、それぞれの回答を検証・統合してから1つの答えとして返す「オーケストレーション」システムだ。呼び出す側から見れば、OpenAIと互換の1本のAPIに投げるだけで済み、中で何が起きているかを意識する必要はない。

プールに含まれるのは、NVIDIAのNemotron系列を含む複数のオープンウェイトモデルと専門特化モデルだという。そしてFugu Ultra v2の学習カットオフは2026年8月28日で、Claude Fable 5・Claude Fable 5.1・GPT-6 Astraのいずれも、このプールには入っていないとSakana AIは明記している。つまり、比較対象そのものを部品として借りずに、比較対象を上回る数字を出したという主張になる。

Fugu Ultra v2、Claude Opus 5、Claude Fable 5の3モデルについて、視覚推論・データ解釈を測るChartographyベンチマークのスコアを、点数に比例した横棒グラフで比較した図。Fugu Ultra v2が48.3点、Claude Fable 5が29.5点、Claude Opus 5が27.3点であることを示している。
48.3 Fugu Ultra v2のChartographyスコア
29.5 Claude Fable 5のスコア
27.3 Claude Opus 5のスコア

Chartographyは、グラフや図表など視覚的な情報を読み解いて答える力を測るベンチマークだ。Sakana AIによれば、Fugu Ultra v2は他にも8つの主要ベンチマークのうち5つで最高または同率最高のスコアを記録し、7つで上位2位以内に入ったという。ソフトウェア開発の作業を測る「DeepSWE」では74.3点だった。

一言でまとめると──Sakana AIは「賢いモデルを1つ作る」のではなく「賢いモデルたちを1つの窓口に束ねる」ことで、少なくとも一部のベンチマークでフロンティアモデルに並ぶ数字を出しています。

なぜモデルを1つも使わずに上回れるのか

不思議に見えるが、種明かしは単純だ。オーケストレーション型のシステムは、1回の質問に対して複数のモデルを動かし、下書きを作らせ、別のモデルに検証させ、食い違いがあれば選び直す、という工程を経てから答えを返す。1つのモデルが一発で出す答えより、複数の視点を経由した答えのほうが、少なくとも一部の作業では精度が上がる。Fugu Ultra v2が採用しているのは、この「複数モデルの合議」を学習済みのオーケストレーター自身に任せる設計だ。

「Fugu Ultra v2は、そのエージェントプールにFable 5・Fable 5.1・GPT-6 Astraのいずれも含めずに、これらのスコアを達成している」

— Sakana AI公式ブログより(2026年9月11日)

裏を返せば、これは単体モデルの純粋な賢さの勝負ではない。1つの回答を作るのに複数モデルを呼ぶ以上、応答には相応の遅延が乗り、費用の内訳も単体モデルより複雑になる。Sakana AIが「フロンティアモデルを1つも積んでいない」ことを強調するのは、裏を返せば「フロンティアモデルを積めば、もっと上のスコアも狙えるはずだ」という含みでもある。今回はあえてそれをしなかった、という発表になっている。

01
合議のぶん、精度が上がる

下書き・検証・統合という工程を経るため、1回で答えを出す単体モデルより誤りに気づきやすい。

02
合議のぶん、応答は遅くなりうる

複数モデルを順に、あるいは並行して呼ぶため、単体モデルの一発回答より時間がかかる場面がある。

03
重みは公開されない

Fugu MaxもFugu Ultra v2もSakana AIがホストするAPI経由でのみ使え、自前のサーバーに持ち込んで動かすことはできない。

Fugu Maxの料金は──Sonnet 5・Terra・Kimi K3との比較

今回同時に発表された「Fugu Max」は、Fugu Ultra v2とは別物だ。精度より費用を優先した廉価版で、100万トークンあたり入力2.00ドル・出力6.00ドルという価格が付いている。Sakana AIは、この出力価格がClaude Sonnet 5・GPT-5.6 Terra・Kimi K3のいずれよりも4割から6割安いと説明している。

モデル(100万トークンあたり) 入力 出力 Fugu Maxとの出力差
Fugu Max 2.00ドル 6.00ドル 基準
Claude Sonnet 5 2.00ドル 10.00ドル Fugu Maxが40%安い
GPT-5.6 Terra 2.00ドル 12.00ドル Fugu Maxが50%安い
Kimi K3 3.00ドル 15.00ドル Fugu Maxが60%安い
Kimi K3、GPT-5.6 Terra、Claude Sonnet 5、Fugu Maxの4モデルについて、100万トークンあたりの出力価格を、金額に比例した横棒グラフで比較した図。Kimi K3が15.00ドル、GPT-5.6 Terraが12.00ドル、Claude Sonnet 5が10.00ドル、Fugu Maxが6.00ドルであることを示している。

入力価格はSonnet 5・Terraと同額の2.00ドルで並び、Kimi K3の3.00ドルより安い。出力側だけを見れば、Sakana AIの「4割〜6割安い」という説明は3社とも数字のうえで成立している。

Fugu Ultra v2は「安くて強い」と言えるのか

ここまでの安さの話は、廉価版のFugu Maxに限った話である。高性能版のFugu Ultra v2は、事情が違う。

モデル(100万トークンあたり) 入力 出力
Fugu Ultra v2 5.00ドル 30.00ドル
Claude Opus 5 5.00ドル 25.00ドル

入力価格はどちらも5.00ドルで並ぶが、出力価格はFugu Ultra v2のほうが30.00ドルとOpus 5より2割高い。Chartographyのスコアで上回ったのは事実だが、「上回ったうえに安い」わけではない。Opus 5より高い出力価格を払って、Chartographyというベンチマーク1本では高いスコアを得られる、というのが実態に近い。

ⓘ ベンチマーク1本で語れないこと
Sakana AIが公表したのは8つのベンチマークのうち5つで最高または同率最高、という数字です。裏を返せば、残り3つではFugu Ultra v2が首位ではありません。どの作業に使うかによって、有利不利は入れ替わります。

向いている使い道、向かない使い道

Fugu Max・Fugu Ultra v2はいずれも、OpenAIと互換のAPI経由でのみ提供される。無料で試せるチャット画面は用意されておらず、自分でコードを書いてAPIを呼ぶ使い方が前提になる。日常のチャット相手としてChatGPTやClaudeを使っている一般利用者が、今日から乗り換える対象ではない。

A
向いている: 図表・データを読む処理を大量に回す開発者

Chartographyで高いスコアが出ているとおり、視覚的な情報の解釈を伴う処理を組み込むなら、価格と精度のバランスを比べる価値がある。

B
向かない: EU/EEA域内での利用

Sakana AIはFugu Max・Fugu Ultra v2をEU/EEA域内では提供していないと説明している。域内からの利用は現時点で選択肢に入らない。

C
向かない: 自前サーバーで動かしたい用途

重みは公開されておらず、Sakana AIのホスト環境を経由する以外に使う方法がない。オープンウェイトモデルを自社インフラに置きたい場合は選択肢から外れる。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の発表でいちばん気になったのは、48.3点という数字そのものより、Sakana AIがわざわざ「Fable 5・Fable 5.1・GPT-6 Astraは使っていない」と明記した点です。これは謙遜ではなく、値打ちの主張だと考えます。フロンティアモデルを部品として借りずにフロンティア級のスコアを出せるなら、大手が莫大な計算資源でモデルを鍛える競争とは別の土俵で戦えることになります。

ただし、今回の比較が視覚推論を測るChartographyという1本のベンチマークを起点にしている点は、割り引いて読むべきだと考えます。8本中5本で最高または同率最高という数字は立派ですが、残り3本での順位は公表資料からは分かりません。特定の作業に強いのか、幅広い作業に強いのかは、この発表だけでは判断がつきません。

料金面でも、安いのはあくまで廉価版のFugu Maxで、高性能版のFugu Ultra v2はOpus 5より出力価格が2割高いという点は見落とされやすいところです。「安くて賢い」という単純な物語に落とし込みたくなりますが、実際に読者が向き合うことになるのは、価格とスコアをそれぞれ用途に照らして比べるという、単純ではない作業です。

そのうえで、複数の既存モデルを束ねるという設計そのものには、意味があると考えています。1社が単独で巨大な計算資源を投じてモデルを鍛える競争とは別に、既にあるモデルの組み合わせ方を工夫して勝負する道筋が、少なくとも1つのベンチマークでは実際に機能して見せたからです。

まとめ

Sakana AIが2026年9月11日、新型の「Fugu Max」と「Fugu Ultra v2」を発表しました。単体のモデルを鍛えるのではなく、複数の既存モデルを束ねて答えを出す「オーケストレーション」という設計です。

Fugu Ultra v2は、視覚推論を測るChartographyベンチマークで48.3点を記録し、Claude Opus 5の27.3点、Claude Fable 5の29.5点を上回りました。この達成に、Fable 5・Fable 5.1・GPT-6 Astraはいずれも使われていません。

料金は、廉価版のFugu Maxが100万トークンあたり入力2.00ドル・出力6.00ドルで、Claude Sonnet 5より4割、GPT-5.6 Terraより5割、Kimi K3より6割安くなっています。一方の高性能版Fugu Ultra v2は入力5.00ドル・出力30.00ドルで、Claude Opus 5と入力は同額、出力は2割高い水準です。

どちらもAPI経由でのみ提供され、重みは公開されていません。EU/EEA域内では利用できません。

Fugu Ultra v2の学習カットオフは2026年8月28日で、9月1日に投入されたFable 5.1や、その後急速に採用が広がっているGPT-6 Astraは、そもそも比較の対象にも部品にも入っていない。次にSakana AIがこの2つを勘定に入れた版を出すかどうかが、この方式がどこまで通用するかを測る次の材料になる。