Google が2026年9月23日、新しい音声合成モデル「Gemini 3.8 Flash TTS」と、その軽量版「Gemini 3.8 Flash-Lite TTS」を公開した。プロンプトで声そのものを作れる「ボイスデザイン」機能を備え、あらかじめ用意された2,000種類超の音声と100を超える言語・方言に対応する。

同時に、第三者機関Hume AIが独自に測定したベンチマーク結果も出てきた。声の「作り方」の巧さでは首位に立つ一方、既存の声を写す「声の複製」では13機種中11位という、対照的な順位が付いている。何が強く、何が弱いのかを整理する。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はGoogle公式ブログの発表(2026年9月23日)で、本記事公開時点で約4〜5日が経過しています。ベンチマーク結果は測定元のHume AI公式ブログ(2026年9月24日)によるものです。速報ではなく、発表内容の意味づけとして整理します。価格は執筆時点でGoogle公式の価格ページに掲載されている数値です。

Gemini 3.8 Flash TTSとは──声を言葉で作れる新しいTTS

TTSとはText-to-Speech、文字を音声に変換する技術のことだ。これまでのTTSは「既にある声」を選ぶか、既存の声を学習させて再現するかのどちらかが主流だった。Gemini 3.8 Flash TTSが加えたのは3つ目の道で、「40代の落ち着いた英国男性の声」のような自然言語のプロンプトから、声そのものを新しく作るという機能だ。

ゲームや長編オーディオブック、ポッドキャストや対話型メディアのために、自然言語のプロンプトから存在しない声をまったく新しく作り出せる。

— Google公式ブログより(2026年9月23日)

もう一つの軸である声の複製(クローン)にも対応する。30秒の音声サンプルと、声の持ち主による口頭同意があれば、その人の声を再現できるという。台本は行ごとに演技指導ができ、間の取り方や感情の起伏、方言への切り替え、相槌や笑い声といった非言語的な仕草まで、文章として指示できる。長尺の生成でも品質が落ちにくく、2人の会話を1本の音声としてそのまま作れる「対話シーン」機能も備えている。

2,000超 あらかじめ用意された音声の数
100超 対応する言語・方言の数
30秒 声の複製に必要な音声サンプルの長さ

2つのモデルは用途で分かれている。Flash TTSはゲームやオーディオブックなど、演技の作り込みが要る創作向け。Flash-Lite TTSは吹き替えや音声エージェントなど、コストを抑えて量をこなす用途向けだ。提供先もFlash TTSはGoogle AI Studio・Gemini API・Gemini Notebookで先行公開され、Flash-Lite TTSはGoogle AI Studio・Gemini API・Google Vidsで先行公開されている。どちらもGemini Enterpriseへの提供は近日予定とされ、まだ届いていない。

独立測定で見えた得意と不得意

声の評価は自己申告になりやすい領域だが、今回は第三者機関Hume AIが独自に測定した結果が出ている。100万件超の人間評価に基づく「Real-World VoiceEQ」という枠組みの中で、声を意図通りに設計できるかを測る「Voice Design」の区分でGemini Flash TTSが総合1位となった。アクセントと性別の再現でとくに高く、質感や抑揚でも良好な結果が出ているという。

ただし総合1位は、すべての項目で1位という意味ではない。Hume AIの公式ブログは、個別項目では他社が上回る場面があることも明記している。

指標(Voice Design区分) Gemini Flash TTS その項目の1位
若年成人の声の再現度 34.0% ElevenLabs v3 68.1%
音量指示の達成率 56.9% Inworld Voice Design 88.9%
声の複製(既存の声の再現) 13機種中11位 1位はGemini以外の機種
Hume AIベンチマークのVoice Design区分における2つの指標を、Gemini Flash TTSとその指標で1位のモデルとで比較した横棒グラフ。若年成人の声の再現度はGemini Flash TTSが34.0%、ElevenLabs v3が68.1%。音量指示の達成率はGemini Flash TTSが56.9%、Inworld Voice Designが88.9%。いずれもGemini Flash TTSのバーが短い。

もっとも弱いのが声の複製そのものだ。既存の声をどれだけ忠実に再現できるかを測る「声の複製」の項目では、軽量版のFlash-Lite TTSが13機種中7位(5点満点で3.68点、ほぼ平均並み)、Flash TTSは11位(3.53点)にとどまる。声を自由に作り出す力と、既にある声を寸分違わず写す力は、性質の異なる能力だということが、この順位差から読み取れる。

01
得意なのは「まだ無い声」を作ること

プロンプトから声を設計する作業では、アクセントや性別といった大枠の再現に強みがある。キャラクターの声を新規に立てる用途に向く。

02
苦手なのは「特定の誰か」に寄せること

若年成人の声の再現度や、既存の声を写す複製の精度では他社に見劣りする。特定の人物の声そのものを求める用途には向きにくい。

03
細かい指示への追従にも課題が残る

音量の指示に対する達成率も他社より低い。台本の大きな演出はできても、数値で細かく指定する制御はまだ発展途上といえる。

Gemini 3.8 Flash TTSの料金──今は導入価格、2027年に2倍

料金はGoogle公式のGemini API価格ページに掲載されている。2026年12月31日までは導入価格で、100万トークンあたりFlash TTSがテキスト入力0.50ドル・音声出力9.00ドル、Flash-Lite TTSが同じくテキスト入力0.50ドル・音声出力6.00ドルとなっている。2027年1月1日からは、この4つの価格がすべてちょうど2倍になる。テキスト入力は1.00ドルへ、音声出力はFlash TTSが18.00ドル、Flash-Lite TTSが12.00ドルへ切り上がる。バッチ処理は各時点の半額が目安だ。

Gemini 3.8 Flash TTSとFlash-Lite TTSの、100万トークンあたりの音声出力価格を2026年内と2027年以降で比較した横棒グラフ。Flash TTSは9.00ドルから18.00ドルへ、Flash-Lite TTSは6.00ドルから12.00ドルへ、いずれも金額に比例したバーの長さでちょうど2倍に伸びていることを示している。
ⓘ 他社と比べるときは課金の単位に注意
音声合成の最大手ElevenLabsは、文字数課金(1,000文字あたり0.05〜0.10ドル)を採用しています。Geminiはトークン単位の課金で、テキストの入力量と音声の出力量を別々に数えます。課金の単位そのものが違うため、見出しの数字だけを並べて「どちらが安いか」を断定することはできません。自分がよく作る音声の長さと文字数で、実際に見積もってから比べるのが確実です。

どちらの仕事に向くか──声を作る仕事か、声を写す仕事か

ここまでの数字を踏まえると、選び方の分かれ道は一つだ。これから作るキャラクターや案内役の声を、ゼロから設計したいのか、それとも特定の人物の声そのものを、既存の音声から高い精度で再現したいのか。

前者であれば、Gemini 3.8 Flash TTSは選択肢に入る。2,000超の既存音声と100を超える言語、プロンプトでの声の設計、そして対話シーンや長尺への対応は、ナレーターやキャラクターボイスをまとめて作る制作フローに合っている。台本の行ごとに感情や間を書き込めるので、演出の細部を文章で残せる利点もある。

後者であれば、他の選択肢を並べて検討したほうがよい。声の複製というジャンルそのものでGemini Flash TTSは13機種中11位に位置しており、Hume AIの測定では若年成人の声の再現度や音量指示の達成率でも他社に差をつけられている。特定の話者の声を寸分違わず再現する用途では、今回のベンチマークで上位に立った他社モデルのほうが、現時点では精度に近い。

GitHub CopilotやCursorのような開発支援ツールを選ぶときと同じで、「何でもできる1本」を探すより、自分の作業のどの部分に音声AIを使うのかを先に切り出しておくと、選び間違いが減る。Gemini Audioファミリーでは、会話に応答する用途向けに音声対話モデル「Gemini 3.8 Live」も9月中旬に投入されており、今回のFlash TTSとは役割が異なる。両者を混同せず、コンテンツを作る道具と、会話に応答する道具として別に選ぶのが実務的だ。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の発表でもっとも興味深いのは、Googleが自ら「弱点」を隠さなかった点ではなく、第三者の測定によって強みと弱みがはっきり切り分けられたことだと考えます。総合1位という見出しだけを読むと全方位で優れているように見えますが、実際の順位表を開くと、得意な仕事と不得意な仕事がきれいに分かれています。この分かれ方自体が、読者にとっての実用的な情報だと思います。

声を新しく作る力と、既存の声を写す力が別の能力だという整理は、音声AIに限った話ではありません。文章生成でも画像生成でも、「何かを新しく作る」精度と「特定の対象を忠実に再現する」精度は、しばしば別々に発達します。1つのベンチマークの見出し順位だけで製品を選ぶと、自分が本当に必要としている能力を見誤ることになりかねません。

価格の設計にも、同じような読み方ができます。2026年内は導入価格、2027年からはすべてちょうど2倍という切り方は、いま試して気に入った利用者を先に確保し、規模が固まってから正規の値付けに移す、よく見る型です。数字自体は明確ですが、2027年になって改めて他社の価格と見比べる作業は、いま契約する側に残っています。

コンテンツ制作用の音声AIは、ここ数か月で似た機能が急速に増えている分野です。声を作る、声を写す、声で会話する──この3つを1つの製品名で語らず、分けて評価する視点を持つことが、しばらくは選ぶ側に求められると見ています。

まとめ

2026年9月23日、Googleが新しい音声合成モデル「Gemini 3.8 Flash TTS」と軽量版「Gemini 3.8 Flash-Lite TTS」を公開しました。自然言語のプロンプトから声を新しく設計できる機能を備え、2,000種類超の既存音声、100を超える言語・方言に対応します。

第三者機関Hume AIの測定では、声の設計力を測る「Voice Design」区分で総合1位を獲得した一方、若年成人の声の再現度(34.0%、他社1位は68.1%)、音量指示の達成率(56.9%、他社1位は88.9%)、そして声の複製そのもの(13機種中11位)では他社に見劣りする結果が出ています。

料金は2026年12月31日までが導入価格で、2027年1月1日からは入力・出力ともにちょうど2倍に上がります。ElevenLabsなど競合は文字数課金のため、単純な金額比較はできません。

声を新しく作る仕事に向くのか、既存の声を写す仕事に向くのか──この記事で見た順位の分かれ方は、そのまま選び方の分かれ道になっている。