Grok を開発するxAIが2026年9月18日、音声文字起こしAPIの新版「Grok Voice Transcribe 2.0」を公開した。料金はバッチ処理が音声1時間あたり0.10ドル、ストリーミングが0.20ドルで、旧版v1.0からまったく変わっていない。それでいて誤り率はおよそ半分になったという。
値段を据え置いたまま中身だけを上げる値付けは、このジャンルでは今回が初めてではない。文字起こしAPIはこの1か月だけでもMicrosoftとGoogleが新版を投入しており、今回の発表で主要4社の料金水準がひとつの数字に近づいてきた。
Grok Voice Transcribe 2.0とは何か──2026年9月18日、何が変わったのか
Grok Voice Transcribeは、音声を文字に起こすxAIのAPIだ。会議の録音や電話の通話、アプリの音声入力といった用途で、話者の識別(ダイアライゼーション)・タイムスタンプ・専門用語の認識までを1つのAPIで済ませられる。2026年9月18日に公開された2.0は、この基本設計を変えずに中身のモデルだけを入れ替えたバージョンにあたる。
料金はバッチ処理が音声1時間あたり0.10ドル、ストリーミングが0.20ドルで、旧版v1.0とまったく同じだ。ダイアライゼーション・タイムスタンプ・特定用語の認識(キーターム)は追加料金なしで含まれる。対応言語は数十言語で、録音の途中で言語が切り替わっても自動で検出するという。取材時点でのデフォルトはまだv1.0のままだが、xAIは近く2.0へ切り替え、v1.0は数週間以内に廃止すると案内している。
精度はどれだけ上がったか──4項目の誤り率で見る
xAIが示したのは「2倍正確になった」という一言だけではなく、4種類の音声データでの誤り率(WER・Word Error Rate)だ。WERは、書き起こした文字が原音とどれだけ違っていたかを示す割合で、数値が小さいほど正確ということになる。
| データの種類 | v1.0のWER | v2.0のWER |
|---|---|---|
| 電話サポートの通話音声 | 10.6% | 7.1% |
| Grokとの音声会話 | 8.7% | 3.3% |
| 電話番号・住所など個人情報の聞き取り | 7.2% | 3.0% |
| 19言語の短いフレーズ | 20.6% | 6.8% |
下げ幅がいちばん大きいのは、19言語をまたぐ短いフレーズだ。20.6%から6.8%への改善は、誤り率がおよそ3分の1になった計算になる。逆に下げ幅が小さいのは電話サポートの通話音声で、10.6%から7.1%。回線のノイズが乗る条件では、伸びしろがそれだけ限られるということでもある。
文字起こしAPIの料金比較──1時間10セントに集まる相場
今回の発表で目を引くのは、精度の改善そのものより価格が動かなかったことだ。この1か月だけを見ても、文字起こしAPIの値付けは大きく動いている。9月3日にはChatGPTと同じくAIチャットを手がけるMicrosoftがMAI-Transcribe-2を1時間0.10ドルで投入し、旧世代の0.36ドルから72%値下げした(MAI-Transcribe-2、音声1時間を10セントで文字に)。8月26日にはGeminiを手がけるGoogleがGemini 3.5 Transcribeを発表している(Gemini 3.5 Transcribe登場)。
| 提供元・モデル | バッチ料金(音声1時間あたり) | 備考 |
|---|---|---|
| xAI Grok Voice Transcribe 2.0 | $0.10 | 標準価格。期限の定めなし |
| Microsoft MAI-Transcribe-2 | $0.10 | 2026年12月31日までの導入価格 |
| OpenAI GPT-Transcribe | $0.27相当 | 1分0.0045ドルを時間換算(編集部算出) |
| Google Gemini 3.5 Transcribe | $0.30相当 | 1分約0.005ドルを時間換算(編集部算出・目安) |
GrokとMicrosoftの2社が、同じ1時間0.10ドルという水準に並んだ。ただし中身は同格ではない。Grokの0.10ドルは期限の定めがない標準価格である一方、Microsoftの0.10ドルは2026年12月31日までの導入価格で、その先の価格は公表されていない。並んでいるように見える数字の性格が違うという点は、比較検討する側が見落としやすい。
「32モデル中1位」をどう読むか──自己申告のベンチマークの扱い方
xAIは今回の発表で、Artificial Analysisという第三者の計測サイトが公開しているストリーミング部門のリーダーボードで、32モデル中1位になったと説明している。Artificial Analysisは複数のAIベンダーの音声認識性能を横並びで計測・公開しているサイトで、業界で参照されることが多い。
ただし、この「1位」はxAI自身が引用した数字であり、編集部が同リーダーボードの実測値を直接突き合わせて再現できたわけではない。企業が自社に有利な指標を選んで引用すること自体は珍しくなく、この数字は現時点ではxAIの発表がすべてという段階にある。※観測として扱うのが妥当だろう。
誰にとって意味があるか──選ぶ側は何を見ればいいのか
Grok Voice Transcribeは開発者向けAPIであり、ChatGPTやClaudeのように直接会話する製品ではない。コールセンターの通話録音を要約するツール、会議の議事録を自動生成するアプリ、音声入力をテキストに変換してから別のAIに渡すパイプラインなど、他のサービスの裏側で使われる部品という位置づけになる。
文字起こしAPIを直接呼んでいるなら、今回の更新で追加費用なしに精度が上がる。乗り換えなくても恩恵を受けられる。
料金の水準は4社ともほぼ横並びになった。差がつくのは自分が使う言語・回線条件での実際の精度であり、料金表の数字だけでは決められない。
利用者向けアプリの精度が今日から変わるとは限らない。アプリの提供元がAPIを切り替えるまでは反映されない。
編集部の見立て
今回いちばん興味深いのは、精度の伸びではなく価格を動かさなかった判断だと考えます。性能が上がれば値段も上げるのが自然な発想ですが、xAIはそちらを選びませんでした。ダイアライゼーションやタイムスタンプまで追加費用なしに含めている点も合わせると、文字起こし機能そのもので稼ぐより、自社の音声関連製品や他社のパイプラインに組み込まれる「部品」として使われることを優先しているように見えます。
MicrosoftのMAI-Transcribe-2と同じ1時間0.10ドルに並んだことも、偶然の一致とは考えにくいと見ています。文字起こしという機能単体では、もう大きな価格差をつけにくい段階に入ったということでしょう。競争の軸は、単価から精度・対応言語・レイテンシへ移りつつあります。
読者にとっての意味は、料金表を比べるだけでは選べない段階に入ったという点です。バッチとストリーミングで料金体系が違い、導入価格と標準価格が同じ数字で並ぶこともあります。使う音声の種類──電話なのか、会議なのか、どの言語なのか──を先に決めてから、その条件に近いベンチマークか、自分のサンプル音声で確かめる手順のほうが、結局は近道になると考えます。
まとめ
xAIは2026年9月18日、音声文字起こしAPI「Grok Voice Transcribe 2.0」を公開しました。料金はバッチ処理が1時間0.10ドル、ストリーミングが1時間0.20ドルで、v1.0から据え置かれています。
誤り率(WER)は4種類のデータすべてで改善し、19言語の短いフレーズでは20.6%から6.8%へ下がりました。xAIはArtificial Analysisの公開リーダーボードでストリーミング32モデル中1位になったとしていますが、これはxAI自身が引用した数字で、編集部として独自の再現検証はできていません。
料金面では、9月3日に公開されたMicrosoftのMAI-Transcribe-2も1時間0.10ドルで並んでおり、OpenAIのGPT-Transcribe(0.27ドル相当)、GoogleのGemini 3.5 Transcribe(0.30ドル相当)より安い水準です。ただしMicrosoftの0.10ドルは2026年12月31日までの導入価格である点には注意が必要です。
取材時点のデフォルトはまだv1.0のままで、xAIは数週間以内に2.0へ切り替えると案内しています。
次に価格表が動くとすれば、Microsoftの導入価格が切れる2026年12月31日が最初の節目になる。