SpaceXAI(旧xAI)が2026年8月12日、Grokの新モデル「Grok 4.6」を投入した。イーロン・マスク氏自身がXで「Grok 4.6 is now out」と投稿し、モデルは発表と同時に開発ツールCursorや自社製コーディングエージェント「Grok Build」、APIで使えるようになっている。
値札にも注目したい。Grok 4.6の価格は、7月8日に投入された前モデル「Grok 4.5」とまったく同じ、入力100万トークンあたり2ドル・出力6ドルのまま据え置かれた。値段はそのままに、ベンチマークだけを押し上げてきた格好だ。
AI口コミLabは7月29日、マスク氏が「4.6は2週間後」とXで予告した時点の記事で、当時はベンチマークも価格もいっさい示されていなかったことを伝えている。あの"予告"の中身が、8月12日にようやく姿を見せた。
8月12日、Grok 4.6は何を引っさげて登場したか
Grok 4.6は、7月8日に投入された「Grok 4.5」と同じ1.5兆パラメータの基盤(xAIは社内で「V9」と呼ぶ)をそのまま使い、教師ありファインチューニング(正解つきの例題を使った追加学習)と強化学習(試行錯誤の結果に応じて出力を調整する学習手法)を大幅に積み増したモデルだ。パラメータ数を増やす方向ではなく、同じ土台をより長く鍛え直す方向で性能を伸ばしている。
コンテキスト長(AIが一度に読み書きできる文章量の上限)も50万トークンのまま変わっていない。xAIが強調するのは規模の拡大ではなく、長く粘って手順を進める作業――コードベース全体を読み込んでの修正や、複数手順にまたがる調査――での実力だという。
なお入力20万トークンを超える長い文脈を一度に送ると、価格は入力4ドル・出力12ドルに切り替わる。日常的な使い方であれば、多くの場合は据え置きの2ドル・6ドルの範囲に収まる。
GPT-5.6 Solと同着、Fable 5に1点差というベンチマーク
性能面でまず参照されたのが、複数モデルを横断計測しているArtificial Analysis社の「Intelligence Index」だ。Grok 4.6はここで61点を記録し、OpenAIの最上位モデル「GPT-5.6 Sol」と同着になった。首位のClaude Fable 5(62点)とは、わずか1点差にまで詰め寄っている。
実務寄りの評価でも同様の傾向が出ている。書類・表計算・スライド作成など実際の職種の作業を再現して採点する「GDPval-AA v2」ベンチマークでは、Grok 4.6はClaude Opus 5に次ぐ2位につけた。米メディアVentureBeatは、この結果を「Kimi K3の性能を上回り、Artificial Analysisの総合指数で世界3位相当」と報じている。
価格は据え置き──他社と並べると数分の一
ベンチマークでほぼ横並びになった3モデルだが、値札は大きく違う。出力価格(100万トークンあたり)で比べると、GPT-5.6 Solの30ドルに対しGrok 4.6は6ドルで5分の1、Claude Fable 5の50ドルに対してはおよそ8分の1の水準にとどまる。
入力価格も同じ傾向で、GPT-5.6 Solの5ドルに対してGrok 4.6は2ドル(5分の2)、Claude Fable 5の10ドルに対しては2ドル(5分の1)にとどまる。大量にAPIを呼び出す開発者ほど、この差はそのまま請求額に跳ね返ってくる規模になる。
Cursorで即日提供、Grok Buildも同時始動
Grok 4.6は発表と同時に、開発ツールCursorのモデル選択欄から呼び出せるようになった。追加契約は不要で、既存のCursorプランのまま切り替えて使える。xAIはCursorとGrok Buildの両方で、公開後1週間は利用枠を通常の2倍にするキャンペーンを行うとしている。
Grok Buildは、Claude CodeやOpenAIのCodexに相当するxAI自前のコーディングエージェントで、月額30ドルの「SuperGrok」プランに含まれる形で提供される。CursorとGrok Buildのどちらもコーディング用途を主戦場にしており、xAIが「開発者に安く使ってもらい、そのまま定着させる」路線を明確にしていることがうかがえる。
「2週間後」の予告は、なぜほぼ当たったのか
7月29日の記事で書いた通り、マスク氏は7月25日のX投稿で「Grok 4.6は2週間後、Grok 4.7は4週間後」と述べていた。あの時点ではパラメータ数の報道すら「1.5兆」と「2兆」で割れており、確認できたのは日付の目安だけだった。
7月25日の投稿から数えると、8月12日は18日後にあたる。文字どおりの「2週間後」(14日後=8月8日)からは4日ほど遅れたが、大きくはずれてはいない。パラメータ数の食い違いも、今回の公式発表で1.5兆に定まった。予告段階で崩れがちな「時期」と「規模」の両方が、結果としてほぼそのまま実現した形になる。
残る「Grok 4.7」は、2.1兆パラメータで数週間後に投入予定とされているが、これは今回の発表にあわせて語られた見通しであり、正式な日付はまだ確定していない(※観測)。
Grokを選択肢に入れる人が、いま確認すべきこと
すでにCursorを使っている開発者にとっては、追加の申し込みなしに今日から試せる選択肢が増えたことになる。コーディング・エージェント用途で価格を抑えたいなら、Grok 4.6は具体的な比較対象として検討しやすい。
EU AI法の枠組みでは、Grokは安全に関する章にのみ署名しており、ChatGPTやClaude、Geminiが満額署名しているのとは扱いが分かれている。この差が実務にどう響くかは、8月2日の施行から日が浅く、まだ見通せない部分が残る。
編集部の見立て
今回いちばん興味深いのは、性能を上げながら値段を一切動かさなかった判断だと感じます。新モデルを出すたびに価格も見直すメーカーが多いなかで、Grok 4.6は「同じ値段でどこまで賢くできるか」を試したように見えます。ベンチマークでGPT-5.6 Solと並ぶ一方、価格は5分の1から8分の1という開き方をしているので、コスト重視で選ぶ人にとっての説得力は強いはずです。
ただし、性能と価格だけで評価が完結する製品ではないことも、あわせて書いておく必要があります。Grokというブランドには、差別的な出力や不適切な画像生成といった問題が繰り返し表面化してきた経緯があります。個人が試す分にはハードルは低くても、企業として導入する場面では、この経緯を審査対象に含めるかどうかが実務上の分かれ目になるでしょう。
7月29日の記事で私たちが書いたのは「発表と実装の間には距離がある」という留保でした。今回、その距離は18日というかたちで実際に埋まりました。次の関門はGrok 4.7です。予告どおり数週間後にどんな中身で出てくるのか、そこはまだ見えていません。
まとめ
SpaceXAI(旧xAI)は2026年8月12日、新モデル「Grok 4.6」を投入しました。パラメータ規模と価格(入力100万トークンあたり2ドル・出力6ドル)は前モデルGrok 4.5から据え置いたまま、Artificial Analysis Intelligence IndexでOpenAIのGPT-5.6 Solと同着の61点を記録し、首位のClaude Fable 5(62点)にわずか1点差まで迫りました。
出力価格で比べると、GPT-5.6 Sol(30ドル)の5分の1、Claude Fable 5(50ドル)のおよそ8分の1という水準です。モデルは発表と同時に開発ツールCursorとAPIで即日提供され、公開後1週間は利用枠が2倍になるキャンペーンも行われています。
これは7月25日にマスク氏がXで予告してから18日後の実現でした。残るGrok 4.7(2.1兆パラメータ)は数週間後の投入が見通されていますが、正式な日付はまだ確定していません。
企業としての導入を検討するなら、性能・価格の比較表と並べて「Grokブランドの安全面の経歴をコンプライアンス基準に照らして確認したか」を、稟議に上げる前のチェック項目に一つ加えておきたい。