英Financial Timesが10月8日、OpenAI が投資家に示した9月末時点の年換算売上は約500億ドルだったと報じた。9月下旬に多くの媒体が伝えた数字は約700億ドルで、差は200億ドルある。

当サイトも9月29日の報道をもとに、1兆4,000億ドルという値札を700億ドルで割って約20倍だと書いた。その分母が、2週間足らずで3割近く小さくなったことになる。

ただし、売上が減ったわけではない。ロイターが取材した関係者によれば、差はAnthropicの数字と横並びで比べるために計算し直したところから生じたという。つまり動いたのは商売ではなく、数え方である。

この手の話は「投資家の世界の出来事」として流されやすい。だが年換算売上は、AIの各社が値下げの余力や無料枠の広さを語るときの土台になっている数字でもある。そこが2週間で2割以上動くなら、AIを選ぶ側にとっても読み方を知っておく価値がある。順に開いていく。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はFinancial Timesの報道(2026年10月8日)と、同日のロイターによる独自取材の記事です。本記事公開時点で約34時間が経過しています。本文の数値はすべて報道ベースで、OpenAI・Anthropicのいずれも公式には開示していません。両社とも上場準備中のため、監査を通った年間売上はまだ公表されていません。株価は10月8日の米国市場の値です。

500億ドルと700億ドル──9月末に並んだ2つの数字

年換算売上(ARR、ランレート)は、直近1か月の売上を12倍して「この調子なら1年でこのくらい」を示す数字だ。未上場の急成長企業がよく使う。決算のように監査を通った数字ではなく、どの売上を分子に入れるかは会社ごとの判断で決まる。

Financial Timesは、投資家に共有された資料を見たとして、OpenAIの9月末の年換算売上が500億ドルに近づいていたと報じた。ロイターも同じ日に関係者の話として、9月分の年換算売上がほぼ500億ドルだったと伝えている。一方、9月下旬に広く報じられていたのは約700億ドルである。9月29日にアクシオスが「700億ドルに近づいている」と伝え、各媒体がそれを追っていた。

OpenAIの年換算売上を金額に比例した横棒グラフで比較した図。2024年が60億ドル、2026年1月が200億ドル、2026年9月末に投資家へ示された数字が約500億ドル、同じ9月末に広く報じられていた数字が約700億ドル。最後の2本の差が200億ドルであることを棒の端どうしを結んだ線で示している。
約500億ドル 9月末の年換算売上(投資家向け・FT報道)
200億ドル 9月下旬に報じられた数字との差
0 OpenAIによる公式コメント(報道各社の取材に対し)

OpenAIはこの件について公式の説明を出していない。ロイターとAFPはいずれも「OpenAIはコメントの要請に応じなかった」と記しており、TechCrunchもコメントを求めたとしている。ここで扱えるのは、投資家向け資料を見た報道機関が伝えた内容であって、会社が公表した数字ではない。

一言でまとめると──「OpenAIの売上が落ちたのではなく、9月に出回っていた数字が、Anthropicと比べるために膨らませたものでした」。商売の中身は変わっていませんが、外から見える物差しが1本折れました。

OpenAIとAnthropicで「年換算売上」の数え方はどう違うのか

差額200億ドルの正体は、クラウド経由の売上を分子に入れるかどうかにある。ロイターの整理によれば、AnthropicはAmazonのAWSやGoogle Cloud経由で売れた分を自社の売上として数える。OpenAIは数えない。

ロイターがAnthropicの上場申請書類を入手して分析したところ、2025年の売上のうち約47%がAmazonとGoogleのクラウドマーケットプレイス経由だった。この経路の売上約21億6,000万ドルに対し、流通手数料として約3億5,100万ドルを支払っており、1ドルあたり約16セントが事業者の取り分になる計算だ。この割合は2023年が11%、2024年が32%と、年々上がってきている。つまり両社の年換算売上を素のまま並べると、片方は再販分を含み、片方は含まない数字を比べることになる。

年換算売上の数え方 OpenAI Anthropic
自社の直販(API・有料プラン) 数える 数える
クラウド事業者経由の販売 数えない 数える
その経路で事業者に払う取り分 該当なし 1ドルあたり約16セント
昨年その経路が占めた割合 公表されていない 売上の約47%(2025年・ロイター分析)
監査を通った年間売上 未公表 未公表

9月に出回った約700億ドルは、この非対称を埋めるためにOpenAI側にも再販分を足して計算した推計だったとされる。ロイターの関係者は「Anthropicの数字と直接比較できる形を作ろうとしたことから主に生じた」と説明したと報じられている。CNBCが取材した関係者も、高いほうの数字にはNvidiaなどとの提携から生じる売上が総額で含まれていたと述べたという。

ⓘ 「グロス」と「ネット」は決算でも揉める論点です
売上を総額(グロス)で立てるか、取り分だけ(ネット)で立てるかは、上場企業の会計でも判断が分かれるところです。旅行予約サイトが航空券の総額を売上にするか手数料だけにするかで、見かけの規模が何倍も変わるのと同じ構図です。未上場で監査もない年換算売上では、この判断が外から見えません。だから「どちらが大きいか」を数字の大小だけで決められないのです。

別の物差しも見ておきたい。四半期ごとの売上では、2026年4〜6月期はOpenAIが67億ドル、Anthropicが115億ドルだったとロイターが伝えている。Anthropicの売上がOpenAIを超えたのはこの四半期が初めてだという。※観測 ただしAnthropicの数字は、ウォール・ストリート・ジャーナルとCNBCは116億ドルとしており、媒体によって1億ドルほど違う。再販分の扱いが違うことを踏まえても、順位が入れ替わった局面に今回の訂正が重なった形になる。

市場が売ったのは、売上ではなく数字の確かさだった

報道が出た10月8日、AI関連の株は軒並み下げた。終値でNvidiaが2.94%安の230.48ドル、Oracleが5.48%安、計算資源を貸すCoreWeaveが7.77%安の81.58ドル。同じ日のS&P 500は0.47%安にとどまっており、下げたのは市場全体ではなくAIの周辺だった。

売上が失われたわけではないのに、なぜ下がるのか。CNBCが取材した関係者は、2つの数字の差は販売の喪失を意味しないと述べたとされる。それでも売られたのは、OpenAIの売上見通しそのものが、計算資源を売る側の値段の根拠になっているからだ。

01
AI株は「OpenAIがいくら払えるか」で値付けされている

GPUを売る会社、データセンターを貸す会社、電力を押さえる会社の将来の売上は、OpenAIのような買い手の支払い能力を前提に積まれている。分母が変われば、その前提も見直される。

02
数字の出どころが投資家向け資料しかない

上場していないので、四半期ごとに監査を通った数字が出てこない。外部が持っている材料は報道と関係者の話だけで、訂正されたときに照合する先がない。

03
下げ幅は契約の集中度に沿っていた

CoreWeaveの下げが最も大きかった。同社はOpenAIとの契約を2025年9月時点で最大約224億ドル抱えており、買い手が1社に寄っているほど、その1社の数字に揺らされる。

独自に追いかけていた側の数字も出てきた。KPIを追跡するTickerTrendsは10月8日のブログで、9月28日時点の自社の追跡値が504.4億ドルだったと公表している。約700億ドルが出回っていた当時から、投資家向けの数字とほぼ1%以内で一致していたという主張だ。※観測として扱うが、少なくとも「700億ドルは外から見ても高すぎた」と言っていた観測者はいたことになる。

値札を売上で割ると、20倍から28倍になる

分母が動くと、評価額の見え方が変わる。OpenAIについては、約1兆4,000億ドルの評価額で300億ドル規模を調達する協議に入ったと9月末に報じられていた。1兆4,000億ドルを700億ドルで割れば20倍、500億ドルで割れば28倍になる。※観測 評価額そのものが協議中の数字なので、この倍率は確定した市場価格ではない。

評価額を年換算売上で割った倍率を、倍率に比例した横棒グラフで比較した図。OpenAIは1兆4,000億ドルを700億ドルで割ると20倍、500億ドルで割ると28倍。Anthropicは2兆ドルを1,000億ドルで割って20倍。OpenAIの28倍の棒が最も長い。

比較の相手も見ておきたい。Anthropicは上場時の評価額が2兆ドル以上と報じられており、年換算売上は7月末に650億ドルを超え、年末には1,000億ドルに届く見込みだと伝えられている。2兆ドルを1,000億ドルで割れば20倍である。※観測

⚠ この倍率をそのまま比べられない理由
OpenAIの500億ドルは再販分を含まない数字、Anthropicの1,000億ドルは含む見込みの数字です。前の章で見たとおり、Anthropicの場合はその経路の売上の約16%が事業者に流れます。分子の評価額はどちらも報道ベースで、分母は数え方が違う。倍率を小数点まで比べるのではなく、「2桁の倍率で値付けされている」という桁の確認にとどめるのが安全です。

なお、どちらの会社も上場の準備を進めている段階だ。OpenAIは6月に非公開で上場を申請したと報じられたのち時期を後ろにずらし、Anthropicの上場時期も報道のたびに動いている(9月初旬のロイターは10月中旬以降の売り出し開始、9月18日のウォール・ストリート・ジャーナルは11月と伝えた)。※観測 上場して目論見書が公になれば、監査を通った数字が初めて外から読めるようになる。

年換算売上とは何か──AIを選ぶ側が確かめる3点

この話がAIを選ぶ側に関係するのは、年換算売上が「その会社がこの値段を続けられるか」を外から推し量るほぼ唯一の材料になっているからだ。無料枠の広さ、値下げの頻度、上限の厳しさ。どれも原資の話であり、原資の大きさを語るときに出てくるのがこの数字である。

A
「年換算」は1か月の12倍だと思って読む

直近1か月を12倍した数字なので、伸びている時期は実績より大きく出る。OpenAIは2024年が60億ドル、2026年1月が200億ドル、9月末が約500億ドル。1月から9月の8か月で2.5倍になった計算だ。この速さの中では、同じ会社の数字でも月が違えば並べて読めない。

B
他社と比べた数字は、必ず数え方を聞く

今回の200億ドルの差は、売上ではなく定義から出た。「A社がB社を抜いた」という記事を読んだら、再販分が入っているかどうかを確かめる。入っている側の数字には、事業者への取り分(Anthropicなら約16%)が含まれている。

C
料金の変更は売上の数字では予測できない

10月に入ってからも、OpenAIはChatGPTの無料プランとGo向けに画像広告の試験を10月中に始めると公表し、AnthropicはClaude MaxとTeamにAPIクレジットを同梱した。いずれも今回の報道より前に発表されたもので、この数字が動いたからといって明日の値札が動くわけではない。

💡 請求書の側で見るべき数字
会社の売上規模より、自分の請求書に直接ひもづく数字のほうが先に動きます。使っている有料プランの月あたり上限、API単価が上がる文脈長のしきい値、無料枠で使えるモデルの範囲。この3つは実際に過去2か月で各社とも書き換えています。評価額の倍率を追うより、プランの条件ページの更新日を見るほうが早く気づけます。

もう一点。上場していない会社の売上は、報道が出るたびに上下する。今回は下に動いたが、8月には逆に、比較用に膨らませた推計のほうが先に広まった。同じ会社の同じ指標が、2週間で2割以上違う数字として流通したという事実が、この指標の精度そのものを示している。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回いちばん重いのは、200億ドルという差額の大きさではなく、その差が定義の違いから出たという点だと考えます。売上が落ちたのなら原因を追えますが、数え方の違いは追えません。外にいる人間が持っている材料は、投資家向け資料を見た報道機関の記事だけです。

当サイトも9月末の記事で、約1兆4,000億ドルの評価額を約700億ドルで割り、「値札は売上の約20倍」と書きました。そのときは別の分母で割った場合の倍率も添えてはいましたが、どの数字が何を含んでいるかまでは書けていませんでした。分子と分母の中身を確かめずに倍率を出すと、桁は合っていても意味がずれます。今回の訂正は、その手順を踏み直す機会だと受け止めています。

読者の立場で言えば、この数字を追う必要はほとんどありません。年換算売上が500億ドルでも700億ドルでも、来月のChatGPTやClaudeの値段は変わりません。ただ、「売上が◯◯億ドルに達したので値下げの余力がある」という説明を読んだときに、その数字が何を含んでいるかを一度疑えるかどうかは、選び方に差が出るところです。

そして、この種の訂正はこれで終わらないはずです。両社とも上場準備の途中にあり、開示の基準が固まっていません。監査を通った数字が出るまでは、今回のような上下がもう何度か起きると見ています。

まとめ

Financial Timesが2026年10月8日、OpenAIが投資家に示した9月末の年換算売上は約500億ドルだったと報じました。同じ日のロイターも関係者の話として、9月分がほぼ500億ドルだったと伝えています。9月下旬に広く報じられていた数字は約700億ドルで、差は200億ドルです。

売上が減ったわけではありません。ロイターの関係者によれば、差はAnthropicの数字と直接比べられる形を作ろうとしたところから生じました。AnthropicはAWSやGoogle Cloud経由の販売を自社の売上に数え、その経路の売上1ドルにつき約16セントを事業者に支払っています。2025年はその経路が同社の売上の約47%を占めていました。OpenAIはこの経路の分を数えていません。

10月8日の米国市場の終値は、Nvidiaが2.94%安の230.48ドル、Oracleが5.48%安、CoreWeaveが7.77%安の81.58ドルでした。同じ日のS&P 500は0.47%安です。約1兆4,000億ドルという調達協議中の評価額を700億ドルで割れば20倍、500億ドルで割れば28倍です。Anthropicは2兆ドル以上と報じられる評価額に対し、年末に1,000億ドルの年換算売上が見込まれており、割れば20倍にあたります。いずれも報道ベースの数字です。

ChatGPTやClaudeの料金プランは、この報道によって変わっていません。動いたのは外から見える指標の定義のほうです。

次に照合できる数字が出てくるのは、Anthropicの上場目論見書が公になるときだ。時期は9月から何度もずれており、まだ日付では押さえられない。ただしそこで初めて、年換算売上ではなく監査を通った年間売上が、この2社のうち1社について外から読めるようになる。それまでのあいだ、両社の規模を語る数字はすべて、誰かが何かと比べるために計算したものである。