Gemini を擁するGoogleが、現地時間の9月30日、次世代フラッグシップ「Gemini 4 Argon」を発表した。自社のベンチマーク表では、Claude のOpus 5.5と、ChatGPT を提供するOpenAIのGPT-6 Astraを、多くの項目で上回っている。
ただし、いま触れるのはサイバー防衛の専門家を集めた「Fairwind Program」の参加者と、Googleの社内チームだけだ。有料のAPI利用者とGoogle AI Ultraの契約者への提供は「できるだけ早く」とされたまま、日付は示されていない。
先週の記事で伝えた「Gemini 4がポストトレーニング入りした」という話(Gemini 4が「ポストトレーニング」入り)から約1週間、モデルは名前と数字を持って現れた。だが手元で使える段階には、まだ来ていない。
Gemini 4 Argonとは──誰がいま使えるのか
Gemini 4 Argonは、Googleが「フロンティア」(その時点で最も高性能な部類)に位置づける新モデルだ。長い手順の作業を任せることを狙っており、ソフトウェア開発、企業の知識仕事、サイバー防衛が得意分野として挙げられている。
提供の順番がこの発表の本体になる。最初の入口は、Googleが9月上旬に始めたFairwind Programだ。認められたサイバー防衛の担当者だけが使える限定プログラムで、同じ時期に小型のGemini 3.8 Flash Cyberが先に提供されていた。参加は650組織を超え、CrowdStrikeやPalo Alto Networksも含まれると報じられている。
Fairwindの参加者が使うのは、サイバー向けの安全装置(ガードレール)を緩めた、あるいは外した版だとGoogleは説明している。プログラムの目的は、ソフトウェアの弱点を自力で見つけて直すことにある。一般向けの版とは別物であり、参加者が手にしているものと、いずれ私たちが触るものは同じ中身とは限らない。
Googleの成績表と、第三者の物差しが食い違う
Googleが示した比較表(数字はSiliconANGLEやVentureBeatの報道による)で目立つのは、ソフトウェア開発と業務自動化の2項目だ。長い手順のソフト開発を測るDeepSWE v1.1では、Argonが77.9%、Claude Opus 5.5が74.2%、GPT-6 Astraが74.1%。業務の自動化を測るAutomationBenchでは、Argonの51.3%に対してOpus 5.5が42.5%だった。
全項目で勝っているわけではない。報道によれば、Astraは別のソフト開発の試験(FrontierSWE v2)の首位を守り、Opus 5.5はターミナル操作の試験(Terminal-Bench 4.0)で首位に立つ。この表は、Googleが自分で選んだ試験を、Googleの設定で走らせた結果である点を頭に置きたい。
一方、第三者の測定機関Artificial Analysisの「知能指数」は別の絵になる。同じ指数に並べると、ArgonとAstraはほぼ同点で、Opus 5.5が5点ほど上に来る。
| モデル(設定) | 知能指数 | 測定1タスクの費用 |
|---|---|---|
| Claude Opus 5.5(Max) | 57.6 | 5.98ドル |
| GPT-6 Astra(Max) | 52.7 | 3.26ドル |
| Gemini 4 Argon(High) | 52.6 | 1.99ドル |
指数が同点のAstraに対し、費用は約1.6倍、Opus 5.5には約3倍の差がある。Argonは賢さで首位ではないが、同じ賢さのAstraを6割の費用で動かせたことになる。ただしArgonの設定は「High」で、他の2つは「Max」(最大の努力度)であり、条件が完全に揃った比較ではない。また、測定中にArgonが出力したトークンは1億1,000万で、測定した全モデルの中央値である8,200万を上回っている。安いのは単価であって、書く量が少ないからではない。同じ測定でClaude Sonnet 5.5は56点と、Argonを上回る。Argonは賢さでも安さでも単独の首位ではない。
導入価格は2ドル・10ドル、期限は書かれていない
ArgonのAPI価格は、導入期間中は入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドルだ。キャッシュ(同じ文脈の再利用)の入力は、その価格から95%引きになる。導入期間が終わると、入力4ドル・出力20ドルに倍になるとGoogleは示している。
通常価格の4ドル・20ドルは、Claude Opus 5.5の価格と同額だ。一方、GPT-6 Astraは入力10ドル・出力50ドル。導入価格のArgonは、同じ世代の上位モデルより、はるかに安い場所から始まっている。
図の2本目は、倍になった後の姿の試算だ。単価が入力・出力とも2倍になり、使うトークンの量が同じなら、測定1タスクの費用は1.99ドルから約3.98ドルになる。その場合、Astraの3.26ドルを上回り、Opus 5.5の5.98ドルには届かない位置に来る。いまの「Astraの6割」という安さは、導入期間が続く間の数字である。
期間の長さは、発表でも報道でも示されていない。あわせて、長い入力で単価が上がる段階料金があるかどうかも、私たちが確認した範囲のGoogle公式の発表文には書かれておらず、公式の価格表にもArgonはまだ載っていない。GPT-6 Astraが入力27万2,000トークンを超えると全体の単価が上がる仕組みを持つことを思えば(同じ27万2,000トークンの段はGPT-6.1 Solの記事でも扱った)、実際に使える日に価格表の細則まで読み直す必要がある。
出力100万トークンは何を変えるか
Argonの設計上の特徴は、1回の応答で書ける量が最大100万トークンになったことだ。従来のGeminiは6万4,000トークンが上限で、およそ16倍に広がった。トークンは、AIが文章を扱うときの単位で、日本語なら1文字が1〜2トークン前後にあたる。
長く書けると何が変わるのか。Googleの社内では、C/C++のコードをRustへ書き換える作業を、数万行から80万行超(Zirconカーネル)まで任せたという。動画の復号ライブラリで3万2,000行を書き直し、処理が2.7倍に速くなった例や、データセンター全体で300テビバイト超のメモリを空けた例も挙げている。いずれもGoogleの自己申告で、第三者の検証はまだ出ていない。
これらの仕事に共通するのは、途中で人が答えを確認しに入らず、AIが長い手順を1本で走り切ることだ。ふだんの文章作成や質問応答では、6万4,000トークンの上限に突き当たる場面は多くなく、多くの読者にとってこの数字は、いまは関係がない。恩恵を受けるのは、大規模なコード移行や長い契約書の下書きを任せる人たちである。
いまのあなたに何が変わるか
Argonは提供対象外で、アプリに出てくる時期も未定だ。Ultraの契約は、提供が始まったときの入口にはなりそうだが、いま契約を変える理由は発表の中にない。
導入価格の2ドル・10ドルは魅力だが、期限がわからないまま本番の設計に織り込むと、倍の4ドル・20ドルで再計算を迫られる。試算は通常価格で組んでおくほうが安全だ。
弱点の発見と修正に使えるのは、いまのところ審査を通った参加者だけだ。自社が対象になるかは、Googleの募集条件を確かめるところから始まる。
編集部の見立て
今回の発表で印象的なのは、性能の示し方と、触れる人の絞り方が、ほぼ同時に設計されていることです。成績表は先に公開し、実際に使える人は650組織ほどに絞る。性能の訴求と安全の配慮を、同じ発表の中に収めた形です。
読者の立場では、2つの数字を並べて読むのが現実的だと考えます。Googleの比較表の「首位級」と、Artificial Analysisの「Astraと同点、Opus 5.5の下」です。どちらも嘘ではなく、測っているものが違います。Argonの強みは、賢さの頂点ではなく、同じ賢さを安く動かせる点にあるように見えます。
ただし、その安さは導入期間の値札です。通常価格に戻った後でも、Astraより安い位置に残るのか。倍になった試算では、Astraを上回ります。提供の日が決まったときに、あらためて同じ表を引き直す価値がありそうです。
まとめ
Googleは2026年9月30日(米国時間)、次世代モデルGemini 4 Argonを発表しました。利用できるのは、サイバー防衛の専門家向けFairwind Program(650組織超)とGoogleの社内チームに限られ、有料APIとGoogle AI Ultraへの提供日は示されていません。
Googleの比較表では、DeepSWE v1.1でArgonが77.9%、Opus 5.5が74.2%、Astraが74.1%と上回ります。一方、Artificial Analysisの知能指数ではArgonが52.6、Astraが52.7、Opus 5.5が57.6で、Argonは同点のAstraを6割の費用で動かしました。
APIの導入価格は入力2ドル・出力10ドルで、後に4ドル・20ドルへ倍になる予定です。期間は未公表で、倍になった場合の試算では、測定1タスクの費用は約3.98ドルとAstraを上回ります。出力上限は6万4,000から100万トークンへ約16倍に広がりました。
次に動くのは、Googleが導入価格の終了日と、有料APIへの提供日を明かす日だ。それまでの1.99ドルは、期限の書かれていない値札である。