Microsoftの AI部門「Microsoft AI」が10月1日(米国時間)、自社開発の音声モデルを3つ同時に公開した。音声合成の「MAI-Voice-2.1」と、その高速版「MAI-Voice-2.1-Flash」、そして初のリアルタイム文字起こしモデル「MAI-Transcribe-2-Streaming」である。
並んだ値札を見ると、気になる数字が2つある。リアルタイムの文字起こしは1時間0.54ドルで、9月3日に出た一括処理版の0.10ドルの5.4倍。そして音声合成の対応言語は23言語あるが、その一覧に日本語は入っていない。
どちらも発表文の見出しには出てこない。読み上げの声を選ぶ人にも、会議の字幕を付けたい人にも、見積もりの前に知っておきたい数字だ。
MAI-Voice-2.1とは──Microsoftが並べた3つの音声モデル
MAIは「Microsoft AI」の頭文字で、同社がOpenAIなど他社のモデルに頼らず自前で作っているモデル群の名前だ。今回の3つはいずれも音声を扱う。音声合成とは文字を声に変える技術、文字起こしとは声を文字に変える技術のことである。
3つの違いを表にまとめる。発表文に書かれている数字だけを並べた。
| モデル | 役割 | 料金 | 公表された速さ |
|---|---|---|---|
| MAI-Voice-2.1 | 音声合成(標準版) | 100万文字あたり22ドル | 発表文に数字なし |
| MAI-Voice-2.1-Flash | 音声合成(高速版) | 100万文字あたり15ドル | 最大45秒分の音声を、端から端まで150ミリ秒で生成 |
| MAI-Transcribe-2-Streaming | リアルタイム文字起こし | 1時間あたり0.54ドル(年内の導入価格) | 最初の仮の文字が100ミリ秒強で出る |
いずれもMicrosoft Foundry(同社の開発者向けAI基盤)、MAI Playground(ブラウザで試せる場)、Vercel、Azure Voice Liveから使える。ChatGPTやGeminiのアプリに入っている音声機能がこれで置き換わる話ではない。あくまで、音声機能を自分のサービスや業務に組み込む人向けの部品である。
リアルタイム文字起こしの料金は、一括処理の5.4倍
文字起こしには2つの使い方がある。録音を丸ごと渡して後からまとめて文字にする一括処理と、話している最中に文字を出し続けるリアルタイム処理だ。字幕の生成や電話応対の支援は後者でないと成り立たない。
Microsoftは9月3日、一括処理のMAI-Transcribe-2を1時間0.10ドルで出した。当サイトのMAI-Transcribe-2の記事で扱った値札である。今回のリアルタイム版は1時間0.54ドル。0.54÷0.10=5.4で、同じ名前の文字起こしでも5.4倍になる。どちらも年内の導入価格で、年明け以降の価格は出ていない。
比べる相手も置いておく。xAIの公式ドキュメントでは、Grokの文字起こしは一括処理(REST)が1時間0.10ドル、リアルタイム(ストリーミング)が0.20ドルだ。当サイトのGrok Voice Transcribe 2.0の記事で取り上げた価格から動いていない。Grok側のリアルタイムは一括処理の2倍にとどまるので、MAIの5.4倍はそれより開きが大きい。
高い分、何が得られるのか。Microsoftの説明では、MAI-Transcribe-2-Streamingは精度の第三者ランキングであるArtificial Analysisで、確定した文字と仮の文字の両方で1位だという。単語が画面に出るまでの速さは、同社が「最も近い競合」と呼ぶモデルの2倍とも書いている。どのモデルを競合と見ているのかは、確認できた範囲の発表文には書かれていない。1位・2倍とも同社の発表であり、ここでは同社の主張として扱う。
月100時間の音声を処理する場合で計算すると、MAIのリアルタイムは54.00ドル、同じMAIの一括処理は10.00ドル、Grokのリアルタイムは20.00ドルになる。リアルタイムが要らない仕事までリアルタイム版に流すと、差額44.00ドルが丸ごと余計な出費になる。
音声合成は100万文字22ドル、Flashは15ドル
音声合成のほうは、100万文字あたりの料金で値付けされている。標準のMAI-Voice-2.1が22ドル、高速版のFlashが15ドルだ。22ドルから15ドルへは約3割(31.8%)の差になる。
Flashは最大45秒分の音声を、依頼から生成の終わりまで150ミリ秒で作るとされる。0.15秒である。電話の自動応答や音声アシスタントのように、相手が答えを待っている場面を狙った設計で、同社は標準版より推論が55%速く、「同等のモデルより約6割安い」と説明している。比較対象のモデル名は、確認できた範囲では示されていない。
日本語の読者に引きつけて、金額感を出しておく。月に1,000万文字を読み上げさせる運用なら、標準版は220ドル、Flashは150ドルで、差は70ドルだ。10万文字なら2.20ドルと1.50ドルである。文字数の数え方(記号や空白、音声の指示を書き込むタグを含むか)は公式の仕様で確かめたい。
23言語の一覧に、日本語は入っていない
MAI-Voice-2.1のモデルページが挙げる対応言語は、英語(米・豪・英・インド)、イタリア語、フランス語、ドイツ語、ヒンディー語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、中国語(簡体字)、トルコ語、ロシア語、タイ語、オランダ語、ルーマニア語、ハンガリー語、チェコ語、デンマーク語、フィンランド語、インドネシア語、ポーランド語、スウェーデン語、ノルウェー語(ブークモール)、ベトナム語。日本語は見当たらない。発表文は「23言語・26ロケール」とうたっている。
一方、文字起こしは事情が違う。MAI-Transcribe-2のモデルページの言語一覧には日本語が載っており、60言語での精度をうたっている。ストリーミング版も同じく60言語と案内されている。ただし、日本語のリアルタイム精度を示す数字は、確認できた範囲の発表には出ていない。
つまり同じ発表の中で、「日本語の音声を文字にする」ほうは視野に入っていて、「日本語の文章を声にする」ほうは対象外という形になっている。日本語のナレーションや読み上げ用途で選ぶ人にとって、今回のMAI-Voice-2.1は候補に入らない。Geminiの音声合成が100超の言語を掲げていることと並べると、対応の幅の差ははっきりしている。
用途別──どの値札が自分の仕事に当たるか
今回の発表は、使い道ごとにまったく別の意味を持つ。
議事録や取材の書き起こしは、話し終わってからで足りる。MAI-Transcribe-2の0.10ドルかGrokの0.10ドルで済み、リアルタイム版に流すと月100時間で44ドル余計にかかる。日本語に対応しているかは、各社のモデルページで確かめたい。
話している最中に文字が要る仕事だけが、5.4倍の側にいる。Grokのリアルタイムは0.20ドルで、MAIとは2.7倍の差がある。差が精度と速さで取り戻せるかは、自分の音声を両方に流して確かめるしかない。
23言語の一覧に日本語がないので、ナレーションや読み上げの用途では比較表に載せる意味が薄い。声の種類と言語の幅で選ぶなら、Googleの音声合成が100超の言語を掲げている。
電話の自動応答のように待たせたくない場面では、0.15秒という数字が体感の差になるかを確かめる価値がある。確かめ方は、自社の文面を流して実測することだ。
編集部の見立て
今回の発表でいちばん注目したのは、モデルの性能そのものよりも、同じ会社が出す値札のつけ方です。文字起こしは、リアルタイムにすると一括処理の5.4倍になりました。Grokでは同じ切り替えで2倍です。Microsoftは、リアルタイムという付加価値に、他社よりかなり強気の値付けをしたことになります。
ただし、0.54ドルという数字は年内の導入価格です。一括処理版と同じく、2027年1月以降の価格は発表されていません。導入価格のまま続くのか、上がるのか、下がるのかで、5.4倍という開きの意味は変わります。いま見えている倍率は、そのまま来年の倍率ではありません。
もう一つ、日本の読者にとって見落としやすいのは言語の線引きです。音声を文字にするほうには日本語が入り、文字を音声にするほうには入っていません。音声AIは「対応言語○○」とひとまとめにされがちですが、文字起こしと音声合成で一覧が別々に作られている以上、確認も別々に必要です。値段より先に、言語の一覧を開くほうが手戻りが少ないと考えます。
まとめ
2026年10月1日(米国時間)、Microsoft AIが音声モデル3つを公開しました。音声合成のMAI-Voice-2.1(100万文字あたり22ドル)、高速版のMAI-Voice-2.1-Flash(同15ドル、最大45秒分の音声を150ミリ秒で生成)、リアルタイム文字起こしのMAI-Transcribe-2-Streaming(1時間0.54ドル、年内の導入価格)です。
リアルタイム文字起こしの0.54ドルは、9月3日に出た一括処理版MAI-Transcribe-2の0.10ドルの5.4倍、xAIのGrokのリアルタイム(0.20ドル)の2.7倍にあたります。月100時間なら、MAIのリアルタイムは54.00ドル、一括処理は10.00ドルです。
MAI-Voice-2.1の対応言語は23言語・26ロケールで、モデルページの一覧に日本語は入っていません。一方、MAI-Transcribe-2のモデルページの言語一覧には日本語があります。ストリーミング版の日本語の精度を示す数字は、確認できた範囲の発表にはありません。
これらはMicrosoft Foundryなど開発者向けの経路で使う部品で、ChatGPTやGeminiのアプリの音声機能が置き換わる話ではありません。精度1位や速さ2倍といった数字は、すべてMicrosoft自身の発表です。
次に確かめるのは、年内の導入価格が切れる2027年1月のMAI-Transcribe-2系の値札だ。一括処理の0.10ドルとリアルタイムの0.54ドルが、どちらの向きに動くかで、いまの5.4倍という開きの意味が決まる。