Microsoftの AI部門「Microsoft AI」が10月1日(米国時間)、自社開発の音声モデルを3つ同時に公開した。音声合成の「MAI-Voice-2.1」と、その高速版「MAI-Voice-2.1-Flash」、そして初のリアルタイム文字起こしモデル「MAI-Transcribe-2-Streaming」である。

並んだ値札を見ると、気になる数字が2つある。リアルタイムの文字起こしは1時間0.54ドルで、9月3日に出た一括処理版の0.10ドルの5.4倍。そして音声合成の対応言語は23言語あるが、その一覧に日本語は入っていない。

どちらも発表文の見出しには出てこない。読み上げの声を選ぶ人にも、会議の字幕を付けたい人にも、見積もりの前に知っておきたい数字だ。

⚠ 情報の鮮度について
一次情報はMicrosoft AIの公式発表(2026年10月1日、米国時間)と、同社のモデルページです。公開時点でおよそ4日が経過しており、速報ではなく「選ぶ側にとって何を意味するか」を整理する解説として書いています。料金はすべて米ドルの公表値で、円換算はしていません。MAI-Transcribe-2系の料金は2026年末までの導入価格で、2027年1月以降の価格は発表されていません。

MAI-Voice-2.1とは──Microsoftが並べた3つの音声モデル

MAIは「Microsoft AI」の頭文字で、同社がOpenAIなど他社のモデルに頼らず自前で作っているモデル群の名前だ。今回の3つはいずれも音声を扱う。音声合成とは文字を声に変える技術、文字起こしとは声を文字に変える技術のことである。

3つの違いを表にまとめる。発表文に書かれている数字だけを並べた。

モデル 役割 料金 公表された速さ
MAI-Voice-2.1 音声合成(標準版) 100万文字あたり22ドル 発表文に数字なし
MAI-Voice-2.1-Flash 音声合成(高速版) 100万文字あたり15ドル 最大45秒分の音声を、端から端まで150ミリ秒で生成
MAI-Transcribe-2-Streaming リアルタイム文字起こし 1時間あたり0.54ドル(年内の導入価格) 最初の仮の文字が100ミリ秒強で出る

いずれもMicrosoft Foundry(同社の開発者向けAI基盤)、MAI Playground(ブラウザで試せる場)、Vercel、Azure Voice Liveから使える。ChatGPTやGeminiのアプリに入っている音声機能がこれで置き換わる話ではない。あくまで、音声機能を自分のサービスや業務に組み込む人向けの部品である。

一言でまとめると──「声を作るモデルは安く速くなったが、日本語の読み上げは今回の対象外。文字を起こすモデルは、リアルタイムにした途端に値段が5.4倍になる」。値札の読み方がそのまま選び方になる発表です。

リアルタイム文字起こしの料金は、一括処理の5.4倍

文字起こしには2つの使い方がある。録音を丸ごと渡して後からまとめて文字にする一括処理と、話している最中に文字を出し続けるリアルタイム処理だ。字幕の生成や電話応対の支援は後者でないと成り立たない。

Microsoftは9月3日、一括処理のMAI-Transcribe-2を1時間0.10ドルで出した。当サイトのMAI-Transcribe-2の記事で扱った値札である。今回のリアルタイム版は1時間0.54ドル。0.54÷0.10=5.4で、同じ名前の文字起こしでも5.4倍になる。どちらも年内の導入価格で、年明け以降の価格は出ていない。

比べる相手も置いておく。xAIの公式ドキュメントでは、Grokの文字起こしは一括処理(REST)が1時間0.10ドル、リアルタイム(ストリーミング)が0.20ドルだ。当サイトのGrok Voice Transcribe 2.0の記事で取り上げた価格から動いていない。Grok側のリアルタイムは一括処理の2倍にとどまるので、MAIの5.4倍はそれより開きが大きい。

文字起こしAPIの1時間あたり料金を比べた横棒グラフ。Grok Voiceの一括処理が0.10ドル、MAI-Transcribe-2の一括処理が0.10ドル、Grok Voiceのリアルタイムが0.20ドル、MAI-Transcribe-2-Streamingが0.54ドルで、棒の長さは料金に比例している。
5.4倍 MAIのリアルタイム版(0.54ドル)÷一括処理版(0.10ドル)
2.7倍 MAIのリアルタイム版÷Grokのリアルタイム(0.20ドル)
100ミリ秒強 最初の仮の文字が出るまでの時間(Microsoft公表)

高い分、何が得られるのか。Microsoftの説明では、MAI-Transcribe-2-Streamingは精度の第三者ランキングであるArtificial Analysisで、確定した文字と仮の文字の両方で1位だという。単語が画面に出るまでの速さは、同社が「最も近い競合」と呼ぶモデルの2倍とも書いている。どのモデルを競合と見ているのかは、確認できた範囲の発表文には書かれていない。1位・2倍とも同社の発表であり、ここでは同社の主張として扱う。

月100時間の音声を処理する場合で計算すると、MAIのリアルタイムは54.00ドル、同じMAIの一括処理は10.00ドル、Grokのリアルタイムは20.00ドルになる。リアルタイムが要らない仕事までリアルタイム版に流すと、差額44.00ドルが丸ごと余計な出費になる。

音声合成は100万文字22ドル、Flashは15ドル

音声合成のほうは、100万文字あたりの料金で値付けされている。標準のMAI-Voice-2.1が22ドル、高速版のFlashが15ドルだ。22ドルから15ドルへは約3割(31.8%)の差になる。

Flashは最大45秒分の音声を、依頼から生成の終わりまで150ミリ秒で作るとされる。0.15秒である。電話の自動応答や音声アシスタントのように、相手が答えを待っている場面を狙った設計で、同社は標準版より推論が55%速く、「同等のモデルより約6割安い」と説明している。比較対象のモデル名は、確認できた範囲では示されていない。

日本語の読者に引きつけて、金額感を出しておく。月に1,000万文字を読み上げさせる運用なら、標準版は220ドル、Flashは150ドルで、差は70ドルだ。10万文字なら2.20ドルと1.50ドルである。文字数の数え方(記号や空白、音声の指示を書き込むタグを含むか)は公式の仕様で確かめたい。

ⓘ Geminiの音声合成とは単位が違う
Googleが9月23日に出したGemini 3.8 Flash TTSは、2,000超の声と100超の言語を持つとされています。料金は文字ではなくトークンで決まり、出力音声は100万トークンあたり9.00ドルです。MAIの「100万文字あたり22ドル」と数字を並べても、どちらが安いかは決まりません。同じ文章を両方に流して見積もるまで、比較は成り立ちません。

23言語の一覧に、日本語は入っていない

MAI-Voice-2.1のモデルページが挙げる対応言語は、英語(米・豪・英・インド)、イタリア語、フランス語、ドイツ語、ヒンディー語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、中国語(簡体字)、トルコ語、ロシア語、タイ語、オランダ語、ルーマニア語、ハンガリー語、チェコ語、デンマーク語、フィンランド語、インドネシア語、ポーランド語、スウェーデン語、ノルウェー語(ブークモール)、ベトナム語。日本語は見当たらない。発表文は「23言語・26ロケール」とうたっている。

一方、文字起こしは事情が違う。MAI-Transcribe-2のモデルページの言語一覧には日本語が載っており、60言語での精度をうたっている。ストリーミング版も同じく60言語と案内されている。ただし、日本語のリアルタイム精度を示す数字は、確認できた範囲の発表には出ていない。

つまり同じ発表の中で、「日本語の音声を文字にする」ほうは視野に入っていて、「日本語の文章を声にする」ほうは対象外という形になっている。日本語のナレーションや読み上げ用途で選ぶ人にとって、今回のMAI-Voice-2.1は候補に入らない。Geminiの音声合成が100超の言語を掲げていることと並べると、対応の幅の差ははっきりしている。

用途別──どの値札が自分の仕事に当たるか

今回の発表は、使い道ごとにまったく別の意味を持つ。

A
録音をあとで文字にする人:一括処理を選ぶ

議事録や取材の書き起こしは、話し終わってからで足りる。MAI-Transcribe-2の0.10ドルかGrokの0.10ドルで済み、リアルタイム版に流すと月100時間で44ドル余計にかかる。日本語に対応しているかは、各社のモデルページで確かめたい。

B
字幕や応対支援を出す人:リアルタイムの価格を比べる

話している最中に文字が要る仕事だけが、5.4倍の側にいる。Grokのリアルタイムは0.20ドルで、MAIとは2.7倍の差がある。差が精度と速さで取り戻せるかは、自分の音声を両方に流して確かめるしかない。

C
日本語の読み上げが要る人:MAI-Voice-2.1は対象外

23言語の一覧に日本語がないので、ナレーションや読み上げの用途では比較表に載せる意味が薄い。声の種類と言語の幅で選ぶなら、Googleの音声合成が100超の言語を掲げている。

D
英語など対応言語で応答速度を競う人:Flashが候補

電話の自動応答のように待たせたくない場面では、0.15秒という数字が体感の差になるかを確かめる価値がある。確かめ方は、自社の文面を流して実測することだ。

⚠ 声の複製を使う前に
MAI-Voice-2.1は、数秒の参照音声から声を複製できると案内されています。同社は「悪用を防ぐための同意の仕組み」を内蔵していると書き、Azureのモデルカタログには、声の複製の利用にMicrosoftの承認が要るとの記載もあります。ただ、確認できた範囲では、本人の同意をどう確かめるのか、具体的な手順までは書かれていません。Googleの音声合成は、30秒のサンプルに加えて、声の持ち主本人による同意の音声録音を求めると案内されています。他人の声を扱う予定があるなら、同意の取り方を契約前に確認してください。

編集部の見立て

Editor's Opinion

今回の発表でいちばん注目したのは、モデルの性能そのものよりも、同じ会社が出す値札のつけ方です。文字起こしは、リアルタイムにすると一括処理の5.4倍になりました。Grokでは同じ切り替えで2倍です。Microsoftは、リアルタイムという付加価値に、他社よりかなり強気の値付けをしたことになります。

ただし、0.54ドルという数字は年内の導入価格です。一括処理版と同じく、2027年1月以降の価格は発表されていません。導入価格のまま続くのか、上がるのか、下がるのかで、5.4倍という開きの意味は変わります。いま見えている倍率は、そのまま来年の倍率ではありません。

もう一つ、日本の読者にとって見落としやすいのは言語の線引きです。音声を文字にするほうには日本語が入り、文字を音声にするほうには入っていません。音声AIは「対応言語○○」とひとまとめにされがちですが、文字起こしと音声合成で一覧が別々に作られている以上、確認も別々に必要です。値段より先に、言語の一覧を開くほうが手戻りが少ないと考えます。

まとめ

2026年10月1日(米国時間)、Microsoft AIが音声モデル3つを公開しました。音声合成のMAI-Voice-2.1(100万文字あたり22ドル)、高速版のMAI-Voice-2.1-Flash(同15ドル、最大45秒分の音声を150ミリ秒で生成)、リアルタイム文字起こしのMAI-Transcribe-2-Streaming(1時間0.54ドル、年内の導入価格)です。

リアルタイム文字起こしの0.54ドルは、9月3日に出た一括処理版MAI-Transcribe-2の0.10ドルの5.4倍、xAIのGrokのリアルタイム(0.20ドル)の2.7倍にあたります。月100時間なら、MAIのリアルタイムは54.00ドル、一括処理は10.00ドルです。

MAI-Voice-2.1の対応言語は23言語・26ロケールで、モデルページの一覧に日本語は入っていません。一方、MAI-Transcribe-2のモデルページの言語一覧には日本語があります。ストリーミング版の日本語の精度を示す数字は、確認できた範囲の発表にはありません。

これらはMicrosoft Foundryなど開発者向けの経路で使う部品で、ChatGPTやGeminiのアプリの音声機能が置き換わる話ではありません。精度1位や速さ2倍といった数字は、すべてMicrosoft自身の発表です。

次に確かめるのは、年内の導入価格が切れる2027年1月のMAI-Transcribe-2系の値札だ。一括処理の0.10ドルとリアルタイムの0.54ドルが、どちらの向きに動くかで、いまの5.4倍という開きの意味が決まる。