Grokを運営するSpaceXAI(旧xAI)が、画像生成機能「Grok Imagine」をめぐるミネソタ州との訴訟で、控訴審に入って初めて勝った。米第8巡回区控訴裁判所は2026年10月2日(金)、同社の申立てを認め、控訴審の判断が出るまでミネソタ州のAIヌード化禁止法を執行させないと命じた。ロイターやCBS Minnesotaが報じている。
地裁は7月31日と9月4日の2度、同社の差止め請求を退けていた。その判断が、わずか1文の命令で当面ひっくり返った形になる。ただし命令は理由を述べておらず、この法律が憲法違反かどうかは、まだ何も決まっていない。
なお、提訴から施行直後の機能制限、8月の審理までの流れは、提訴時の記事、施行直後の記事、8月の審理と司法省意見書の記事で伝えてきた。今回はその続報にあたる。
10月2日の命令──決まったのは「執行の停止」だけ
命令は報道によれば1文だけで、「控訴審の間の差止めを求める申立てを認める」という趣旨だった。理由の説明はない。判事の構成や全員一致だったかどうかも、ロイターの記事には出ていない。
止まったのは、ミネソタ州が2026年8月1日に施行した「ヌード化」禁止法(HF1606)の執行である。この法律は、ウェブサイトやアプリ、ソフトウェアを所有・管理する側に、利用者が実在の人物の画像を「ヌード化」するのを許してはならないと求める。違反した事業者には最大50万ドルの民事制裁金が科され、被害者も損害賠償を求めて提訴できる。
一方で、命令からは分からないことが多い。この命令が、SpaceXAI以外の事業者にも及ぶのかは、報じられた範囲では確認できない。控訴審の口頭弁論がいつ開かれるのかも、まだ出ていない。ミネソタ州司法長官事務所は「第8巡回区の判断には失望しており、強く異議を唱える」とコメントし、法律を守る姿勢を崩していない。
署名から148日──地裁2回の却下を経て
法律が成立したのは2026年5月。ウォルズ州知事が署名し、下院132対1、上院65対0というほぼ満場一致の可決だった。SpaceXAIが提訴したのは署名から81日後の7月27日で、施行のわずか5日前にあたる。地裁がこの遅れを重く見たことが、2度の却下の中心にあった。
ウォルズ知事がHF1606に署名AIの「ヌード化」を禁じる全米初の州法になった。
xAIが州司法長官を提訴表現の自由を侵害する広すぎる規制だと主張した。
地裁が緊急の差止めを却下フランク判事は、提訴と申立てが遅かったことを理由に挙げた。
法律が施行SpaceXAIはGrok Imagineのミネソタ州向けの画像編集機能を制限したと報じられている。
地裁が仮の差止めも却下約3か月待ったことが「害が差し迫っている」との主張に反するとされた。
第8巡回区控訴裁が執行を停止控訴審の判断が出るまで、1文の命令で止めた。
地裁の段階では、法律の中身そのものは判断されていない。7月31日の命令は、提訴と申立てのタイミングだけを理由にしていた。8月19日には仮の差止めをめぐる審理が開かれ、9月4日に判断が出たが、ここでも遅れが重く見られた。その結論を控訴裁が1文で覆したことになる。
理由のない命令は、どう読めばよいのか
控訴審の間の差止めは、一般に、申立てた側が勝つ見込みと、止めなければ取り返しのつかない害が出ることを示せたときに認められる。米連邦最高裁の判例(Nken対ホルダー事件)が、この2点をとくに重い判断要素としている。控訴裁がそれを認めたこと自体は、地裁と違う見方を取ったことを示す。
ただし、どの点を重く見たのかは、理由が書かれていないので外からは分からない。SpaceXAIは控訴で、提訴が遅れたとの見方に反論し、Grok Imagineには実在の人物のヌード化や性的な画像を防ぐ「厳格な保護」があると主張している。ミネソタ州側は、法律の目的を、AI製品が大量に生み出す児童性的虐待コンテンツへの対策だと説明する。控訴裁がどちらの主張に傾いたのかは、命令だけでは判別できない。
控訴審の判断が出るまで、州はこの法律を執行できない。地裁の2度の却下は、当面の効力を失った。
法律が第一修正に違反するかどうか。AIの出力が「表現」にあたるかどうか。どちらも控訴審の本審理に残っている。
命令の及ぶ範囲、口頭弁論の期日、判事の構成。※観測として、SpaceXAI以外の事業者への影響は現時点で不明とするのが妥当だ。
Grok Imagineと画像生成AIを選ぶ人への意味
この件は、ミネソタ州の外にいる人には遠い話に見える。それでも、画像生成AIを選ぶときの前提に関わる。同じサービスでも、使える機能が居住する州で変わりうる時代に入っているからだ。
GrokのGrok Imagineは、8月1日からミネソタ州の利用者向けに画像編集機能を制限したと報じられている。執行が止まっても、SpaceXAIが制限を解くかどうかは別の判断で、報じられた範囲では解除は伝えられていない。
HF1606の対象はミネソタ州内の話で、今回の命令もその執行を止めただけだ。他の州での機能に直接の影響が出るとは、報じられていない。
条文が向けられているのは「ウェブサイトやアプリ、ソフトウェアの所有者・管理者」で、ChatGPTやGemini、Midjourneyのような画像生成サービスも文面上は含まれうる。今回の停止がそれらに及ぶかどうかは、報じられていない。
編集部の見立て
今回の命令で注目したのは、中身の薄さではなく、その薄さが残す余白の大きさです。地裁は2度とも「遅すぎた」という手続きの理由で退けました。控訴裁は理由を書かずに止めました。つまり、法律の中身である「AIの出力は表現なのか」「提供側に過失の有無を問わず責任を負わせてよいのか」という本丸は、まだどちらの裁判所も語っていません。
画像生成AIを選ぶ立場で見ると、ここで勝ち負けを占うのは早いと考えます。この法律には、事業者が利用規約で禁じたり、対策を講じたりしても責任を免れる仕組みがない、と伝えられています。もし控訴審で法律が維持されれば、同じ作りの規制が他の州に広がる足がかりになるでしょう。逆に覆れば、規制の設計そのものが見直しを迫られます。どちらに転んでも、画像生成AIの機能が「どの州でどこまで使えるか」という地図は、判決のたびに書き換わる可能性があります。
一つだけ、報じられた範囲で言えることがあります。ミネソタ州は、AIが生み出す児童性的虐待コンテンツへの対策という目的を、控訴審でも前面に出しています。SpaceXAIは目的そのものを争わず、手段の広さを争っています。この論点の置き方は、他社が同じ規制に直面したときにも使われるはずです。
まとめ
2026年10月2日、米第8巡回区控訴裁判所は、ミネソタ州のAIヌード化禁止法(HF1606)を、控訴審の判断が出るまで執行させないとするSpaceXAIの申立てを認めました。命令は理由を示さない1文でした。
法律は5月7日に署名され、8月1日に施行されました。地裁は7月31日と9月4日の2度、SpaceXAIの差止め請求を退けており、控訴裁の命令は署名から148日目に出ています。
決まったのは執行の停止だけで、法律が憲法に反するかどうかは未判断です。命令の及ぶ範囲、口頭弁論の期日、Grok Imagineのミネソタ向け制限が解かれるかどうかは、報じられた範囲では分かっていません。
次に動くのは、控訴審の日程です。口頭弁論の期日はまだ出ていません。ミネソタ州の利用者にとって、いちばん早く確かめられるのは、Grok Imagineの画像編集機能の制限が、アプリの案内から外れるかどうかです。