決済サービスで知られるBlock(旧Square)のAI研究チームが10月23日、音声AI「Dessa(デッサ)」を発表した。Blockの説明では、Dessaは人どうしの会話の音声だけで、ゼロから学習したモデルである。文章データも、既存のAIモデルも使っていないという。
ChatGPTをはじめ、各社の音声機能は毎月のように更新されている。Dessaは、そこへ別の道から入ってきた研究だ。ただし、公開されているのはBlock自身のページと選び抜いた録音だけで、性能試験の数字も論文も重みも価格もまだ出ていない。
この記事では、Blockが何を主張し、何を書いていないのかを切り分けたうえで、いまAIの音声機能を選ぼうとしている人がこの発表をどう受け止めればよいかを整理する。
Dessaとは──文字を経由せず、聞きながら話す音声AI
Dessaの特徴は2つある。ひとつは音声をそのまま受け取り、音声をそのまま返す作りであること。もうひとつは相手の話を聞きながら、同時にしゃべれることだ。
前者は「音声から音声へ」(speech-to-speech)と呼ばれる方式である。声をいったん文字に起こし、文字で考え、返ってきた文字を読み上げる、という段取りを踏まない。Blockは、文字に変換した時点で笑い声やため息、皮肉の調子といった「音にしか含まれない情報」が落ちると主張している。
後者は「全二重」(full-duplex)という。電話のように、片方が話し終えるのを待たずに相づちを打ったり、割り込んだりできる仕組みのことだ。Blockによれば、Dessaは「うん」「なるほど」といった相づちを入れるタイミングや、割り込むべき場面を学習しているという。
GB200 NVL72は、NVIDIAのAI向けGPUを72基つなぎ、1台のラックにまとめた装置だ。Blockは、学習をこの1台で行ったと書いている。
Blockが書いたことと、書いていないこと
公式ページの記述を、自己申告の主張と、載っていない情報に分けて並べた。右側の列が長いことが、この発表の現状をよく表している。
| 項目 | Blockが書いていること | 書かれていないこと |
|---|---|---|
| 学習データ | 人間の会話の音声のみ。文字データも既存モデルも使っていない | 音声の総時間、収集元、権利処理 |
| 学習の効率 | 言語モデルより「数百分の一」の単語数で言語を学んだ | 具体的な単語数、比較の方法 |
| 計算資源 | NVIDIA GB200 NVL72を1台 | 学習にかかった期間、パラメータ数 |
| 応答の速さ | 実時間より速く動く(M4 Max以上のMacBook Proで手元実行) | 返事が始まるまでの遅れのミリ秒数 |
| 会話の質 | 感情・皮肉・笑い・割り込みを扱える | 性能試験の結果、他社の音声AIとの比較 |
| 入手 | 研究者向けの先行提供と、一般の待機リスト | 重みの公開、API、価格、対応言語、公開日 |
Blockは自分たちの成果を、文字ではなく人間の話し声だけで学んだ、実際に会話できる最初のAIだと位置づけている。ただしこれは「当社の知る限り」という前置きつきの自己申告だ。
公式ページ自身も、わかっていないことを研究課題として並べている。音声だけで学ぶ方式は、文字から学ぶ方式に比べて、言語や知識の覚え方がどれほど効率的なのか。新しい言語をどれだけ速く覚えられるのか。文脈から学ぶ力(in-context learning)はどこまであるのか。この3点はまだ答えが出ていないと、Block自身が認めている。
Dessaは使えるのか──入手方法と動かす条件
結論から言えば、10月26日の時点で一般の利用者がDessaを使う手段はない。
申込みフォームは、大学・企業・研究所の所属を示すメールアドレスを求めている。目的は、開発チームが想定していない危険を外の研究者に探してもらうことだとBlockは説明する。
ページには待機リストの登録欄がある。公開のリンクは「近日公開」とされ、時期は示されていない。
手元で動くと書かれているのは、M4 Max以上のMacBook Pro。対応機種の一覧は出ていない。
日本語に対応するかどうかも、公式ページからは読み取れない。載っているのは「新しい言語をどれだけ効率よく覚えられるかは研究課題」という一文だけだ。日本語で使うことを考えるなら、少なくとも現時点では判断材料がない。
公開された会話の録音に映っていたもの
Blockは、Dessaが自分で言葉・間・声色を選んで話したという録音を複数公開した。字幕は後から付けたもので、台本はないとされる。笑いながら話す、声の大きさを変える、相手の文を先回りして言い切る、ニュースを聞いて感情を見せる、といった場面が収められている。
録音のうち一部は、OpenAIの音声モデル「GPT-Live-1」と会話させたものだ。ページには、GPT-Live-1の開発元はBlockと無関係で、Dessaを推奨しているわけでもないという断り書きがある。
ここで押さえておくべきなのは、録音はBlockが選んだものだという点だ。取材したメディアも、現時点では外部による評価は出ていないと書いている。Gizmodoは、お題当てゲームでDessaが正解を出したあとも、勝ったと告げられても推測を続けた場面を紹介した。公開された録音の中にも、完成品とは言いにくい挙動が見えるということだ。
いまの音声AIを選ぶ人にとっての意味
AIの音声機能は、すでに複数社が毎月のように更新している。ChatGPTの音声は10月にGPT-Live-1.1へ切り替わり、日本語の新しい声と利用時間の上限が決まった。詳しくはChatGPT音声がGPT-Live-1.1にで整理している。xAIは10月14日にGrokの音声モデルを更新し、その成績はGrok Voice 3.0の記事にまとめた。Geminiの音声はGemini 3.8 Liveが9月に出ている。
これらの比較では、「どれが賢いか」に加えて、返事が始まるまでの間、割り込んだときの反応、日本語の自然さが実際の使い心地を分ける。Dessaが問題にしているのは、まさにこの会話の手触りの部分だ。
乗り換え先として検討できる状態にはない。Dessaは製品ではなく研究の発表で、料金・対応言語・提供開始日のいずれも決まっていない。
APIも重みも未公開のため、組み込み先の候補にならない。見るなら、公開時に出る遅延の数字と、使用条件の2点だ。
先行提供の窓口が開いている唯一の層。所属機関のメールアドレスで申し込める。
編集部の見立て
Dessaの発表でいちばん興味深いのは、性能そのものではなく、問いの立て方だと考えます。ここ数か月、各社の音声AIは、声の種類や速さ、価格を競う形で更新が続いてきました。Dessaは、会話の土台に文字を置かなくても会話が成立するのか、と正面から聞いています。
ただ、いまの材料で言えるのは、問いが面白いところまでです。性能試験も、他社との比較も、遅延の数字も出ていません。Blockが自分で選んだ録音は印象的ですが、録音は録音であって、毎回同じ品質が出る保証にはなりません。「世界初」という位置づけも、外部の検証が付いて初めて評価できるものです。
音声AIを選ぶ読者にとって、今日の行動は何も変わりません。変わるのは、これから公開される情報の読み方です。Dessaについて遅延の数字、他社との比較、日本語の対応が出てきたとき、初めて選択肢として並べられます。それまでは、研究が一本増えたという位置づけにとどめておくのが妥当です。
まとめ
2026年10月23日、Block(旧Square)のAI研究チームが音声AI「Dessa」を発表しました。人間の会話の音声だけでゼロから学習し、聞きながら同時に話せる「全二重」の音声から音声へのモデルだとされています。
学習に使ったのはNVIDIA GB200 NVL72を1台で、M4 Max以上のMacBook Proで手元実行できると説明されています。一方で、性能試験・論文・重み・価格・対応言語・公開日は、公式ページに記載がありません。
使えるのはAI安全の研究者への先行提供だけで、一般向けは待機リストの段階です。公開された録音はBlockが選んだもので、外部による評価も出ていません。
いまChatGPT・Grok・Geminiの音声機能を使っている人にとって、乗り換えを考える材料はまだありません。
公式ページに「近日公開」とされている公開リンクが開くとき、遅延のミリ秒数と対応言語の欄が埋まっているかどうかが、この発表が研究止まりかどうかを分けます。